【7/15書籍発売】ヒロイン不在の悪役令嬢は婚約破棄してワンコ系従者と逃亡する

柊 一葉

婚約破棄は想定内ですが……!?

第1話 悪役令嬢ですが、ヒロインに逃げられました!?

どんな物語にも主人公がいて、悪役もいる。


と、思っていた。



「やっとこのときが来たわ……!」


私・ヴィアラは、昨今の流行りに乗って転生した悪役令嬢。


前世の記憶持ち、新人の悪役令嬢だ。


だが、あいにく私は悪役になるつもりはない。

だって悪いことをしたら罰が下るのが、恋愛小説の定番でしょう?


痛い思いも、死ぬのも嫌。

せっかく転生したのだから、平穏な日々を過ごしたい。


今は、春の陽気が心地よい昼下がり。

私は三枚の報告書を手に、公爵家のサロンで寛いでいた。


昼下がりに緑豊かなサロンでお茶をするなんて、とても優雅なひとときだ。


なのに、自分の運命を知っている私の心は穏やかでない。


だって私は恋愛小説に登場する悪役。

ヒロインの恋敵。

明日から入学する学園で、私は悪役令嬢としての輝かしい(?)第一歩を踏み出さないといけないのだ。


だから早急に、ヒロインを説得しなければならない。「私はあなたの敵じゃありませんよ!!」って、伝えなくては。


ところが……。


「待って。どういうことコレ!?」


私が手に入れたのは、報告書という名の『学園新入生名簿』。これからの一年間、学友になる者たちのリストだ。


さすがは貴族が集まる学園、見知った名前がずらりと並んでいる。


いやいや、そんなことはどうでもいい。

探しているのはたった一人、ヒロインの名前だ。


淡い水色の長い髪を風が優しく揺らす。銀色の瞳が、リストの文字を一つ一つ追っていく。


しかし、いつまでたってもお目当ての名前は見当たらなかった。


「嘘だ……誰か嘘だと言って……!」


何度も何度も、紙の上に並んだ名前を隅々まで確認する。


やはり彼女の名前はなかった。


まさかそんなことって……

そんなことがあるはずない。


あっていいわけがない!!


わなわなと震えだす右手。

名簿は、グシャッと音を立てて握りつぶされた。


私は肺にたっぷり空気を吸い込み、心のままに叫んだ。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」


その絶叫を聞きつけ、護衛の魔導士・シドが私のそばに一瞬で駆け寄ってきた。


「お嬢!?何事!?」


黒髪に紅い目の美男子が、目を見開いてその精悍な顔立ちを歪めている。


シドは無礼にも背後から私の肩を強く掴み、ガクガクと激しく揺らす。


「何があったんですか!?どうなさったんですか!?」


こら、やめろ。酔うからやめて。


「離してっ!!」


彼の手を振り払った私は、髪を振り乱して再び叫んだ。


「どういうこと!?ヒロインの名前が名簿にないじゃない!!」


ヴィアラ・エメリ・マーカス。16歳。


恋愛小説『薔薇色の宝石を君に捧ぐ』に転生した私は、

ヒロインのいない世界で悪役令嬢をやることになりました。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る