リベルタンゴ
あなたが、目の前の壇上で、華やかなライトを浴びながら挨拶をする。
巨大なホールにぎっしり詰まった、これからはあなたのものになる社員達へ向けて。
あなたは、私の会社を買った。
お気に入りのキャンディでも買うように。
鮮やかな微笑みで。一時も躊躇うことなく。
——忘れたとは言わせない。
憎み合うほどに散々互いを愛した、あの時間のことを。
目の前で激しく波打つその喉元を引き裂き、殺してやりたいと思った。
誰にも、決してあなたを渡さないと。
狂おしいタンゴを共に踊るかのように。
あなたが全く同じ気持ちでいたことを——私が気づかないとでも思っているのか?
憎み合い、やがて別れても——その一秒すら、あなたを忘れられずに。
私がこの席へ就いた直後に、あなたが我が社と敵対する会社のヘッドハンティングを受けたことを知り——私の中の炎が新たな熱を帯びた。
いずれまた、向かい合えると。
あなたは、瞬く間にその遥か上の的を射落とした。
凄まじい業績の伸びに乗じて私の会社へ手を伸ばし、そっくり買収し——新体制を敷いた組織のCEOに就任した。
そして——こうして今、私を見下ろす。
私を従わせた満足感を味わいながら。
私の方へなど、ただの一瞥もくれずに。
——あなたは、気づいている。
私が、ここにいると。
今すぐ、この壇上へ駆け上がり——その最高級のネクタイを引きちぎり、あなたを力任せに押し倒して、その喉元を噛み裂いてやりたい。
私が、そんな想いであなたを見つめていることも——あなたは知っているはずだ。
知っていながら、この上なく艶やかな笑みを零す。
——今すぐ、この喉元へ喰らいついてみろと。
もうすぐだ。
その願いが叶うのは。
再び——必ず、私たちは転がり落ちる。
決して消えることのない、甘い苦痛に満ちた炎の中へ。
終わりなく繰り返す、あの狂おしいタンゴの旋律のように。
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