第426話 ぼうそうするまもの
最初に揺れがあった。
ビリビリと小屋の壁が振動した。
それから人々の叫び声。
さらに次の瞬間、オレ達のいた小屋に何かがぶつかった。
『ダダン……ダン』
何かが海亀の背にある小屋にぶつかった音が、数回、響く。
ノアが急な物音に、小さく飛び上がり、キョロキョロと辺りを見まわす。
「伏せて!」
ミズキが声を上げ、ぼんやり立っていたトッキーの頭を下に押さえつけ、自分も伏せる。
『ガシャン!』
窓ガラスをぶち破り、1匹の鳥が突っ込んできた。
バサバサと狂ったように翼をばたつかせ、鳥は小屋の中を飛び回る。
「なに?」
カガミがうわずった声をあげる。
跳ねるようにミズキが動く。
壁に掛けてある槍を手に取り、飛び込んできた鳥に槍を突き立てた。
「大丈夫」
「なんだったんだ?」
「いや、多分……まだ終わってないぞ」
サムソンの言葉に頷く。
まだ始まったばかりだ。
辺りから聞こえる悲鳴にも似た声を聞き、まだこの騒動は始まりに過ぎない事を感じる。
「カガミ、魔法の壁だ。壁を強くして、この小屋を守るんだ!」
呆然としていたカガミに指示を出し、オレは外に出る。
うわっ!
扉を開け、半身を乗り出した瞬間に鳥が突っ込んできたのが見えた。
『ドン』
慌てて扉をしめて、小屋へと戻った瞬間、扉に鳥がぶつかり鈍い振動を感じた。
今度は慎重に扉を開ける。
足下には、鳥が落ちていた。扉にぶち当たった鳥は泡を吹いていた。
よく見ると、鳥はまるで黒いインクをぶちまけられたようにまだらに黒く色付いている。
眼前にはゴブリンが数体倒れていた。
茶釜が仁王立ちし、その後ろには子ウサギが臨戦態勢といった感じで構え周りを威嚇していた。
あのゴブリンは茶釜がぶちのめしたのか。
いや、茶釜だけではない。
神官達、そして一行の参加者が、ゴブリンと戦っていた。
特にユテレシアが強い。
何かを呟きながら、先が白く光る槍でゴブリン達をなぎ倒していた。
だが、敵はまだまだ増えるようだ。
あたりは砂煙が立ち、視界が悪い。
響く戦いの音が地鳴りのように響く。
遠くに見える森の木々が揺れていて、何かがうごめいている気配が見て取れた。
足下に映る影が|目紛(めまぐ)るしく動き、見上げると、鳥が空一面に、数え切れず飛んでいる。
「リーダ様! ノアサリーナ様を外に出さないように!」
戦っている神官のうち一人が、外にでたオレに向かって声をあげる。
「魔物の暴走です!」
そして、また別の神官が叫びながら戦っていた。
魔物の襲撃は、以前にもあった。
暴走。
確かに、今回は雰囲気が異常だ。
襲撃ではなく、暴走。
そう言われても納得できる。
「死に忘れです!」
「全部が全部ではありませんが! 死に忘れです」
次々と神官が叫ぶ。
魔神の呪いにより、死を忘れた魔物。
死に忘れ。
神官の手助けがなければ倒すこともままならないと言われる存在だ。
よく見ると神官達はばらけて戦っていた。
白く輝く武器を振るい一回殴りつけるだけで、追撃は他の人に任せていた。
あれが、神官のやる浄化なのだろう。
浄化した後は、神官以外の人に戦いをまかせ、自分は次の死に忘れへと挑んでいた。
効率を重視した手慣れた動きは、この混乱の場にあっても安心できる。
魔物の暴走。
その混乱はすぐに収まった。
瞬く間に空を飛ぶ鳥は打ち落とされた。
そして、走り寄ってきた、ゴブリンや訳の分からない魔物の集団は制圧された。
神官達の強さはもちろん、各地の諸侯が送り込んだ戦士や騎士達は想像以上の強者揃いだった。
混乱は収まっても戦いは続く。
戦いはこちらが優勢なままダラダラと続いた。
だが、まだ終わりではない。
「油断しないでください! 備えてください! まだ大きな三つの集団がこちらに向かってきています!」
馬に乗ったユテレシアが、大声を上げながら、警戒を促し走り回っている。
その言葉のとおり、すぐにまた鳥の集団が突っ込んでくる。
だが、今度はオレ達も準備ができている。
魔法の矢で落ち着いて迎撃。
「先ほどの倍はいるぞ!」
「戦えぬ者は下がれ! 身を守れ!」
先程よりも死に忘れの数が圧倒的に多い。
「神官! 神官!」
あちこちで神官の浄化を求める声が飛び交う。
よそ見をしている暇はない。
『ドォン!』
大きな音がして、バラバラと木片が飛び散り、コツンと肩に木片が当たった。
音をした方が反射的に見ると、海亀の背にある小屋の屋根が一部破壊されていた。
やったのは魔物ではない。
茶釜が海亀の背を駆け上り、屋根を踏み台に大きく飛び上がったのだ。
何だ何だと思っていたら、その原因はすぐに分かる。
「茶釜の子供がさらわれた!」
「子供?」
「ノアノアを狙ってたんだけど! ノアノアが反撃して、それから茶釜の子供にターゲットを変えて!」
ミズキがオレに説明する。
「ノアちゃん!」
次にカガミの叫び声が聞こえた。
それに続き、クローヴィスが空高く舞い上がったのが見えた。
背にノアを乗せて、垂直に一気に飛び上がる。
茶釜の子供がさらわれて、ノアとクローヴィスが助けにいったのだろう。
今からでは間に合わない。
しばらくすると、クローヴィスが一匹の魔物を追跡する姿が見えた。
先回りして追い込み、こちらへと誘導するつもりのようだ。
「魔法の矢で援護だ! ノアとクローヴィスに近づく魔物を攻撃するんだ」
オレを見てオロオロとしていたカガミに声をかける。
「死に忘れが! 増えている!」
「浄化を! 浄化を!」
他の神官とユテレシアが怒鳴り合うように状況を話している。
襲撃の第2派を受けて、再び混乱し始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます