第67話 そしてみんなが……

「リーダ!」


 ミズキがオレを見て声をあげる。

 気がつけば、獣人達3人もプレインもオレをみていた。

 しゃがみこんだノアを見る。

 腹痛に、視点の定まらない目、何かを言おうとしているが言えない様子。

 そして、エリクサーを飲んでも治らない状況。病気ではないということだ。

 幸いオレにも経験がある。耐えきれない何かによるストレスによるものだろう。

 ノアは何かに気がついた、それが何かは分からない。

 言わないのは、言えないということだ。オレ達にも関わることだと判断したのだろう。

 そうであれば無理に聞けない。

 オレが……オレ達が、ノアのためにできることは、その言えない何かをくみ取り、答えをだすことだ。

 良い結果でなくても、共感できれば大分楽になると思う。

 そうと決まれば、まずは出来ることをしよう。


「ノア……きっと、捜し物に疲れたんだよ」


 ノアに近づき、頭をそっとなでた後、抱えあげベッドに寝かせる。


「チッキー、トッキーにピッキーは、ノアと一緒にいてくれる?」

「わかったでち」

「ノア、少しだけカガミとサムソンに話をしてくるね」

「あのね……いなくなったりしないよね」


 部屋をでる寸前、ノアに消えるような声で質問される。

 いなくなる? どうして、そんなことを考えたのだろう?

 見当がつかない。やはり、サムソンとカガミに相談してみたほうがいいだろう。


「もちろん」


 上手く笑えているだろうか、笑顔で答える。


「私、ここに残るよ」


 そう言ったミズキに頷いて、カガミとサムソンに合流し、事情を伝える。

 何か思い当たることがないかもあわせて聞いておく。


「鞄に何をいれていたがカギだと思います。思いません?」


 そうだ、何を探していた?

 ハロルドを探していたのに、鞄を探す理由がわからない。

 さすがにハロルドが鞄の中に隠れているとは思えない。


「そうだな……そういえばリンゴ……誰か食べた?」


 しばらく3人で考えていると、唐突にサムソンが妙な質問をした。


「リンゴ?」

「あぁ、召喚魔法で呼び出したリンゴだ。いつの間にかなくなっていたけど、誰か食べたか?」


 オレは食べていない。


「私も食べてないですが……」

「少し聞いてくる」


 サムソンは、走ってノアのいる場所へと、向かったかと思うとすぐに戻ってきた。


「ノアも、ミズキも食べていなかった」

「リンゴがどうかしたんですか?」

「召喚したものが無くなっているんだ……オレの召喚した琥珀は消えていた。岩塩は残っていた。もっとも、ほんの少し前まで、俺は何処かに落として無くしただけだと思っていたんだがな」

「ノアちゃんに、貝殻をあげた。私……召喚したものをあげた……それが無くなっていた?」


 やっとサムソンの行動の意図も、ノアがストレスに倒れた理由もわかった。

 召喚したものが消えたんだ。

 ハロルドも、貝殻も、他にも消えたものがあるのかもしれない。

 オレ達も消えると考えたんだ。

 対策、解決策は……考えたままを口にする。


「ノアのケアをしつつ、召喚魔法について、今回の現象について調べる」

「ブラウニーさん達に聞いてみることにしようと思います」

「だったら、俺は書籍をあたるぞ」


 オレの思いつきを2人は具体化してくれた。

 頼りになる同僚と、今、この場所にいることに感謝する。オレ1人では到底無理な事がサクサク決まる。


「2人はその路線で、いちおうジラランドルにアドバイスを求めて欲しい」

「ええ……そうね」

「あとチッキー達には、できるだけノアと一緒にいてくれるように伝えておいて」

「わかった」

「それから……」

「大丈夫だ。こっちはこっちで考えて進める。リーダも何か考えがあるんだろ?」


 そうだ。オレには本命の考えがある。

 召喚魔法について、知識をもっていると答えていたあいつだ。


「あぁ、オレは鹿を狩って、その血肉を触媒に黄昏の者スライフをあたる。あいつは前に話をしたときに知っていそうな……そんな、そぶりを見せていたからな」

「ミズキとプレインを連れていって、できるだけ早く終えて欲しいと思うんです」

「了解。それに今回は遊びじゃない。見つけ次第魔法を使って狩る」


 何が起こるかわからない。手段はできるだけ持っていたほうがいいと考えた。

 すぐに弓と矢を携えて森へと向かう。プレインとミズキがすぐに追いかけてきた。ミズキは槍を抱えて馬に乗っている。


「ノアノアには、チッキー達と、カガミかサムソンのどちらかが必ず一緒にいるって」

「了解、それじゃさっさと済ませて戻ろう」

「そうっスね、雨も降ってきましたし……」


 空を見るとパラパラと雨が降ってきた。小雨だ。本降りになるかもしれない。本当に時間の勝負だな。

 幸い、鹿の現れる場所には見当がつく。

 雨が降っていることもあって森はいつもよりもずっと暗く、場所はわかっているのに辿り着くのに手こずる。何度も森に入っていなければ、進むのも困難だった。

 遊び半分に森に入っていたのは無駄ではなかった……ではなかったが……。


「遊んでないでサッサと鹿を狩って、スライフに聞いておけばよかった」

「こんなことになるとは思わなかったっスもんね……」

「そうそう、過ぎたことはしょうがないじゃん。いまからサッサと鹿を狩ってしまおう」


 そうだな。プレインとミズキの言うとおりだ。後悔先に立たずだ。


「サッサと鹿を見つけて、サッサと狩ろう」

「ノアノア心配だしね。一瞬で始末しようか」

「そうっスね……見つけたっス!」


 小雨が降り、薄暗い森の中にある丘の上、静かに立ちオレ達を見下ろす鹿を見つけた。

 それは今までみた鹿とは違った。

 オレ達の前に現れたのは、普段見かける倍はあろうかと思われる巨大な鹿だった。

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