羽ばたく鷹は雀を食らう
第4話 羽ばたく鷹は雀を食らう
「すーずーめーちゃん」
「……」
「すーずーめーちゃん!」
「……くだらないことならばその綺麗な顔に穴を空けますが」
数度彼女の名前を呼んだあと、彼女。凉萌ちゃんは目の下に隈を作りながら軍服の懐から黒い拳銃を取り出した。
オレは即座に手をあげて降参のポーズを取る。
「そんなに怒んないでよー。今日はオレすっごく良い気分なんだからぁ」
「そう言えばいつもよりも機嫌が良いように見えますね。何かありましたか?」
ハーバヒト。
名前を呼ばれて、にへりと顔を緩める。涼萌ちゃんはその無表情の顔の中に、とても不思議そうな色を見せた。
「凉萌ちゃん知ってる? 今日はオレが生まれた日なんだよ」
「ますます解りかねます。あなたの誕生日はもっと先でしょう。ハーバヒト」
「ううん。オレが生まれた日は今日だよ、凉萌ちゃん」
「意味がわかりません」
眉を寄せる凉萌ちゃんだが、書類に走らせていたペンを置くことはない。
「俺がわかっていれば、知っていれば良いんだよ」
「そうですか。それはそれはどうでも良いことですね」
凉萌ちゃんはその綺麗な顔から不思議そうな色を即座に消して、「ああ、そう言えば」と今思い出したように書類を一枚オレに渡してきた。
その書類を受け取って、目を走らせる。その書類に付属していた写真に首を傾げた。
あれ? 何処かで見たことある顔な気が……?
「覚えていますか」
「うーん。なんとなく?」
「覚えていない方が都合が良いかも知れませんね。――その男が率いる組織を殲滅してきなさい」
凉萌ちゃんは氷よりも冷たい声でそう言い放つと、もう用はないとばかりにペンを走らせ始めた。
サラサラとインクが綺麗な文字となり白い紙を染め上げていく。
軍服の衣擦れの音が時折微かに聞こえるだけで、オレも凉萌ちゃんも吐息すら消し去ったかのように執務室の中は静かで。でもソレが心地好い。
その心地好さを感じながら、書類にもう一度視線を落とした。
頭から顔にかけて『ZERO』という刺青を入れている男の写真。
ZERO。ゼロ。
……ああ、思い出した。
あれは、何年前だったかな?
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