第119話 まほうつかいのゆきがっせん

「なんだなんだ」

「面白そうなことやってるっスね」


 サムソンとプレインもやってきた。

 すぐ後ろには、チッキーもいる。

 朝の早い時間。屋敷の全員が一面雪で真っ白な、この場所に集まっていた。


「ミズキ! ノアとチッキーに雪玉作らせるのは反則だからな」

「はいはい。じゃ、今回はバラバラになって戦おうね」


 オレの言葉に、にこやかにミズキは応じ、ノアとチッキーに笑顔でバラバラに戦うことを伝える。


 勝った。


「それじゃ、オレは物量で押し切らせてもらう」


 少しだけドスの利いた声で、皆に宣言する。

 先手必勝。

 服に仕込んだ魔法陣を起動させる。町の人が服に魔法陣を仕込んでいると聞いて、参考にしたのだ。瞬く間に大量の雪玉ができる。大量に出来上がった雪玉に満足し、皆に勝利宣言する。

 やつらが雪玉を作る間に、思いっきり大量の雪玉をぶちあてるのだ。


「冬の大魔道士と呼ばれた、オレの力をみよ!」


 ノリに乗ってついつい適当な台詞が口をついて出る。


「すぐに調子にのってぇ」


 いつの間にか側に近づいていたロンロがあきれたような声でいう。


「あ……」


 カガミの声が聞こえた。

 オレが雪合戦のために準備をしていたことに驚いたようだ。何事も本気なのだよ。


「奇遇だな」


 そんなオレを見て、サムソンが言う。

 彼の足下をみると、オレと同じように大量の雪玉ができていた。


「実はわたしも」


 カガミの足下にも、同じように雪玉が大量にできている。


「みんな同じ事考えるんスね」

「昨日、カガミから教えて貰ったんだよね」


 プレインとミズキの足下にも、同様に大量の雪玉ができていた。

 あれ?

 あっけにとられるなか、ポスポスと雪玉を投げられる。


「オレにばっかり投げるな!」

「冬の大魔道士なんだろ」


 オレの抗議の声は、サムソンによって遮られた。

 なんてことだ、前回と同じじゃないか。

 いや、違う。まだ手はある。

 避けながら、念力の魔法を使う、雪玉をまとめて空へと浮かべ、まずは一番近くにいたサムソンにぶち当てる。


「くらえ!」

「ん? あ!」


 ドサドサと音を立てて、サムソンの頭上へ雨のように雪玉を降り注ぐ。あわれ、サムソンは雪に埋もれた。ざまあみろだ。

 次のターゲットはカガミだ。

 サムソンと同じように頭上から雪玉を振らせようと念力で動かす。


「てい!」


 掛け声と共に、カガミが雪玉を直接投げてきた。


「ぶぐっ」


 雪玉が顔面にあたる。一瞬ピリッとした刺激があり、念力の魔法が中断する。

 カガミに落とそうとした雪玉達が明後日の場所に落ちた。


「うふふ。念力の魔法を使いながら、動き回るのは難しいと思うんです。思いません?」


 あいつの言うとおりだ。念力の魔法を使いながら素早く動けない。しかも、念力で動かす物体はあまり速度がでない。分析されているな。


「あぶ」


 まただ。また、顔面に雪玉をくらう。

 今度はだれだ?

 雪玉が飛んできた方向をみると、プレインがいた。だが、彼はオレをみていない。

 素早い動きで、ミズキと雪玉を投げ合っている。地上を滑るように動き回るプレインと、空中をジグザグに動くミズキがオレを挟んで戦っていた。

 しかも、プレインの投げる雪玉はミズキを追尾しているように見える。

 なんかレベルが違う。


「リーダがんばれー!」

「ミズキ様もファイトでち!」


 キャイキャイとノアとチッキーが皆を応援している。

 笑ってノアに手をふる。


「リーダ」


 大きな声がした方をみるとサムソンが復活していた。

 しかも、大きな真っ白い手がサムソンの両側に出現している。

 その真っ白い手は、一つの雪玉を、お手玉するかのように右手から左手、左手から右手と転がしている。

 みるみるうちに巨大な雪玉になる。

 サムソンの身長を超え、さらに身長の2倍くらいになった雪玉が、こちらに転がってきた。オレを雪玉の下敷きにするつもりだ。


 なんてこと考えるんだ。


 あわてて飛びよける。

 ゴロゴロとオレの側をころがっていく雪玉は、大きさをどんどん増していく。


「あれ、なんかやばくない?」


 地上に降りたミズキが苦笑しつつオレに言う。


「マジか……ちょっとやりすぎた」


 サムソンも驚いた風だ。自分でやったくせに。

 まったく。

 それにしても、皆の動きを見ていると、いろいろと工夫をしているのがよくわかる。

 オレと一緒で、魔法の新しい使い方を試行錯誤しているからこそ、魔法で雪玉を作る発想に至ったのだろう。

 おそらく、他にもいろいろと考えたり、新魔法や道具を作っているのかもしれない。

 その研究を実践する場として、雪合戦はなかなかの状況だとも思う。

 でも、あれはやりすぎだ。目の前の大きくなりながら転がる雪玉をみて思う。

 ゴロゴロと山の斜面を転がり落ちる雪玉。あのまま放っておいたら不味そうだ。

 とっさに電撃の魔法で打ち抜く。

 巨大な雪玉は、バァンと大きな音をして破裂した。


「悪い悪い」


 サムソンが笑顔でオレに近寄ってくる。

 まったく。


「びっくりしたね」

「普通の雪合戦のほうがいいわぁ」

「んじゃ、一旦休憩してしきりなおそ」


 終わってみれば、同僚達は魔法を駆使して雪合戦をしていた。

 ミズキは、思った以上の精度で、飛び回っていた。

 サムソンが以前にも使った巨大な手を作り出す魔法はより動きがなめらかだった。

 プレインとカガミも、そんな二人に渡り合えるレベルで、いろいろな魔法に関する知識と技術を見せていた。

 でも、ノアとチッキーは置いてけぼりだったわけだし、皆で遊ぶのは普通の雪合戦にしよう。

 のんびり皆で楽しむのが一番だ。

 うん。そうしよう。

 休憩に屋敷へともどる途中、チッキーが振り向いた。どこか遠くの一点をみている。

 何かが気になるのだろうか、じっと山の斜面をみていた。


「どうしたの?」


 気になったので声をかける。


「なんだか人の声が聞こえた気がしたでち」

「うーん。気のせいっスよ」

「怖いこといわないで」


 ポンとチッキーの肩を叩き、ミズキが笑顔で言う。


「そうでちね」


 こうして、魔法を駆使した雪合戦は終わった。

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