第208話 ぼうそうするべってい

「で、これどうするんだ」


 サムソンが困ったように肩をすくめて言う。

 どうすると言われても、ただの思いつきだ。何も考えずに降りるより、この家を調べる方が楽しいだろうと思いついた。ただ、それだけ。


「とりあえず家の中に入ってみようか」


 近くで見ると、こじんまりとした一軒家。とはいえ結構大きい。海亀の小屋と比べると何倍もの大きさだ。

 それに庭も広い。海亀が余裕で動ける大きさ。地上から見上げた時、ここは楕円形に見えた。家はその端に立っていて、敷地の3分の2以上には緑の芝生と、申し訳程度にたつ木々があった。


「それにしてもさ」


 半開きになった家の扉を覗き込みながら、ミズキが言う。


「ミズキ氏?」

「なんかこう、立て続けに訳の分からないことが起こると、どうでもよくなっちゃうよね。いろいろとさ」

「分かります、酷く冷静な自分がいます」


 確かにそうかも。この世界に来てから、でかいゴーレムは動かすし、でかいドラゴンには脅されて、イカときた。こんどは空飛ぶお家だからな。


「ご主人様達はすごいです」


 トッキーが嬉しそうに賞賛する。

 みると、のんきなのはオレ達だけで、トッキーを始め、ノアも含めて緊張した面持ちだった。

 念の為と、以前作ったゴーレムの魔法陣を使い、小型ゴーレムに先頭を歩いて貰う。

 罠があった時用の対策だ。


「結局、罠はまったくなかったな」


 だが、そんな警戒は必要なかった。

 斥候代わりに先を進むゴーレムは結局のところ、最後まで無事。

 この家の外見は、ギリアにあった屋敷とよく似ていた。そして内装も。

 一通り部屋を見て回る。

簡単に全ての部屋を見て回ることができた。

 こじんまりとした一軒家だ。

 何もない。

 一番物がおいてある大部屋でも、テーブルに椅子だけ。

 あとはガランとした部屋がいくつかあっただけだった。

 内装や、置かれた数少ない家具類から、あの屋敷と同じ頃に作られたものということがわかる。

 部屋の造りは、シンプルだ。

 大部屋が一つ、小部屋が2つ。あとは台所に、風呂場、トイレ。少し別棟になった倉庫。

 大部屋と小部屋の配置は、よく見る物だ。この世界には宿も含めて同じ配置の家が多い。そういえばクイットパースで乗った船も同じように大部屋に小部屋二つだった。何か決まりでもあるのだろうか。

 玄関側にらせん階段があり、そこから二階へと進める。

 二階には2部屋。本棚が備え付けられた部屋。本棚は空っぽで、特に何かの資料が置いてあるわけでもない。あとは大きな窓から外が見える。ここから見える景色は一面海だ。しかし、何処までも続く海に、さらに先に見える水平線は、とても良い景色だ。

 そして、もう一つの部屋。

 以前、ギリアの屋敷にあった祭壇から移動した先、円形の部屋だ。中央に4分割され中央に十時の隙間があるテーブル、その中央にはかつて杖が刺さっていた。

 潮の香りがする隙間風が入ってくる。よく見るとこの部屋だけ、ほとんどが石で出来ている。部屋というより、大きめのベランダといった方がいいのかもしれない。

 風に揺られてカタカタと絵が動くのがみえた。

 オレ達が以前、屋敷からここに来たように、戻ることができるのではないかと手をついてみる。だが、特に反応はなかった。

 壁にも落書きがあるわけでもなし、奇抜なのは4分割したテーブルだけだ。

 これで一通り見て回った。

 特に置いてあるものに、資料というものはなく、本当にガランとした何もない家だ。


「これで全部の部屋を見て回ったっスね」

「さて、どうしよう」

「とりあえず、ジラランドルを呼んでみようと思います」


 カガミが、ブラウニーのジラランドルを呼ぶことを提案した。ギリアにある屋敷の元管理人である彼ならば、この家について、何か知っていることがあるかもしれない。


「そうだな。元管理人ならこの家についても知っているかもしれない。ちなみにロンロ……」

「私は知らないわぁ」


 ロンロが自慢するように知らないと言う。

 ですよねと、心の中で呟いた。


「あとは……スライフ……は、触媒がないか」

「物尋ねの魔法はどうっスか?」


 ジラランドルの事は、カガミに任せ、オレは物尋ねの魔法を使う。

 一番曰くありげな円形の部屋でつかう。いつものように、白黒の立体映像が浮かび上がる。


「いっぱいの獣人だ」


 獣人達が、部屋から荷物を運び出している。

 大量の紙の束を、十数人の獣人が、所狭しと並べられた木箱に詰め込み、バケツリレーの様に運び出している。

 猫の頭をしたもの、狼の頭をしたもの、多種多様な獣人達が作業していた。

 それとは別に、一人椅子に腰掛けていたローブ姿に狼の頭をした獣人が、部屋の端へと歩み寄る。そして、立てかけてあった絵を裏返したかと思うと、そっと撫でた。

 すると部屋の中央にあった円形のテーブルが4つに割れた、そこに手に持っていた杖を突き刺した。それから近くで作業していた獣人の子供に抱きつき、頭を撫でて、外をみやったところで、映像が終わった。


「やっぱり、音が欲しいっスね」


 プレインが、残念そうに言う。

 確かにそう思う。映像の中で獣人達はいろいろと話をしていたのだが、音が無いので何を言っているのかわからないのだ。

 ともかく、この円形の部屋に立てかけてある絵の裏に何かがあることがわかった。

 早速、絵を裏返してみる。

 文字が書いてあった。


『起こす……』『眠る……』『……次な……』『息を……』


 読めるのはこれくらいで、文字がかすれていて何がかいてあるのかいまいち読めない。

 これが、この家を操るヒントなり、制御装置になってくれれば解決だ。

 そう思い、期待しつつそっとかすれた文字に触れた。

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