第796話 ヨラン王の贈り物

 戦闘訓練の見学を終えてから、数日。

 オレは飛行島に設けられた城のような館でゴロゴロしていた。

 ちなみに飛行島は、ピッキー達の村からさほど離れていない場所の上空を浮いている。

 理由はいくつかあって、一つはピッキー達のため。せっかくの機会なので、十日くらいはゆっくりして欲しいと思ったのだ。

 そして、もう一つは王様からの手紙。この地の領主リオカナウドの元に、ヨラン王から命令があったそうだ。要件は、オレの足止め。なにやら、オレに渡すものがあるらしい。

 ちなみにオレのところにも、トーク鳥が飛んできていた。

 しかも3匹。手紙を送るトーク鳥に、そのトーク鳥を護衛するためのトーク鳥が2匹。それで計3匹だ。

 オレあての手紙は、ノアの制服を送るというもの。スプリキト魔法大学にノアは行くことになっているが、その制服が出来上がったので送ってくれるらしい。受け取った後は、適当な領主に針子を手配させて、微調整をするようにとの内容だった。

 そういうわけで、別に急ぐ理由もないし、のんびり過ごすことにした。


「ポテチを塩味で、あとは……ソーダを」


 自室で寝っ転がったオレは、そう言って神から貰ったハンドベルを鳴らす。

 ガランガランという音色がして、テーブルに揚げたてのポテトチップと、ジュースの注がれたジョッキが出現する。


「まぁまぁ……今日のポテチは90点か」


 漫画本を片手にポテチを口にしたオレは、神々の仕事に満足する。

 ここ数日の日課だ。ポテチを食べつつ漫画を読む。ポテチ程度なら、神々に拒否られたり取り引きを持ちかけられてもノーダメージだ。ゴチャゴチャ言われるなら、ポテチを諦めたらいい。余裕があるときこそ神の力。これぞ力の有効活用。我ながらナイスアイデア。

 こうして過ごす何事もないのんびりした日は最高だ。


『パタパタ』


 だらだらと過ごしていると、足音が聞こえた。

 軽い感じの足音だ。多分、ノアだろう。


『コンコン』


 足音は大きくなって、扉がノックされた。

 扉を開けると、スプリキト魔法大学の制服に身を包んだノアが立っていた。

 ついでに、明るい青色の襟巻きをしたカーバンクルも横に立っている。きっと制服に合わせて作ったのだろう。その青い襟巻きは、黒いオコジョといった外見のカーバンクルに似合っていた。


「おっ、届いだんだね」

「うん。ブルッカさんが持ってきてくれたの」


 ノアがくるりとひとまわりして見せてくれた。カーバンクルも、やや遅れて同じようにひとまわりする。


「似合う似合う」


 パチパチと手を叩くと、ノアはとても誇らしげに笑った。

 そういえば、ノアはスプリキト魔法大学に行く予定だったな。

 なんか思いつきで連れ回して悪いことをした。荷物も届いたようだし、ここの領主に挨拶をしたあとは、スプリキト魔法大学へと行ったほうがいいかもしれない。


「あのね、リーダ。フラケーテアさんがね、みんなと一緒にお出かけしながら、学校にも行ける素敵なことを思いついたんだって」


 オレの考えを読んだように、ノアが両手をあげていった。


「それはいいね」

「でね、今、ママ達とブルッカさんが打ち合わせしてるの」


 歩き出したノアにうなずいて、一緒に広間へと行くことにした。

 自由にあちこちに行きながら、スプリキト魔法大学に行けるのであれば、それが一番いい。もっとも、ノアはさらに忙しくなりそうだな。


「あっ、リーダ!」


 そうしてノアと一緒に広間へとすすんでいると、途中の部屋の扉からカガミが顔をのぞかせオレを呼んだ。


「どうかしたのか?」

「ちょっと、みてもらいたいものがあるんです。王様から預かったんですけど……」


 王様……ヨラン王から? なんだか嫌な予感がする。


「急ぎ?」

「えぇ、まぁ、忘れないうちにみてもらいたいと思います」


 そうこうしていると、広間から「ノア」とレイネアンナの声がした。


「先に行くね」


 その声に反応してノアがパッと駆けていく。

 ノアの言っていた素敵なことというのが気になるが、しょうがない。


「で、一体なんなんだ?」


 先にカガミの要件を片付けることにした。

 彼女が顔をのぞかせていた部屋へと入ってみると、同僚達にロンロとイオタイトがいた。

 そして奴らは、大量の肖像画をみていた。部屋のテーブルに山と積まれた大量の肖像画を。


「ノアの許嫁の件は終わっただろう」


 まったく、こいつらときたら性懲りもなく、また妙な肖像画に惑わされてやがる。


「違うんです」


 抗議の声をあげたオレに、カガミがそう言って説明を始めた。

 今朝のことだ。ブルッカがヨラン王の命令でいろいろな品物をもってやってきた。

 ちなみに彼女も黒騎士だ。表向きは図書ギルド職員の彼女だが、その真の姿は黒騎士で、黒豹を模した魔導生物をはじめとした多種多様な魔道具を扱う。

 その彼女が、ノアの制服などと一緒に持ってきたのが大量の肖像画。これらは全部、オレの結婚相手の候補……らしい。


「ちょっと、それは……」

「リーダが舞踏会から逃げたから、しょうがなかったらしいよ」


 オレの困惑を、ミズキが一蹴する。


「ブルッカさんが言うには、貴族の人たちに詰め寄られた王様が、肖像画をリーダに見てもらって、そのうち訪ねるからって約束したらしいっス」

「そんな勝手な……それにその言い方だと、まるでオレが悪いみたいじゃないか」

「いや、リーダ、だいたいお前が悪いだろ」

「リーダの代わりに審査する私達も大変なのよぉ」


 サムソンが半笑いでオレを避難し、ロンロが適当なコメントであとに続く。

 なんてやつらだ。他人事だと思いやがって。

 部屋の奴らの身勝手さを前に、オレは口をへの字に曲げた。

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