第6話 魔物を狩ろう

 トレントの花は5個ともギルドで買い取ってくれた。

 金貨5枚もの大金を一気に手に入れたリリーナはギルドマスター権限でDランクに格上げされた。

 理由はトレントの花を採りに行ける冒険者がGランクなどありえないからだ。


 本来ならBランクくらいに上げたいところだがリリーナは登録したばかりの素人冒険者で未だ討伐依頼さえ受けて居ない。


 だからこそハラハドはリリーナに何でも良いから魔物を獲ってくるように言った。


 解体さえできない冒険者をDランクにはできないからだ。

 ただ討伐に出かけようにもふと気が付いた事がある。


 リリーナは武器を持って居なかったのだ。

 それどころか防具さえ着けて居ない。

 ドレスを来た冒険者なんて聞いた事がないとハラハドは頭を抱えたがともかくお金も入ったことだし揃えるべき物を買ってくるように告げた。


 リリーナは武器など扱ったことはない。


 わくわくしながら武器屋へ向かった。

 店内には様々な武器が展示してある。

 リリーナはまじまじと眺めていたが、店主はリリーナの手を見て首を振った。


「お嬢さんが使えるのは精々この辺りですかね。」


 そう言って取り出したのはナイフだった。それも複数入っている。


「これは投げナイフです。敵に投げつけて攻撃します。もちろんナイフなので近接攻撃の手段としても使えるのでお嬢さんにはちょうど良いかもしれません。」


 碌に剣なんて持てるはずがない。

 リリーナは部屋にこもっていたしトレーニングなんて行って居ないのだ。

 せいぜいダンスのレッスンくらいだが、ダンスはできても武器は振れない。


 リリーナは投げナイフのセットを10セット購入した。

 1セット銀貨1枚だったのでせっかくなら沢山練習しようと纏めて購入したのだ。

 ただ防具は購入しに行かなかった。


 理由は単純に魔法防御で問題ないだろうと考えていたからだ。

 リリーナはずっと体に魔力を纏っている。

 身体強化もされる上に魔法防御を破られない限りはリリーナに傷一つ付ける事はできない。


 その日からリリーナは投げナイフの練習をした。


 もちろん普通に投げるのではない。

 ナイフに魔力を纏わせて投げる方向、スピード、強さその全てを魔力で制御した。

 当然ナイフは外れる事はない。


 意識しなくても自然とそれができるようになるまで訓練を重ねたリリーナは自然と体力も付いていた。

 動き回りながらの魔力操作はかなり大変だったがもともと魔力の訓練はかなり積んでいる。

 リリーナは息をするように自然と魔力を扱い動けるようになって居た。


 そして初めての獲物はホーンラビット。

 角の付いたウサギ形の魔物だ。

 とてもすばやく危機察知にすぐれた魔物だが比較的初心者向けでもある。


 遠くからホーンラビットを見つめていたリリーナはナイフを投擲する。

 シュッと静かにナイフは飛んでホーンラビットに突き刺さった。

 一匹が倒れてその場に居た数匹は慌てて逃げ出したがリリーナが投げたナイフに貫かれる。


 魔力を纏ったナイフは使い捨てではない。

 自由に操る事ができるナイフはホーンラビットから抜け出してリリーナの手元に戻ってきた。

 もちろんすぐに『クリーン』の魔法で付着した血液などを浄化する。


 その日リリーナは5匹のホーンラビットを退治した。


 その5匹をすぐに『アイテムボックス』に収納するとガラッドの冒険者ギルドへと向かう。


「あら、リリーナちゃん久しぶりね。」


「お久しぶりですマーヤさん。依頼されてた討伐やってきました。」


 リリーナの声を聞いてハラハドが姿を現した。


「リリーナ、お前一体どれだけ時間をかけたんだ。依頼してからもう半年も経ったぞ。」


「武器って使った事がなくってちょっと練習してました。」


「あぁ、そうか。気が付かずにすまなかったな。」


「いえ、お陰様でナイフが上手に使えるようになりました。」


「そうか。それで獲物はどれだ?」


 買い取りカウンターの方でホーンラビット5匹を取り出して渡す。


「ほう。一撃で仕留めているな。半年で良くここまでできたな。」


 普通半年でナイフを使って一撃で仕留めることができるようになる者などそう居はしないが、リリーナには魔法があった為ここまでやる事ができている。

 ハラハドは獲物を奥に持っていくとリリーナに付いてくるように言った。


「解体の仕方を覚えておけ。」


「はい。よろしくお願いします。」


 リリーナは元気良く返事をしたが、この後解体作業と言う恐ろしい体験が待っている事をあまり理解していなかった。


 生き物を捌くという行為がどんなに大変なのかも。


 一通り解体の手順を学び一人でやってみる。

 ナイフを投げるだけの時とは違って直に触れて肉を絶つ感触は初めてのリリーナにとって大変な衝撃を受ける事になった。

 生まれてこの方調理されたものしか見た事のないリリーナはぶつりと肉を切る感触に慣れるのに時間が掛かった。


 涙目になりながら解体していくリリーナは1匹を何とか無事に解体して、魔石とホーンラビットの皮、角、肉を入手した。

 あくまで練習なのでそのままギルドに買い取ってもらうのだが、2匹目は少しだけ慣れてきたが、それでも時間がかなりかかって無事に終えて、3匹、4匹と解体するうちに次第に手が慣れてくる。


 ナイフも血と油で切れにくくなることが分かったリリーナは次からは魔力を使おうと心に誓った。


 無事に解体を終えたリリーナは本当の意味でDランクに昇格する事ができた。


「Dランク昇格おめでとうリリーナちゃん。」


 リリーナはマーヤの言葉でやっと冒険者として認められたような気がした。

 その日から再び冒険者ギルドへと足を運ぶ日が増えたのだが、ひとつリリーナは大事な事を忘れていた。


 エルダートレントの事だ。

 エルダートレントの花を採取した次の日見に行くとすでに花が復活していたのだ。


 ちなみに5つも採ると可哀想だったのでリリーナはこっそりその日から偶に1つずつ花を回収しては水を撒いて帰るのを繰り返していたのだ。


 エルダートレントの花はリリーナのアイテムボックスにかなり沢山詰まっている。

 それをマーヤに伝えるとすべて売って欲しいと言われてまとめて売りに出した。


「エルダートレントの花、全部で42個ですね。大金貨4枚と金貨2枚です。お確かめください。」


「えっともうひとつあるんですけど。」


「何かしら?」


「これ。」


 リリーナが取り出したのは赤い巨大な実。

 丸くて大きな実は瑞々しくて柔らかい。


「こ、これはまさか100年に一度実を付けるエルダートレントの実!」


「えっと最近はしょっちゅう在るんですけど…。」


「ど、どういう事?」


「エルダートレントに花を貰って毎回水をかけてあげてたんですけど、最近私の魔力を覚えたみたいで自分から花をくれたり実をくれたりするんです。」


「はぇ?」


「えっと魔力の篭った水がエルダートレントにとって良いのかな?最近は毎日のように実を付けているみたいで。花も今では12個に増えましたし。」


「そんな馬鹿な…。」


「この前ちょっと近づいてみたんですけど、最初はびっくりしてましたがすぐに分かったみたいで私が近寄っても攻撃さえしなくなりましたよ。」


 リリーナはこの半年でいつの間にかエルダートレントを手懐けてしまっていた。

 驚きの事実だ。


 決して人に慣れないエルダートレントが、自ら花や実を差し出すなど前代未聞の事態に、マーヤからそれを聞いたハラハドは人に漏らさないようにとリリーナに告げた。


 それからというもの定期的にリリーナはエルダートレントの花と実を売りにくるようになった。

 ただ纏めて買い取るのは大変なので小分けにするように頼まれたからだ。


 リリーナはDランクの冒険者であるのに大金持ちというバランスがおかしな冒険者へとなっていた。

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