第478話 おーがめいじ
啖呵を切ったハロルドは、剣を無造作に振りながら、オレに近づいてきた。
オレを攻撃していた2人の騎士は、さっと身をかわし、ハロルドの剣から逃れる。
だが、ハロルドは止まらない。
そのままこちらに向かって突き進み、まるでオレを狙うように剣を振るう。
『ドォン』
小さいがはっきりとした爆発音が響いた。
ハロルドの剣は、オレが背にしていた壁に突き刺さり、直後、壁が爆発したのだ。
「さあ、逃げるでござるよ」
そして、ガラリと崩れる壁の向こうを剣先で示し、ハロルドは叫ぶ。
了解とばかりに、部屋から外に出た。
そこから先は、ハロルド任せだ。
進むべき方向などわきまえているとばかりに、ハロルドが壁を壊し進み、直線距離で屋敷から脱出をする。
「追うのオです!」
だが、相手も放っておいてはくれない。
ピエロ姿の、ヒステリックな金切り声が背後で聞こえた。
それに応じるように何人もの女性が出てくる。
ここにはナセルディオと、ピエロ姿の男以外は全員女性しかいないようだ。
「助かったよ、ハロルド」
「なんのギリギリでござった」
走りながらサムソンが、リスティネルに援軍を求めに行ったこと、ミズキが茶釜に乗って待機していることを聞く。
「ミズキ殿!」
屋敷の敷地と外を隔てる鉄柵が見えてきたとき、ハロルドが大声をあげる。
「リーダ! ハロルド!」
ミズキが茶釜に乗って近づいてくる。
巨大ウサギである茶釜が、飛び跳ね進む様子は、まさしく爆走という勢いだ。
ガゴンガゴンとけたたましい音をさせて、茶釜は荷台を引いていた。
ハロルドは前に立ち塞がる兵士を剣でなぎ払いすすむ。
それとほぼ同時に、鉄柵のあったあたりが陥没した。
ノームだ。
土の精霊ノームが鉄柵の土台が乗った地面をへこませたことで、高い鉄柵が一気に低くなった。
そうして低くなった鉄柵をドンと音を立ててハロルドが飛び越える。
オレも、ハロルドに習って鉄柵を飛び越えた。
「乗って!」
オレ達に向かって走る茶釜に乗ったミズキが叫ぶ。そんな彼女に頷き、ハロルドはノアを抱えたまま飛び乗り、そしてオレも後に続いて飛び乗った。
『ドン、ガン! ガタタン! ガゴン!』
音を立てて荷台が大きく上下に揺れ、茶釜が引く荷台が疾走する。
「やっばい。追ってきてる」
ミズキがチラリと振り向いて声をあげる。
追ってきているのは白い鎧姿、あと得体の知れない何かだ。
ドスンドスンと大きな音を立て、足跡だけが所々に現れる。
「なんだ、あれ?」
「おそらく透明化の魔法を使った状態の魔物でござろう」
「前にも!」
ミズキが大声をあげ、槍を構える。
見ると前を通せんぼするように何人かの兵士が向かってきていた。
「突っ切るよ!」
ミズキが槍を振り回して、兵士をなぎ倒しつつ突き進む。
「リーダ! しゃがむでござる!」
ハロルドが大声をあげる。
しゃがみ込んだ瞬間、オレの頭があった場所に、ブゥンと音を立てハロルドの剣が通過した。
『ズガン』
そして、火花が散る。
「ぬおぉぉ」
ハロルドの雄叫びが聞こえ、一瞬、巨大な手が見えた。銀色に輝く手。
思った以上に接近していた魔物の攻撃を、ハロルドが剣で防いだのだ。
「危ない」
ノアが言うが早いかオレの服を引っ張る。
急に引っ張られたオレは、バランスを崩し荷台に倒れ込み、頭を打つ。
だが、ノアの対応は正解だった。
荷台の端に、1本の矢が刺さったのだ。
しかも、七色に輝く普通の矢よりも長い矢。
ノアが引っ張ってくれなければ、当たっていたかもしれない。
その矢は唖然としたオレの目の前で、キラキラと輝き消えた。
魔法?
いや、今はそんなこと考えている暇はない。
「ミズキ!」
「何?」
「町から出るぞ」
「そのつもり!」
短いやり取りのあと、慎重に立ち上がる。
苦しい状況は続く。
先ほどの矢を放ったと思われる人影は見つけられない。
そして、追いかけてくる白い鎧姿達は数が増え、加えて透明な魔物の追跡は続いている。
しかも、この荷台。
大きく揺れる。
ガタタンガタタンと大きく揺れる荷台に、片手でも掴まっておかなければ、投げ出されてしまう。不安定な足場での戦いが、より状況を悪化させていた。
「まずいでござる」
逃げながらの戦いが続く中、ハロルドが叫び声をあげる。
「どうした?」
「火球の魔法でござる! あの練り込み、相当な威力でござるな。拙者がおりて……」
「ダメ!」
降りると主張するハロルドにノアがダメだと大声をあげる。
確かに、この状況でハロルドが降りて、無事で済むとは思えない。
だが、火球の魔法を喰らってしまったら、不味いのも事実だ。
いや、手がある。
オレはとっさに、魔壁フエンバレアテを使うことを思いつく。
古代兵器である、巨大で分厚い鉄板の集合体。
あれを壁にして、火球を防ぐのだ。
すぐに影から数枚の鉄板を浮かび上がらせる。
「ノア、オレの足を支えてて」
そう言って揺れる荷台に立って両手を動かし、鉄板を操る。
だが、うまくいかない。どうしても、揺れる荷台の上では繊細に手を動かせないのだ。
何度も何度もバランスを崩し、魔法の鉄板は右へ左へと大きく動き、店の壁を壊したりした。
それを見かねてハロルドがオレの肩をぐっと掴む。
「拙者が、リーダを支えるゆえ、奴の魔法を頼む」
「了解」
ハロルドがうまくバランスを取ってくれる。
一方の手でオレを支え、もう片手で襲い掛かってくる白い鎧姿達の攻撃をさばく。
おかげで魔壁フエンバレアテを上手く制御し、火球の魔法を遮るように、巨大な鉄板を設置することができた。
『ガゴォォン』
爆音が響き、辺りが一瞬赤く色づく。
その威力はすさまじく、鉄板の二枚が吹き飛ばされるほどだった。
「威力が、すさまじい」
「そうでござるな。相手の正体は、おそらくオーガメイジでござる」
「オーガメイジ?」
「魔法使うことができるオーガでござるよ。しかも、おそらく二つ名持ち。どうやって手懐けたのやら」
ハロルドは忌ま忌ましげに叫びつつ、片手で巨大な剣を振り回す。
白い鎧姿達は相当の手だれだ。
ナセルディオの元を立ち去る時に、オレはガーゴイルがジャルミラというやつに倒される瞬間を見た。
つまり、あのジャルミラというやつは、ガーゴイルよりも強い。
そう考えると、同じ鎧姿を2人同時に相手しているミズキも相当強くなってるということだ。
町の周りに大きな被害を出しながらも、オレ達は茶釜の全力疾走に引かれ、逃げながら進む。
「門が見えてきた!」
ガゴンガゴンと大きな音を立てる荷台に負けないくらい大きな声で、ミズキが嬉しそうな声を上げる。
「門を閉めなさい!」
それと同時に、ハロルドと打ち合っている白い鎧姿の声が響いた。
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