前略、神です。
好永アカネ
本編
前略、神です。
ある森の高い高い木のてっぺんに、神様がいました。
一緒に暮らしていた女神様がずいぶん前に地上に降りてしまったので、今はたった
ある日ふと寂しくなった神様は、女神様に手紙を書くことにしました。
——前略、神です。
——そちらの暮らしはどうですか? たまには帰って来て話を聞かせてください。
——草々
神様は書いた手紙でテキパキと紙ヒコーキを作り、ぽいっと下に向かって投げました。
紙ヒコーキはまっすぐどこかに飛んで行きました。
次の日、神様はそわそわしていました。もしかしたら手紙を見た女神様が帰ってくるかもしれないと考えて、ちょっと早起きしてすみかを掃除したほどです。
しかし何も起こらないまま昼になり、夕方になって日が沈み始めました。
神様がため息をついて横になると、枕元に一匹のリスがやってきました。
「おや、珍しいお客さんだ。こんな時間にどうしたね?」
リスはチチ、と鳴くと、
「おーい忘れ物だよ」
そのうち戻ってくるだろうと考えて、神様はどんぐりをそのままにしておきました。
次の日も神様は朝早くから起き出して女神様を待っていましたが、帰ってくる気配はありませんでした。
神様は薄く目を開けて寝たふりをしていました。
リスはちょっとずつ神様に近づいてくるとどんぐりをひとつ吐き出して、昨日のどんぐりの横に並べました。そしてまた木を降りて行ってしまいました。
「どうしたんだろう。また置いて行ってしまったぞ」
神様は首を
次の日は雨でした。
女神様は雨が嫌いだったので、今日は帰ってこないだろうと神様は考えました。
そこで、今のうちとばかりにゴロゴロ、ダラダラしていたら眠ってしまい、目を覚ました時にはすっかり辺りが暗くなっていました。
いつの間にかどんぐりの数がひとつ増えて、3つになっていました。眠っている間にリスが来たようです。
「うーん、ここに巣でも作る気かな」
神様はちょっと心配になって来ましたが、今のところとくに問題はないので気にしないことにしました。リスがどんぐりを置いているのは以前女神様が寝ていた場所なので、女神様が帰って来てからなんとかしよう、と。
また次の日、神様が待ち構えているとやっぱりリスがやって来ました。
リスは神様が見ていることなど全く意に
「リスや、そろそろ片付けたらどうかね」
リスはチチ、と鳴くばかりです。
「もしかしてわたしへの贈り物かね?」
リスはまたチチ、と鳴いて帰って行きました。
どんぐりは4つになりました。
次の日もやって来たリスに、神様は両手いっぱいの木の実を差し出しました。
「ゆっくりしておいき」
リスは嬉しそうに木の実を貪り、食べきれなかった分を
神様は5つ並んだどんぐりを見てにっこり笑うと、眠りにつきました。
次の日、神様は
もうすっかり日が落ちたのに、女神様はおろかリスさえも来ませんでした。
神様はぼんやりとどんぐりを手の中で転がしていました。すると、
「む?」
どんぐりに傷がついていることに気付きました。目の前に持って来てよくよく見ると、文字のようにも見えます。
「むむむ?」
神様は5つのどんぐりを、リスが運んで来た順番にじっくり観察してみました。
め え る し ろ
めえる しろ
メール しろ
「……おぉ」
神様はポンと手を打って懐から折りたたみ式の携帯電話を取り出すと、ぎこちない手つきでいくつかボタンを押し、耳に当てました。
プルルルル…… プルルルル…… ピッ
「あ、もしもし……」
「なんで電源を入れてないんだい!!」
耳元から突然大きな声が聞こえたので神様は
「わ、忘れて……」
「イマドキ紙ヒコーキとかふざけとるんか! メールせんか! メールを! 前に教えただろう!」
「だってよくわかんないんじゃもん……」
「
神様はぐうの
「ごめんなさい……」
「そもそも近況はインスタに全部あげとるからわざわざ話すことなんぞないわ。っつうかメールも面倒じゃからさっさとLINE登録しておくれよ」
「いんすた? ラーメン?」
「インスタントじゃない! インスタグラム! 全くこれだからジジイは……」
「女神ちゃんもババアじゃん」
「神ちゃんといっしょにするな! まだまだ若いもんには負けんわ!」
その晩、神様は遅くまで女神様と通話していました。内容はほとんどお説教だったので神様のメンタルはズタボロになりましたが、久しぶりに女神様の声が聞けて嬉しそうでした。
次の日、女神様が帰って来て言いました。
「スマホ買いに行くよ! 40秒で
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