第16話 のろわれしおとこ
手分けしてノアを探すことにする。
呪い子ということを隠していた事について罪の意識でもあるのだろうか、姿を消したノアを探す。
「ノアちゃんの呪いって本当なのかな?」
「多分、本当だ。街には聖獣ヴァーヨークっていう奴がいて、ゴミを食べて清らかな魔力を放出する存在だった。あの逆バージョンなんだろう。だからといってノアを見捨てたりはしないが……」
「そっか。かわいそうだね。だから一人だったんだ」
そう、呪い子だったから一人になったのだろう。飼い主というのは母親のことだろう。しかし、いなくなった理由がわからない、置いていかれたのか? でも、なんとなく違う気がした。
手分けをして探しても見つからない。
もしかしたら外に出たのかもしれない、もうすぐ日が暮れる。
夜の外は危険だ。
「ねぇ、リーダぁ」
いつものように気だるそうにロンロが声をかけて来る。先ほどまでのような必死さも、まるで人間のような雰囲気もなくなっていた。
「もし、もしも、ノアを見つけたらどうするのぉ」
「別に、心配だから探してるだけだ。言いたくないことは言わなくてもいい。聞く気もない。でも、一人は寂しいだろう」
その答えは満足がいくものだったのだろうか、ロンロは少しだけオレから離れる。
「こっち」
オレを案内してくれるようで手招きした。
そのままついていくと、そこは最初の日にノアが寝たベッドルームだった。そのままベッド横の壁にすっと消えていく。そこには絵がかけられていた。古くなりすぎて何の絵なのかわからない。
手を絵に伸ばすとそのまま突き抜けた。どこかに繋がっているのだろうか、そのまま進むと、石畳の通路がって、階段があった。
「ロンロ、ここは地下室への……どうして、いつもと入り口が違うんだ?」
「ノアが入り口を変えたのよぅ。いつもと同じところだと、すぐに見つかるでしょ。だから、マスターキーの力でかえたのよぉ」
ノアは、マスターキーを持っていたのか。
思った通り、更に進むと地下室についた。
最初にこの世界に来た時に見た地下室だった。
ノアは初めて出会った時と同じように膝を抱いて座っていた。噛み殺したような泣き声が聞こえる。
なんて声をかけていいのかわからないまま目の前にまできてしまった。
ふと、ノアの泣き声がやんだ。一生懸命に泣くのを我慢しているようだった。
「ノア、みんな怒ってないよ」
「みんな心配してるよ」
「ノア、一緒に戻ろう」
声を色々かけて見たが、反応はない。見れば震えていた。
じっくりいこうと思い、そばに腰掛ける。
「ノアは、ゴーレムの事知ってたの?」
「……ママ……ママが無理だって、泣いてた。それに、それに、言ったらみんながいなくなると思った。リーダもいなくなると思った」
「そっか。ママは一人だったけど、オレ達は5人、ノアも入れたら6人、ロンロも入れたら7人もいる。大丈夫さ」
ノアは軽く頭を振って否定した。顔は膝にうずめるようにしているので見えない。
でも、とりあえず返事してくれたことにホッとした。
「あのね、私と一緒にいると、病気になるかも」
「エリクサー飲むさ」
「草とか花とか食べ物とかが枯れてしまうかも」
「農家の皆さんが大変だな。頑張ってもらうしかないな」
「街で、石……投げられて、ぶつかると痛いよ」
「魔法の盾で防ぐし、鎧も作れるんだよ」
「それに、それに、えっと悪いこと起きるよ」
「そっか……」
まるで自分がいない方がいいとアピールしているようにノアは話している。辛いことが思い起こされるのか、嗚咽を我慢しながらトボトボと話す様子は痛々しい。
それだけに一人で抱え込むのは不可能だと感じる。
オレだって回り全てが敵になるのは耐えられない。
ノアにかける言葉が見つからない。呪いか……。
「でも、呪いってのも困ったもんだよな。どんなに頑張っても、無理だもんな。どうしても問題が起きてしまう。どんなに頑張っても、お前のせいだって言われちゃうんだもんな」
かける言葉をいろいろ考えているうちに、考えていることが口に出る。
バッと顔をあげてこちらをノアが見た。チラッと顔を見たが涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
「何で……」
「そう、何でなんだよな。何でオレ、いや私ばっかりなんだよな。お前が居なければ良かったと言われても、どうにもならないって」
オレが苦笑しながらいう言葉にコクコクとうなずいてくれる。
「どうにもならない……」
「まぁ、それでも対応しなきゃいけないのが辛いところだ。もちろんオレ達も助ける。だからさ、もうちょっとだけ大船に乗ったつもりでいてくれるといいな」
しばらくノアは何も言わなかった。
「うん」
小さくコクリとノアは頷いた。
何となく大丈夫と思ったので、立ち上がって声をかける。
自分でもびっくりするくらい穏やかな声が出る。
「……じゃあ、行こうか」
でも、ノアは立ち上がった後動かなかった。戻りづらいのかもしれない。
ノアに軽くコツンとげんこつする。
ぱちくりとまぶたを動かしノアはオレを見上げた。
「みんなを心配させた罰だ。謝っておいで」
背中をポンと叩くと、ノアは走っていった。その後をオレは歩いて戻った。
「聞いたよ。ノアちゃんにゲンコツしたんだって? ひどいなあリーダ」
「かわいそうなノアちゃん」
「ひどいっスね」「ハハハ」
みんなに笑顔で非難された。ノアだけは、痛くなかった、軽くだったと擁護してくれる。
「ノアちゃん、後でお風呂はいろ」
「うん」
聞けば、ノアが戻って来たときのためにブラウニーにお風呂を沸かしてもらったそうだ。
ハチあって悪態つかれなくてよかったと少しだけ思ったりする。
「ところで、リーダは、どうして呪いのことわかったの?」
「あぁ、領主の使いの人から聞いて……」
「違う……私の気持ち、呪いがお利口さんにしてもダメだって話」
ノアはすごく真剣な顔でオレを見ている。
オレはノアを椅子に座らせた後、少し自分のことを話すことにした。
「オレは、ビアガーデンにいったことがないんだ」
「はぁ……」「ビアガーデン……」「また何か言いだした」
ノアは小声で、そばにいたカガミにビアガーデンって何かを聞いている。
「会社で年に一回集まって飲むんだビアガーデンでな。そんな催しがあったんだ。でも最初は雨だった。次も雨、その次は台風。同僚の一人がさ、オレのことを雨男だって上司に言ってさ、次の年は来るなって言われたんだ」
「やだ、それあたしだ」小声でカガミが呟いたのが聞こえた。お前だったのか。
「雨男って?」
ノアが不安そうに聞いて来た。ぐっと握った手を膝のあたりに置いている。
「大事な時に雨が降る、そう呪いのようなものだよ」
「違うだろ」
サムソンに即座にツッコミを入れられる。しかし、彼は雨男を甘く見ている。
「いや、あれは呪いだ。おかげでオレはビアガーデンにいけなかった。それだけじゃない、修学旅行のキャンプファイヤーも雨だった。他にも、生まれて初めて行った野外フェスだって雨だった。雨だったんだ! そう、オレは呪われし男なんだよ!」
「ええと……ノアちゃん、おふろはいろっか」
「あ、私もいっしょに入るね」
オレの独白が終わるやいなや、カガミとミズキは風呂場へと行った。ノアもまた、カガミに背中を押されるように行ってしまった。
「やっぱり、雨男と呪いは違うだろ」
「まぁ、ノアちゃん元気になったから結果オーライっスね」
何だろう、オレに対する同情とかそんなのが感じられない、求めてもないけどさ。
でもまぁ、言いたいこと言えたし、まぁいっか。
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