第456話 みかえしてやろう

 予選に際して、条件がいくつかある。

 沢山作れること。

 不当に安く売らないこと。

 そして、他店と被らないこと。


「ありえない。ありえない。あれは私のオリジナルだ……だって、それを」


 イスミダルは、ネタかぶりというコメントを受けて酷くショックを受けていた。

 意気消沈して皆でもどる。


「どちらにしても、やり直しましょう」

「そうだよ。兄ちゃんは賢いんだから、別のも作れるんだろ?」

「あ……そうだな。だが、お菓子をつくる工房も、店先も破壊されている。門構えだけでも、直さないと……それに、あの調理場では、作れる物は限られている」

「えぇ。えぇ。でも。門構えは急いでもらって、支払いは待ってもらって、調理場も」


 見ていて気の毒になるな。


「ピッキー達にお願いしたら……」


 そんな意気消沈する2人の後をついて歩く途中、ノアが小声で提案した。

 確かに、大工ならオレ達の無理難題も叶えてくれるピッキートッキーの2人がいるな。今なら、ハイエルフの大工トゥンヘルまでいる。


「そうだね、相談してみよう」

「そうそう、台所なら、うちをつかう?」

「え?」

「ここだけの話さ、ちょっとした事情があって、町の外に住んでるんだよね」

「そうっスよ。大量に料理を作るための設備あるっス」

「それは……」

「まぁまぁ、見るだけ見てよ」


 意気消沈する2人に対して、ミズキとプレインが半ば強引に話を進める。

 それから、一旦は飛行島にある家を見て貰うことになった。

 調理にかかる設備は、ラーメンを大量生産したときの物を影から取り出してみせた。


「これなら、いけます」


 イスミダルが、台所の設備を注意深く見て断言した。


「えぇ」


 ラテイフも、イスミダルの言葉に強く頷き同意する。


「なんで、こんな凄いのがあるんだ」


 彼女の弟であるサラムロも、口では偉そうだが満面の笑顔だ。

 ずっと沈んでいた3人だったが、少しだけ気を取り直してくれた。


「3日か……内装までは無理だが、店前だけなら大丈夫だ」


 トッキーとピッキーから、状況を聞いたトゥンヘルも前向きな返事をくれる。

 つまり、売り場も、調理の条件もクリア。

 あとは、売る品物だ。


「私達も魔法で手伝うからさ、すっごい物作って、邪魔した奴を見返してやろうよ」


 ミズキがダメ押しとばかりに2人へ発破をかける。


「そうですね。今なら、この設備なら、いろいろな菓子を作れそうです」

「あぁ。これなら何とかなりそうだ。さっそく残っている材料を見に行こう」


 2人の案内で向かった先は、超巨大な木造の倉庫といった風貌の建物だった。


「菓子職人ギルドが、町のいくつかのギルドに協力してもらって運営している臨時の市場なんですよ」


 入り口側にある、巨大な立て看板を指さしながら、ラテイフが言う。

 看板の近くには、沢山の馬車が止めてあり、荷物を運ぶ人足達が沢山いた。

 中に入ると、あちらこちらに大きな木箱が置かれていて、どっさりと食材が積まれている。

 プロ御用達の市場か。

 広大な敷地に、飾り気のない具材がずらりと並ぶ。

 お客さんは少ないが、店の人とのやり取りに熱がこもっていて、プロとプロの勝負といった感じだ。

 来ただけでテンションがあがる。


「ヘーテビアーナに向けて、いろんな食材が置いてあるのです。ここにある品物だったら、まとまった数を仕入れることができます」

「あの、海藻も?」

「あるかもしれませんね。実のところ、珍しい食材だと思って去年に仕入れの約束したんですが、どうやら帝都で南方の料理が流行っていたらしくて……」

「仕入れて届く頃になって、みんな同じことを考えていたことに気がついた?」

「そういう訳なんです。だから、職人がいても、買い手がいれば売って違うメニューにしたかもしれませんね」

「あっ、リテレテ」


 ノアが遠くにある箱を指さした。

 スイカサイズの何度か見た果物。リテレテだ。


「本当だ。リテレテがあるな」

「グラプゥもあるっスね」

「リンゴもあるし……あっ桃もあるんですね」


 他にも見たことの無い食材が一杯だ。

 果物が一杯。


「こんなところにいた。ノアノア、リーダ。そろそろ帰るよ」


 ピッキー達のお土産にとリテレテを買うついでに、適当に果物を買い込んでいると、ミズキが呆れた様子で呼ばれる。


「もう終わったんだ」

「リーダは、また勝手にどっかいっちゃうし。まぁ、ノアノアが一緒だったから安心だけどね」

「リテレテ買ったよ。ピッキー達のお土産にするの」

「いいね。ノアノア。きっとピッキー喜ぶよ」

「単純にお土産目的ってわけでもない。他にも計画があるんだけどな」

「そっか。どうせロクな事じゃないんでしょ」

「ノアとリアクションに差があるんだけど」

「当たり前じゃん。え? リーダ、ひがんでるの?」


 ミズキが凄く楽しそうに、オレをからかう。

 まったく。


「沢山は……買わなかったんですね」


 オレとノアが、皆と合流するとそれほど荷物を持っていなかった。

 どちらかというと、果物をいろいろ買い込んだオレの方が沢山の買い物をしていた。


「とりあえず、今からでも大量に手配できる材料で試行錯誤しようってさ」

「なるほど」

「でさ、店は危ないし、うちに泊まってもらおうと思うんだけど」

「兵士が見ていてくれるって話は?」

「あれって、その日の夜だけだって」


 案外、すぐに撤収したんだな。

 お祭りが終わるまで……いや、祭りがあって人手が不足しているのかもしれない。

 でも、安全を考えると確かにミズキの言うとおりだな。

 あの店にいたままだと、再び襲われかねない。

 部屋も余っているし、大丈夫だろう。

 というわけで、在庫がだぶついていて、なおかつ大量に手に入る材料のあたりをつけることにした。

 そうやって、あたりをつけた材料を使って作れるお菓子を考えることになった。

 ノアとカガミ、それにミズキにプレインはその様子を見学するらしい。

 チッキーは補助要員。

 サムソンは、今日はずっと空飛ぶお家の下で、飛行島を相手に奮闘している。

 オレはといえば、別室で料理。

 見つけてしまったのだ。

 素晴らしい食材達を。

 試さない手はない。

 皆を驚かせてやろうと、こっそり部屋をでて、1人作業を進める。


「あっ。リーダ」


 そんな時、涙目になったノアがやってきた。

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