ステータスはお洋服で決まります

髙邑洋史

お仕立て ウエディングドレス その1

「やっと、できたあぁぁぁ」


麗らかな春の暖かい日差しが小さい窓から仕立部屋に射し込む。そこで私は長く息を吐きながら呟いた。


刺繍を施した服に糸を留め、鋏で糸が表にでないように仕上げる。


ずっと膝をついて刺繍をしてたから、膝が痛むけど、立ち上がってみるウエディングドレスは我ながら中々の出来。


明日結婚する私のお姉ちゃんが着るものだ。


手にとって、刺繍の縫い目を確認する。


「うんうん、結構良いじゃない。守の意味があるってよその国のモチーフにあるって見たから、ちょっとアレンジしてみたんだけどきれいだし…」


スカート部分の一番下に飾りのように入れた刺繍を確認してると、私が仕上げた物ながら段々ニンマリしてきちゃう。




だってさ。お姉ちゃんが遂に結婚するんだよ?


ママもパパも私が10の時に亡くなってから、女手一つで私を育ててくれたお姉ちゃん。


13も年離れてるからって、私が独り立ちできるまで待っちゃって。


好い人がいながら8年もお付き合いから先に進めなかったけど、私ももう16才。


これだけのものが出来たら、仕立仕事もなんとかこなせるし、私の事気にせずに結婚できるはず。




コンコン、とノックの音がした。


「はあい」


返事をすると、


「進捗どう?リゼ、一息いれない?」


お姉ちゃんが扉から顔をだした。


「リム姉、新婦はお針子仕事ダメなんだから、入るなよ。リゼ姉、お茶入れたから休もう」


お姉ちゃんを押し退けて、末っ子のリトが入ってくる。


うん、我が弟ながら、イケメンだわ。9才の反抗期前、最後のかわいい時期(だと思う)、声変わり前のちょっと高い声、マジかわいい。


ニマニマ気持ち悪い笑みを隠して、にっこり笑う。


「よかったー、ちょうど終わったところなの。」


あ、新婦がお針子しちゃダメって言うのは、この地方の風習みたいなものね。


「ちょうどぴったり間に合うように終えるなんて、リゼすごいわね。


お客様とのお約束を守ることは、お仕事でいちばん大切なことだから、しっかり守れていて偉いわ」


誉めて伸ばしてくれるお姉ちゃんのお陰だと思うけどね。


心の中で思うと、扉に近づいた。


「お姉ちゃんの花嫁姿、明日とっても楽しみだから、頑張れたのよ」


きっとこれからするお茶は、姉弟三人でする最後のお茶。


今後はお姉ちゃんの旦那さんも加わるんだろうと思うと…なんだか感慨深く思いながら、私は仕立部屋を後にした。


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