第38話 どれいいちば
奴隷市場は、町に入ってすぐの場所……オレ達がゴーレムを作った場所にあった。
サーカス会場を彷彿とさせる円錐形をした大きな橙色のテントだ。
「なかなか、ド派手っスね。大きな馬車も沢山集まってるっス」
牢屋にも見える鉄の籠が備え付けられた馬車をはじめ、大きな馬車が沢山集まっている。
他に屋台も集まっていた。
人口密度も他の場所にくらべて高い。お祭りというほどでないけれど、催し物が開催されていることがわかる。テントの入り口横には花を咥えた女性をかたどった丸い看板が置かれている。入り口はカーテンのような布で締め切られ、外からでは中の様子はわからない。
入口のカーテンをくぐり中に入る。入るまえに入場料として一人銅貨2枚を取られた。
ノアも奴隷市場にくるのは初めてのようだ。子供がくるようなところじゃないしな。
中にはテーブルに椅子、鉄の籠にはいった人や鎖につながれた人、商人らしい人もいる。
「あの白い服着てるのが奴隷でしょうか、鎖に繋がれてもいますし……。それにしても、蒸し暑いし、ガラの悪い人も多いですし、雰囲気が悪いと思います。思いません?」
「奴隷の売買は、悪党の仕事なのかな、ロンロ知ってるっスか?」
「知らないわぁ、奴隷市場なんて来たことないものぉ」
締め切っているせいか蒸し暑い。それに武装した人間がたくさんいる。武装も外見も統一されていないことから、兵士には見えない。
カガミがいうように雰囲気が悪い。用事をすませて速やかに出て行きたいと思った。
「奴隷市場は、初めてで? 気が向けば、案内しやしょうか?」
どうしたものかと思っていると身なりのいい子供が近づいてきた。
黒いスーツのような服に、カラフルな色とりどりの刺繍がされている。着ている服が立派なだけに毛むくじゃらな裸足なのがとても目立つ子供だ。
気が向けば……なんて言い方が少し気にかかったが、すぐに意味に気がつき、銅貨を2枚渡す。
「えぇ、初めてなんです。案内をお願いしたいのですが」
「ヘッへへ、こりゃどうも」
お金を渡す対応は正解だったようだ。
ニコニコしながら、ぐるりと会場を一周するように案内してくれた。
奴隷市場は3日ほど開く予定で、今日と明日が一般的な奴隷を売り買いする日。明後日に高額奴隷のオークションをするスケジュールだそうだ。
檻に入っている奴隷のほかにも、奥には多数の奴隷がいるので、リクエストにも答えてくれるという。
「建物の修繕を頼みたいんだ」
「あと、庭の手入れができる人……農村出身者がいいと思っています」
「農村かぁ……、イッヒ、予算と、あと男でも女でもいいのか教えてくんない?」
「金貨5枚を上限として考えている。男女どちらでもいいかな」
予算は多めに考えることにした。ケチって、合わない人間を紹介されても困る。今後のことを考えて大盤振る舞いだ。
必要なことを聞き終えたと言わんばかりに、少年は両手の人差し指をオレに向けて「支配人呼んで来る」と言い、軽快な調子でどこかに行ってしまった。
「人ではなく、ハーフリングねぇ、子供に見えても彼は大人。誤解させたまま話を進めようとしてるみたい。気をつけてねぇ」
「ロンロ氏は、あいつが俺達を騙そうと考えてると?」
「わからないわぁ。でも、ハーフリングはえてして悪戯好きで、度を超すことも度々あるのぉ。酷い目に遭いたくなければ気を抜かないことねぇ」
場の雰囲気に、登場人物と、いよいよ嫌な予感でてんこ盛りになってきたな。余計なことせずに目的をさっさと果たしてしまおう。決意を新たにする。
それから檻に入った人や、支柱側の台に立った人々を見て仲間達と話をしていると、子供……ではなく、ハーフリングの男が戻ってきた。1人の女性と数人の男を連れてきている。女性はふくよかでとても派手なドレスを来ていた。男達は、皆筋肉質な体をして、素肌に黒い布で作られたハーフコートを羽織っているだけの格好をしていた。身につけている服装だけで、女性がボスで、男達は護衛だと分かる。
「御機嫌よう。支配人のザーマよ。奴隷をお探しとか、わたくしが紹介して差し上げるザマスわ。金貨5枚で、大工仕事の得意な、農村出身者でよろしくて?」
奴隷商人は、オレ達に目をくれずノアにむかって挨拶した。ノアは微笑んだ後で、オレの方を見て「えぇ、詳細は彼に任せます」とだけ答える。
セリフは、そばを浮いていたロンロが耳打ちしたようだ。
その回答を聞いて、奴隷商人がサッと手を振った。程なく、支柱側の台の上に数人の男女が並んだ。
「では、あなた、この中で気になる奴隷がいればわたくしに言うザマス。裸を見るのは一人だけ許すザマス。2人目からは有料よ」
「裸見る必要あるのか?」
「イッヒヒ、体に傷あんのが嫌な客がいるんだ」
奴隷に求めるのが人によって異なるので、裸を確認したいこともあるらしい。しかし、エロ目的でそんなこと言われても面倒なので2人目からはお金を取るのだとか。
並べられた奴隷達は、自己アピールをしていく。リクエスト通り皆農村出身らしい。料理が得意だとか、力自慢だとか、そんな話が続く。さながら新卒の採用面接といったところだ。
看破の魔法で、少しでも追加情報を知ることができないかと試みるが、名前と奴隷の所有者以外が見えない。
「看破の魔法はわからないようにしてんだ。偽装呪文の応用ってやつだ。ほら、やっぱり自分の見る目を信用して欲しいわけで、おいら達とすりゃさ。イッヒヒ」
偽装呪文の応用。看破の魔法ではわからないようにすることができるのか。まだまだ知らない事が多い。
オレ達の様子をハーフリングの男と奴隷商人は窺いながら、人を入れ替えていく。気に入らないなと少しでも思ったら外されるところから、その判断にプロという感じがする。
「誰がいいのかわからないな。誰でも良いようにみえる」
「サムソンが言うように、みんないい人にも思えますし、違うとも思えます。そう思いません?」
「目移りしちゃうっスね」
どの人も可もなく不可もなくといった印象を受ける。周りの仲間も似たような感じで、決めてにかけたまま人がどんどんと入れ替わっていった。
「なかなかお気に召すのが無いみたいザマスね。どうかしら、予算を増やしてみては? 金貨10枚なら・・・・・・」
「妹を帰せ!」
後ろから叫ぶような子供の声が聞こえた。
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