第377話 だっかん

 当初の予定通りの場所へとたどり着く。

 そこは土が盛ってあるだけの何もない空き地だった。

 少し見上げて目をこらすと、チッキーが捕まっている屋敷が見える。

 もっとも見えるのは、屋敷の窓からもれる光だけだ。

 これが昼間であれば、建物の輪郭も十分みることができるだろう。


「それじゃお願いっス。こっそりとやるっスよ」

「てやんでぇ」


 プレインの言葉に、ノームは手に持ったツルハシを大きく振り回す。

 それから「てやんでぇ」と何度かつぶやくように鳴きツルハシを振るった。


『ドォン』


 微かな爆発音がして、足下に大きな穴が開いた。

 大人2人が並んでも余裕な大きさの穴だ。

 ご丁寧に階段付きだ。

 コツコツと階段を下りると自動的に明かりがついた。

 ウィルオーウィスプがやってくれたのだろう。

 まるで土壁の地下道を歩いているような感覚だ。

 そのままトコトコと、湿っぽい土の洞窟を歩いて行く。

 救出に向かうメンバーはオレとノア、そしてカガミにミズキだ。

 プレインとサムソンには、トッキーとピッキーの2人と一緒に海亀に残ってもらった。

 ノアはハロルドの呪いを解くため。

 そして、カガミは遮音の壁を作って貰うため。

 ミズキは、なんだかんだ言って強いしな。

 このメンバーなら、大抵の事態でもなんとかなるだろう。

 オレ達の先頭を歩くのはノーム。

 ちっこいツルハシをもったモグラ。

 そんな外見をしたノームが二本足で跳ねるように進む後をついていく。

 ノームがツルハシをふいっと振り回す度に、トンネルが掘り進められていく。

 そして特に何事もなく、しばらく歩くと、突如ノームはオレ達の方に振り返り「てやんでぇ」「てやんでぇ」と言いながら、ツルハシを大きくぶんまわした。


「到着したのかな」

「チッキーは、どこにいるの?」


 ノアの問いかけに、ノームは一回転してから、ツルハシを小さく地面に打ち付けた。

 すると行き止まりの土がポロポロと崩れ、灰色の石が姿を現した。


「この向こうがチッキーのいる部屋か」

「てやんでぇ」


 オレの言葉に、ノームは小さく鳴くと首を縦に振った。


「じゃあ、とりあえず適当に魔法の壁で覆います」

「この壁を無視して、魔法の壁で覆えるの?」

「大丈夫ですよ」


 カガミに任せておけば大丈夫そうだ。

 それからカガミは、ロンロに少しだけ質問して、部屋のサイズを推測した後、壁を作る魔法を唱える。


「とりあえずこれで大丈夫だと思います」

「それで、この壁はどうするの?」

「ぶっ壊すよ」


 ミズキの質問に軽く答え、影から壁を壊す道具を取り出す。

 ずいぶん昔にガラクタ市で買った物だ。


「それは?」

「破城槌っていうらしいよ」

「はじょうつい……でしたか」

「なんでも、大型の魔物に打ち付けたり、堅く締められた扉を破壊する時に使うんだってさ」

「へぇ」

「これは小さいけれど、大きな物だと家一軒くらいの大きさがあるらしいよ」


 聞きかじった知識を披露しながらセッティングする。

 車輪のついた板の中央にアーチ状の木枠があり、そこに丸太が吊り下げてある。

 金属で補強した丸太の先を、今回は石壁にぶち当てる。

 本来なら1人では用意出来ないくらい重いものだが、念力の魔法で簡単に動かすことが出来る。魔法様々だ。


『ドガァン!』


 振り子のように大きく振り上げられた丸太の端が、石壁を大きく打ち付け、轟音と共に壁が吹き飛んだ。


「うわぁ」


 ミズキが引き気味の喚声をあげた。

 思ったより大きな音がでて、オレもびっくりする。


「これ……音、大丈夫だよね? 響かないよね?」

「多分……。思ったより大きな音なので、少し心配になりました」


 多分大丈夫だろうと、オレが一歩部屋には行った直後のことだ。


『ガキン』


 鈍い金属音がした。

 見ると壁の影から、オレを目がけて剣が振り下ろされたところを、ミズキが剣で防いでいた。


「ちぃ」


 オレを攻撃してきた男と目が合う。

 顔に大きな傷跡のある男だ。

 いわゆる悪人面。

 そして、その悪人面は、オレと目が合った直後、苦痛に顔が歪み、倒れた。

 見るとミズキが奴のお腹をぶん殴っていた。


「びっくりしたよね」


 ミズキがなんでもないように笑う。

 オレは笑えない。

 逆にノアは「ミズキお姉ちゃん、すごい!」と大絶賛だ。


「あの、ミズキさん」

「ん?」

「なんでそんなに強いの?」

「慣れだよ。慣れ」


 慣れ……。


「やっぱりアレですか? 漢字四文字で夜露四苦とかやってたんすか?」

「えー。ちがうよ。まったくリーダは何言ってるんだか。こっちに来てからさ、いろいろ修行したの」


 そっか。

 まぁ、いろいろ怪しいところがあるけれど……。

 鍵開けとか……。

 そういうことにしておこう。

 誰もいないかと思っていたが、見張りが1人いたのか。


「では、こやつは拙者が連れて行くでござる」


 オレ達の後からヌッと出てきたハロルドが、ヒョイと悪人面を抱え上げた。


「いつの間に?」

「さっき、姫様に呪いを解除していただいたでござるよ。もっとも拙者の出番はなかったでござるがな。さて、見張りはこやつ一人だけのようでござる」

「そっか」


 今度は安心して中に入る。

 いくつもの金属製の檻が置いてある部屋。

 薄暗く、何かが腐った匂いが立ちこめる部屋だ。

 ウィルオーウィスプの力によって、部屋が明るくなると、檻は6つあった。

 どの檻にも数人の人が閉じ込められている。

 期待して檻の縁へと近づく者。

 逆に距離をとろうとする者。

 様々だ。


「あっ、チッキーみっけ」

「ミズキ様!」


 そんな部屋にある檻の1つがカチカチとゆれ、音がした方をみるとチッキーがいた。

 捕まった直前と変わらない様子で、こちらをみて嬉しそうに笑っていた。

 よかった。無事だ。

 元気そうな様子をみて、安心した。

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