第十三章 肉が離れて実が来る
第206話 みなとをめざす
ケルワテで地図を買った。
近くの港、ナーボスタスまでジャングルを進む。海亀の背に乗って進む。
ナーボスタス港から船に乗り、1ヵ月近く進めば世界樹のある大平原へとたどりつく。
オレ達は海亀にのって進むが、多くの人は気球に乗って港まで行くそうだ。
さすがに、気球に海亀を乗せることができない。
よって道がクネクネと入り組むジャングルを行く。地図を見ながら進んでいるが、本当に予定通り港につくのか心配になる。
「また虫除けランタンの触媒作らなきゃね」
チラホラと蚊が寄ってきたので、虫除けランタンを使う。しばらくご無沙汰だった怪しい光に包まれる我が一団の再登場だ。
虫除けランタンの触媒になるロウソクは、在庫に乏しいので、また夜なべしての制作を再開することになる。
「めんどくさい……」
「あのね、私もがんばるよ」
「この道をまっすぐ突っ切って海に出てしまえば、海亀が泳いで海岸沿いに港までいけると思うんです。そう思いません?」
カガミが実にすばらしい提案をしてくれる。
ジャングルを通る距離が少なければ、蚊に襲われない。それに、このグニャグニャで本当に正しい道を行っているのか不安になることもない。
「いっそのこと、海亀で渡らない? どうせ急がないんでしょ?」
「海流、激しいらしいぞ。あの監視役が言ってた」
一気に海亀で海を渡るのは無理でも、直線的にジャングルを突っ切り海に出て、海岸線を進むのは良いアイデアだ。
とりあえず、間違いなくナーボスタス港にはたどりつくだろう。
地図を見ると、海岸線までならすぐの距離だ。
「直線距離で海に出よう」
皆、カガミの提案を受け入れ、海岸線まで直線距離を進むことにした。
だが、実際進むと誤算だらけだった。地図を見ると海岸線までずっと陸地だと思っていたがそんな事はなかった。
地図では陸地に見えた途中の道のりは、小さい島々が密集した地帯だった。まるで、陸地を貫く川のように細い海峡がある。ほんのりと潮の香りがしなければ、川だと疑わなかっただろう。
しかも陸地近くの水辺には木が生い茂っている。
「マングローブです。これ。すごいと思いません?」
カガミが嬉しそうな声を上げる。
確かにテレビで見たことある風景だ。
土色に濁った陸地際の水面から生えるように木々が生い茂っている。
まっすぐ突っ切ろうにも、海亀が通ることのできる幅を探しながらになるため、歩みは縫うようにジグザグになる。
後になって思えば、戻るという手もあっただろう。だが、意地になっていたし、それにカガミの言うマングローブが凄く不思議で興味を引きつける景色だった。
「お肉の歌が~、聞こえてくるよぉ~、ジュゥジュゥ、ジュゥ、ジュジュウ~」
なんとなく、手持ち無沙汰になったので、これからのことを考え歌を歌う。
カエルの歌がベースの替え歌だ。
「楽しみだよね。お肉」
「魚、果物ときてるっスもんね」
同僚達も、同じ考えだ。やはり肉が恋しい。
進むにつれ、潮の満ち引きのためだろうか、川のような海峡は消え、沼地で作られた道のようになった。
そうなってくると、潮の香りは消えて、ドブのような匂いがしてくる。
そのうえ困ったことに道に迷ってしまった。途中から、ジグザグに進んでいたからだろう。どちらが海岸線だかわからない。
「誰かが直に上がって道案内をするしかないな」
「クローヴィスにお願いしてみるね」
空から方角を指示してもらうというアイデアに、ノアが具体案を出す。
確かにそれが1番だ。飛翔魔法では長時間飛べない、しかしクローヴィスにノアが乗って上空から支持してくれればいい。クローヴィスは、空を本当に自由に飛べる。楽勝だろう。
「こない……」
そんなわけでクローヴィスの召喚をするため魔方陣を広げて唱えてみたが、魔法陣が光り続けるだけで一向に現れない。
「これって前もあったやつだよね」
「呼び声を待たせるという話だと思います」
待てども待てどもクローヴィスがやってこない。
「あの。おいらたちが気球に乗って案内します」
待ちぼうけを食っていたところ、空からの案内役に、ピッキー達が立候補する。
そうだな。ピッキー達も飛べるのだ。買ったばっかりで試してみたいし、気球であれば長いこと飛べる。
「名案だ。そうしよう」
そんなわけでロープを海亀の背にのった小屋にくくりつけ、気球を打ち上げる。
ふわりふわりと動く気球を見上げて、ピッキー達の案内する方向に進む。
下からみると、3人はずいぶんと楽しそうだ。思い思いに、望遠鏡をのぞいて遠くをみる姿が微笑ましい。
「なんかさ、邪魔しちゃ悪いっぽい」
様子を見に行ったミズキもすぐに戻ってきた。
「お嬢様、このままグルンと回ると、邪魔な木が無くて進めそうでち」
「あっちに大きなトカゲがいます。避けましょう」
しばらく気球からの案内に従い進む。案内役がいるとずいぶん順調だ。
ゆっくり進んでいくと、ようやくクローヴィスが現れた。
勉強が終わるまで遊びに行ってはダメだとテストゥネル様に怒られていたらしい。
どんな勉強をしていたのかを一生懸命に話す。お茶について勉強していたとか。
「僕だって頑張ったんだ」
最後にクローヴィスがそんなこと言って締めくくる。
それからも、川のような島と島の境にある沼地のような海峡を泳いだり、木々の間を縫うように進む。
こんなとき、水陸両用の海亀に乗っていてよかったと思う。
天気のいいなか、相変わらず頭上から響く楽しげなトッキー達の声を聞きながら進む。
オレ達は、地上の木々生い茂る景色を、トッキー達は森の上から見える景色を、それぞれが風景を楽しみながら進んでいたときのことだ。
「ヒャァ!」
チッキーの悲鳴が聞こえた。
見上げると大きな鳥に襲われていた。
ミズキがすぐさま跳ねるように空へ飛ぶ。それから少し遅れて銀竜クローヴィスがノアを背に乗せ飛び上がった。
電撃のブレスと、ミズキの槍。
瞬く間に大きな鳥が退治され地面へと、落ちる。
「少し焦ったよ」
「なんてことないさ。ボクがしばらく護衛するよ」
「わたしも!」
ノアとクローヴィスが、トッキー達と一緒に空を飛ぶことになった。
気球は、機敏に動けないから、空の脅威には弱いのか。
元の世界には、あんな巨大な鳥が居なかったから思いもしなかった。
ともかく、墜落した大きな鳥を引っ張りあげる。
せっかくだから、落ちてきた鳥を、捌いてしまおう。せっかくの鶏肉だ。料理方法を考えることにする。
「ロック鳥っていうんですね」
「ゲームでも出てくるっスね」
確かに聞いたことがある名前だ。もっとも、料理方法なんて思いもつかない。
いつものように黄昏の者スライフを召喚し、捌いてもらう。
「ロック鳥は、ひたすら弱火で焼き続けると良いと聞く」
調理方法を質問するとそんな答えが返ってきた。
「弱火か……」
「これは小型だが、世界樹の近くには大型のもよく現れる。もっとも、あの平原に生きる物は皆巨大だ。大平原では、地に埋めその上で火を焚き続けることで、より美味になると聞くぞ」
意外にも、スライフの口から、これから行く場所の話がでてきた。
「平原は肉料理が美味しいらしいね」
「有名だ。我が輩にはどうでもいいことだが、お前にとっては大事なことだろう。大平原に生きる遊牧民は、巨大な生物を狩り、生業としている。彼らの着る物、住む家、食べる物、その大半が狩りによって得た物だ。ゆえに、料理も熟知している。ゆえに、美味として名が売れるわけだな」
そうだった。ハロルドも肉料理が上手いことで有名だと言っていた。
なんだか、こう色々な人に言われると是が非でも食べたいものだ。
ともかく、まずは目の前の肉をなんとかしよう。
捌かれた巨大な鶏肉と、臓物を前にして、いつものように分け前を渡す。
「では、我が輩に何を望む? 質問か? 行為か?」
「そうだな……」
分け前の対価として、スライフに質問する事柄をどうしようかなと考えていたときのことだ。
「リーダ! 何かが近づいてくる」
「お家だ!」
頭上を飛ぶクローヴィスとノアの声が聞こえる。
「気球を下ろします!」
つづいて、ピッキーの声。
家?
小さな庭付き一戸建て。
見上げるオレ達の目に映ったのは、こちらに向かって落ちてくる、そんな小さなお家だった。
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