第696話 いせきのひみつ

 村に着くとオレ達は歓迎された。

 多くの村人と一緒に村長が迎えに出てくれて、自らの屋敷に招いてくれた。

 年期を感じる石造りの屋敷だ。壁に沢山の紙が貼ってあったり、本が目立つ様子に、学者の家といった印象を受けた。

 おひたしに似た料理が出てきて、それをおやつ代わりに食べながら現場について話を聞く。


「皆様の手紙にあった通りのお方ですね。南方でも同じような遺跡を見たことがあるということで、地底湖にボートを浮かべて進めたところ、未発見の遺跡を発見しました。村中が大騒ぎしましたよ」


 村長は上機嫌でヒンヒトルテの活躍を教えてくれた。

 地底湖の先に二つの新しい遺跡を発見したこと。そのうち一つは見たことが無い魔導具が連なる不思議な通路だったらしい。


「すまない。ずっと遺跡に潜っていた」


 村長の話を聞いている途中で、ヒンヒトルテが息を切らせて部屋に入ってきた。

 大柄な熊の獣人であるヒンヒトルテがドタドタと入ってくる姿は、なかなかの迫力がある。


「まだ日が高い。もし皆さんがよろしければ、これからご案内しようかと思うがいかがか」


 挨拶もそこそこに、ヒンヒトルテが提案する。

 ずっと海亀の上で快適な旅をしてきたので、オレ達は体力が有り余っている。

 一も二もなく了承する。

 それからヒンヒトルテの案内で遺跡の中に入っていく。以前にも訪れたことがある遺跡だ。

 彼の後をついていくと、小さな扉がある部屋へとたどり着いた。


「なんかさ、ここって懐かしいよね」

「そーっスね。むちゃくちゃトロールがいて追いかけられた思い出があるっス」

「火柱でゴーって」

「大変だったですけど。今となってはいい思い出だと思います。思いません?」


 皆が口々に、部屋の感想を口にする。

 確かに皆の言うとおりだ。たくさんのトロールに追いかけられて、火柱の魔法で一網打尽にした。思い出深い場所だ。


「この先に進むことになる」


 小さな扉の前に屈んでヒンヒトルテが言う。

 彼の大きな体はいくらかがんでも扉をくぐり抜けられそうにない。

 そう思っていたら、彼は扉に手をつき何かぶつぶつと呟きだした。

 その扉は魔法の起動装置だったらしい。

 つぶやきが終わると、部屋の中央に青白く輝くトロッコが出現した。


「こんな仕掛けがあったんスね」

「壊れていたが、幸い大きな問題ではなかった。皆さん乗るといい」


 彼のアドバイスに従ってトロッコに乗り込む。

 トロッコの中には椅子が設置してあった。トロッコの壁面に沿って二脚ずつ椅子が並ぶ様子はバスの座席を彷彿とさせる。

 みんなが座ったのを確認して最後にヒンヒトルテが乗り込んだ。

 するとトロッコは、部屋にある小さな扉をめがけて滑るように動き出した。

 扉はトロッコが進むにつれて次第に大きくなっていく。


「小さくなってく」


 オレの隣に座ったノアがトロッコから外を見て声を上げる。

 確かにノアの言うとおりだ、扉が大きくなっていたのではなかった。

 オレ達が小さくなっていたのだ。

 扉はフッと消えて、トロッコは先に続く下り坂を滑り降りる。

 静かに加速し滑り降りるトロッコは、坂の先にあった地底湖へバチャンと水音を立てて浮かんだ。

 ほんの少しだけ水を被ったが、トロッコに浸水する事は無かった。


「僕も手伝うっスよ」


 地底湖にトロッコが飛び込んだ後、ヒンヒトルテがオールを取り出したのを見てプレインが声を上げる。


「では頼もう」


 トロッコの前方から、ヒンヒトルテが取り出した青白く光るオールを受け取り、プレインとヒンヒトルテがトロッコを漕いでいく。ボートのように安定して浮かぶトロッコは、スーッと水をかき分け進んでいく。

 ウィルオーウィスプが作り出す光によって、ほんのり照らされた地底湖は、静かでヒンヤリとしていて夜の海にも似ていた。


「少し右に曲がってそれから真っ直ぐだ」

「魔法で、自動的に動いても良さそうなんだがなぁ」

「この作業員用ボートは、定まった場所には自動で進むようにはなっている。だがこれから行く場所は、そういった対象にはなっていないのだ」


 サムソンが何気なく口にした疑問にヒンヒトルテが答えた。

 それからしばらくトロッコを漕いでいくと地底湖の端が見えてきた。

 端の壁面から腕が伸びていた。

 特撮もので出てくるロボットの腕を思い起こさせる、立方体を組み合わせた腕だ。

 腕の袖口に入り口が見えた。


「あれが入り口?」

「そうだ。計画にあった。巨大ゴーレムの腕であり、入り口でもある。手紙に記したようにあのゴーレムは人が乗り込んで操作をするのだ」


 見える部分だけで、相当な大きさ。小さなビル程度の高さだ。

 オレ達の乗ったトロッコは、水面を静かに進み、袖口に向かって吸い込まれるように進む。

 こうして、オレは……オレ達は超巨大ゴーレムにたどり着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る