第45話 ライブ②
そんなライブも、時間が経てば終わってしまう。私達のラストライブは、あっさりと終わってしまった。
最後の一曲を歌い終えると、私達は、見に来てくれた観客達に感謝の気持ちを込めて、頭を下げた。
これで、【D-$】の活動が終わってしまう…… このまま、終わって欲しくない!! もっと、もっと、みんなと一緒に居たい!! 私の青春は、ここで終わらせたくない!!
幕が下りるとき、私は、これで本当に【D-$】が終わってしまうのが、心の底から嫌であった。
でも…… 当日のライブに、体育館を満員に出来なかったら、【D-$】を解散すると言ったのは、この私。無理を言ってまでこじつけた文化祭のライブだけに、私も沢谷先生との約束は果たさなければならない。
これも、ひとつのケジメなんだから…… ワガママは、言えないんだ……
そして…… 体育館の幕が下りた瞬間、私はその場にしゃがみ込み、先程まで少しでも我慢していた涙を一気に流した。
「うっうっうっ…… うぇ~ん」
私はその場から動こうとはしなかった。ここで動いてしまえば、その時点で【D-$】が終わってしまうと思い、その場でしゃがみ込んで、ただ泣いていた。
すると、そんな私の事を心配した女月が、私の右肩を揺らし始めた。
「ちょっと、麻子ったら!!」
「だって、【D-$】がこれで終わりだよ!? 終わっちゃうんだよ。悲しくないの?」
女月の姿を確認した私は、咄嗟に女月に抱き着き、今度は女月の胸元で泣き始めた。
「ちょっと麻子!! はっ、鼻水付けないでよ!!」
「仕方ないじゃない!! うぇ~ん」
私が女月の胸元に抱き着きに行ったせいで、女月の服には、私の鼻水が付いてしまった。
ゴメン、女月…… せっかくの衣装を、私の鼻水でビチョビチョにしてしまって……
そんな私に対し、女月は私の頭をやさしくなでた。
「何、泣いているかは知らないけど、この声が聞こえないの?」
「えっ!?」
鼻水を付けられて困った顔の女月に言われるがまま、私は一旦、泣くのを止め、耳を澄ましてみる事にした。すると、ステージの向こう側の観客席の方から、物凄い声援が聞こえてきた。
「アンコール! アンコール!!」
この声援を聞いた瞬間、私の顔から悲しさの涙は消え始めた。
「やりましたのよ、麻子さん。わたくし達は目標を達成出来たのですわ」
「どっどうやら、わたし達のライブ中に、突然、大雨が降ったらしくて…… その影響もあって、みっ、見事に、体育館が満員になったの」
確かに、詩鈴の言うとおり、耳を澄まして聞いていると、体育館の屋根に大粒の雨が当たっている音が聞こえてくる。
とりあえず、沢谷先生との当初の約束は果たせた。それでまた、今までの様に、女月と紗美と詩鈴、そして私の4人で【D-$】の活動が出来る…… 出来るんだ!! これで、堂々と、動画投稿サイト内で【D-$】としての活動が出来るんだ!! この瞬間、私の悲しく泣いていた表情は、次第に喜びの表情に変わっていった。
「麻子!! とりあえず、私達は目標を達成出来たのだから、これからも、【D-$】としての活動が出来るんだよ!!」
そう言いながら、今度は女月が私を強く抱き始めた。
「くっ、くるしぃ~」
女月は強く抱きしめている為、凄く苦しい……
「しかし、ライブ中に大雨だなんて、こんな奇跡があるのですわね」
その様子を紗美は奇跡だと言いながら、嬉しそうに私と女月の様子を見ていた。
「でも、ただ満員になっただけでなく、『アンコール!』と言ってくれるぐらいなんだから、私達の実力は本物だったってのが、見事に証明されたね」
そして私は体育館から聞こえてくる『アンコール!』という声援を聞き、自分達のやって来た苦労と努力の成果が出たと、改めて実感をした。
それは同時に、私達【D-$】の人気が証明されたという証拠である。私はこの瞬間だけでも、まるで本物のアイドルの様になれた気分がした。
さて、そんな事はさておき…… とりあえず、体育館を埋め尽くすほどの観客達からの声援に答える為、私達は、もう一度ステージの上に立った。
「それじゃあ、みんな、楽しみに待っていてくれているファンの人達の為に、アンコールに答えるわよ!!」
「そうね、行きましょ!!」
「アンコールも、楽しみですわ」
「そっ、そうですわね。アンコールでも、すっ、凄く緊張します」
私の一声と共に、女月と紗美と詩鈴もアンコールに備える為、再びステージの各位置に配置をした。
「でもさ、アンコールと言っても、何を歌うの?」
「せっかくだし、あの歌にしようよ!」
「あの歌とは?」
そんな中、女月はアンコールに何の歌を歌うのか疑問に思いながら聞いて来た為、私は咄嗟に思いついた、あの曲を歌う事に決めた。
「決まってるじゃない!! 私達が始めて作った、あの曲だよ!!」
「あぁ、あの曲ね」
「凄く良いと思いますわ」
「たっ、確かに。初めて作った曲だし、それなりの思い入れもありますし」
「でしょ!! それで決まりだね!!」
そして、アンコールに歌う歌を、初めて自分達で作った歌を歌う事を言うと、女月だけでなく紗美と詩鈴も、それに喜んで賛成をした。
そして、私達がステージの上に立ったのと同時に、下りていた幕は再び上がり始めた。先程とは異なり、今度は始めからアイドルらしく明るい表情で。
だって、ステージの向こうには、多くの声援を送るファンがいるんだもの。それ以外にも、私には凄く頼りになり、私をいつも助けてくれる仲間達がいる。
まず、私の幼馴染である女月は【D-$】の事になると厳しくなる分、誰よりも【D-$】の事を思っていてくれる。
また、動画の投稿を始めてから、新しく友達になった紗美さんは、【D-$】の映像をいつも綺麗に映してくれ、時にはは私達【D-$】の悩みの相談者であり、良き仲介者でもある。
そして、普段は恥かしがり屋で人見知りではあるが、いざ、歌を歌う時になれば、歌の上手さにより誰よりも目立つ詩鈴は、私達【D-$】と出会う事により、その才能は少しずつ開花し始めていった。
そんな紗美と詩鈴とは、UTubeがなければ出会う事がなかったかも知れない。
でも、UTube内でアイドル活動をやって行くというひとつの目標の元、出会う事が出来た。やはり、これもまた、ひとつの運命なのだろう……
そして今、友達同士で作ったUTubeだけの疑似アイドルが、今、この瞬間だけは、まるで本物のアイドルになった気分である。
その証拠に、ステージの幕が上がり体育館を見てみると、先程は涙で霞んで見えなかったが、そこには、私達を応援してくれる、数多くの観客がいた。
その観客達の期待に答える為、私は最高にハイテンションな気分になり、目の前にいる多くの観客という名のファンの為に、改めて大きな声であいさつをした。
「アンコール、ありがとう!! みんなの声援に答えて、私達【D-$】は戻って来たよ!!」
そして、今度は本物のアイドルの様に、多くのファンが見守る中、私達【D-$】は、アンコール曲として、自分達で初めて作った歌を歌い始めた。それと同時に、更に体育館は熱狂の渦に溢れた。
同時に、この日の私達は、時間を忘れるかのように、このライブをやっている今と言う瞬間だけ、ごっこではなく、本物のアイドル歌手になった気分で、私達の目の前にいる、私達のライブを見に来てくれた観客達を楽しませる為に、私達は全力でこの文化祭のライブを楽しんだ。
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