第14話 みんなでたのしくすきかって

 ここ最近、皆で好き勝手にしている。


 サムソンは魔法の研究に没頭している。たまにカガミとオレが手伝っているが、プログラミング言語と魔法陣の対照表を作っているようだ。

 そういえば、昔は機械ごとに言語とかが違っていて、移植をするにもまず資料がない中で言語を探っていっていたと言う彼の経験談を聞いたことがある。同じことを今しているのだろう。

 カガミは、部屋の掃除や屋敷に残された衣類の補修を進めている、庭や温室にある草花を調べている姿もよく見かける。

 プレインは、マヨネーズを作ったり街に買い出しに行ったりすることが多い。最近、鶏を手に入れてきたのは彼の功績だ。

 ミズキはロバに乗ってあちこち行っている。街に行ったり、森へ入ったり。最初は、ゴブリンとか狼に出会わないかと心配していたが、最近はどうでもよくなった。

 オレはといえば、好き勝手する皆のサポートやノアにおもちゃを作ったりして過ごしていた。リバーシはみんなで遊ぶし、でんでん太鼓はノアがすごく気に入ってくれた。


 好き勝手しているから当然のようにお金は減って行く。

 食べ物だけは複製の魔法でなんとかなるかと思ったが甘かった。魔法で増やすたびに味が薄くなっていく。最後はカロメーと同じ味になってしまうことがわかった。

 結局美味しいパンは買わねばならないようだ。

 そんなわけで今日は金策のネタ探しに街へ行くことにした。最近はロバにのって街に行くので結構楽で早い。


 まずは冒険者ギルド、ロールプレイングゲームだったら定番だ。

 道ゆく人に訪ねて向かった先にあったのは木造の平屋だった。入り口は、西部劇に出てくるような扉があって、扉の上には『鉄の狼亭・冒険者ギルド』と書かれた看板がある。その文字の両側には円形の硬貨を模した縁取りに狼が剣を噛み砕くマークの看板がついている。少しだけ外から中の様子を覗いてみる。

 あ、無理だ。

 一瞬で把握。中には荒くれ者という言葉が生易しい、なんというか世紀末覇者の世界に生きています的な危ない人がたむろっているのが見えた。あの中に入って行くのは怖い、無理だ。コンビニ前でたむろっている暴走族のみなさんを前に、おでん買いに行くような話だ。できることなら避けたい。

 そんなこと考えていると中の一人と目があった。モヒカンのような髪型に鎧を着た男だ。因縁つけられる前に退散することにした。

 すると後ろから誰かが追いかけてきた。モヒカンが追いかけてきたのかと思ったが、声で少年のようだったので止まって話をきく。


「冒険者ギルドに何かご用でしたでしょうか、あの、仕事の依頼とか……」


 聞けば、冒険者ギルドはガラの悪い荒くれ者がいっぱいいて若い女性などは入りづらいらしい。そのため、商業ギルドなどにも出張所のようなものがあって、そこで仕事の依頼などを受け付けるそうだ。ちなみに仕事の受注は先ほどの酒場でしか出来ないらしい。

 発注はカウンターで相談しながら決めるらしく、最低でも銀貨1枚からだそうだ。

 入る前に逃げ出したオレを見て、まさか受注側だとは思っていないようで、話はもっぱら発注側の説明ばかりだ。ただ、ギルドは冒険者にランク付けして称号や二つ名を与えることも教えてもらった。


「なるほど勉強になったよ、また今度相談に行くかもしれない」


 オレの返答に、あからさまにがっかりしてトボトボと帰って行く。すごく歩くのが遅いし、チラチラこちらを見ている。


「チップぅ、お礼してあげなきゃ」ふと耳打ちされた。不意打ちでビビる。


 ロンロがすぐそばにいた。仕方ないと行った風に説明を続ける。


「あの子はきっとギルドの見習い。あぁやって説明して、仕事を受けたり、お駄賃稼いでるのぅ。あれだけ細かく教えてもらったんだから、お礼はしてあげたほうがいいわぁ。銅貨2まいくらい」


 慌てて、追いかけて銅貨2枚を手渡す。感心しすぎてお礼を忘れたと、意味のわからない言い訳をしながら渡す。

 満面の笑みで受け取った後、走ってギルドの建物へ帰って行った。


「リーダは、冒険者になりたいの?」

「いや、お金が欲しくて、もうすぐなくなるだろ」

「そうねぇ、魔法で稼ぐには魔術師ギルドに加入しなきゃいけないしぃ、商売をするとしたら商業ギルドに話ししなきゃいけないしぃ、狩りをして獲物売るくらいしかすぐには出来ないかもしれないわねぇ。少しくらいなら屋敷の物を売ってもいいのよぉ」


 冒険者ギルド以外は、よそ者には厳しいらしい。ちなみに冒険者ギルドが広く門戸を開いているのは、冒険者はすぐに死んで減ってしまうので……だそうだ。

 ロンロがこんなに世慣れているとは思わなかった。金策の相談ができるなら街まで来る必要なかったかもしれない。

 というか、オレが同僚と金策について話をしているときに言ってくれよと思った。

 せっかくだからと酒場にどんな依頼が冒険者ギルドにされているのかを好奇心で見に行こうとした時、路地で鞭打たれている男を見かけた。


「あれは奴隷とぉご主人様ね」

「そういえばここって奴隷制度があるんだっけ。あんまりイメージわかないけど、どんな制度なんだ?」


 借金が返せない人や、犯罪者、戦争で捕虜になった後で身代金が払えない者、両親が奴隷の者が奴隷になるらしい。

 奴隷の主人は、この世界にかけられた魔法により好きな時に激痛などの罰を与えることができる、健康状態を知ることができるなどの特権的な能力を奴隷に対して持つことができるそうだ。

 それは厳しい、健康状態を知られてしまうってことは仮病が使えない。

 奴隷の売買はどこでもやっていることで、高級な奴隷は金貨1000枚を超えることもあるとか。ちなみにどんな奴隷が金貨1000枚を超えるのかというと、見た目が良くて文武両道で特殊な技能があるような奴隷が該当するという事だ。そんな事をロンロから教えてもらった。


「じゃぁ、あの奴隷は鞭打たれる必要ないな」

「そうねぇ、八つ当たりかしらぁ。でも、奴隷に必要以上の暴力は禁止のはずよぉ、すぐに兵士に捕まるんじゃないかしらぁ」


 そんなことを言っているそばから、兵士がやってきて先ほどの鞭打っていた男はどこかに連れて行かれた。

 残された奴隷らしき男と目があった。男は少しだけ笑って頭をガリガリかきながらどこかへ行った。


「あの子、案外高い奴隷かもしれないわねぇ、もったいないわぁ」


 そんな事をロンロは呟いた。奴隷の値段とか見てわかるのかな。

 その後、結局、金策の方法を思いつかないまま、串焼きを買って、聖獣ヴァーヨークのところで食べて帰宅することにした。

 帰り際に、例の男に再び会った。収穫祭が近いこと、青銅の値段が上がっていることや領主の館に兵士が集まって打ち合わせしていて何かが起きるかもしれないとか、そんな噂話を聞いた。


「リーダはぁ、お金稼いで何に使うのぉ?」

「家の修理費や、後美味しいもの食べたいしね。そういえば肉をあんまり食べてないな」

「それなら狩りでもすればいいのにぃ、食べてもいいし、売れば少しはお金になるわん」

「狩りか、弓矢でも作って試してみるかな」

「リーダは手先が器用だから、立派な弓が作れそうねぇ」


 そんな他愛もない話をしつつ帰宅の途へつく。

 門が見えた時、その前に見慣れないものがあるのが見えた。馬車だ。

 近づくにつれて兵士の姿も見える。


「リーダ、お願い急いで」

 

 先行して様子を見に行ったロンロが戻ってきた。

 誰かが兵士をつれて屋敷をおとずれているらしい。

 オレはロバから降りて、身体強化の魔法を施して走って向かうことにする。

 その方が早いし、身軽だと考えてのことだ。

 何が起きているのかわからないが、みんなが心配になる。

 無事だろうか。

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