第40話 復帰するわ

 私はあの新学期の日以来、麻子とは話をしていない。あの日以降、私はなぜか麻子と一緒に話をする勇気が出ない状態である。


 新学期の日、麻子の身勝手な判断のせいで、私達がUTube内で活躍をしていた【D-$】という、疑似アイドル活動が担任の沢谷先生によって禁止をされた事に怒り、そのせいで私は麻子の頬を強くビンタをした後、勝手に麻子のそばを離れてしまったからである。


 その出来事が原因なのか、私は麻子と同じクラスに居ながらも、話どころか顔を合わせる勇気がない。その為、授業中以外の時間である休憩時間等の時間は、麻子から逃げるように教室を離れている。


 一体、こんな日々がいつまで続くのだろう? 早く麻子と仲直りをしなければいけないはずなのに、私は自分から麻子に話しかける勇気がない。一方の麻子も、自分からは話しかけには来ない。やっぱり、麻子も怒っているのだろうか? 私は新学期の日以来、その事ばかりを心配していた。


 でも、つい数週間前に、私のスマホに一通のチャットが届いた事があった。その時のチャット内容は、麻子が【D-$】のメンバーに大事な話があると書いていたけど、私は麻子の返事に答える事は出来ず、その場所に行くことはなかった。自分に勇気がなかったせいかも知れないが、もしあの日、麻子の連絡に応じていれば、今頃はすっかり昔みたいに仲良くなっていたのかな? ここ最近の私は、夜な夜な自分の部屋にある机に座って、こんな事ばかり考えている。





 そして今日の夜、私のスマホには久々に麻子から連絡が来た。

先日にも、麻子から連絡があったが、あの時は完全に無視をしてしまった。今回もこのまま以前の様に無視をしてしまうのか?


 でも…… このまま、無視をしていたら、全く変わらないまま。その為、私は少し勇気を出して、麻子からの連絡を見る為、スマホの画面を開いた。


 なぜだろう? スマホの画面を開くときも、私は心臓がゾクゾクとした。今までは、こんな事がなかったのに。やっぱり、今まで麻子から逃げていただけに、凄く緊張がする。


 でも、ここで逃げていては、今までと変わらない。少しでも、麻子との関係を以前の様に戻すには、この麻子からの連絡を見なければならない。そう思いながら、私は勇気を出しながら、麻子からの連絡を確認した。


 私はスマホを開き、麻子からの連絡を確認してみると、そこに書かれていたのは、【D-$】が動画の投稿を行ったという内容であった。


「まっ、麻子!! 何やってんのよ!!」


 この文面を見たとき、私は凄く驚いた。


 新学期の日に、担任の沢谷先生から禁止されていたはずの動画の投稿を、麻子達が行っていたからである。同時に、麻子から届いたチャットには、動画のリンクが貼られていた為、私はそのリンク先の動画の方を確認してみる事にした。


 リンク先にある動画は、麻子と紗美と詩鈴の3人で撮られた動画があった。いつもならそこにいるはずの私の姿は、そこにはなかった。


 そして、今回の動画の始まりは、麻子の少し長い言葉から始まった。その言葉を聞き、麻子がどうして次の動画を撮ろうと思ったのか、そして、なぜ、先生の忠告を無視してまで、撮影を行ったのかは、まぁ大体分かった。と、言うのも、その時の麻子の必死さを見ていれば大体何とかわかった。


 そして、その麻子の少し長い言葉が終わった後、今度は麻子だけでなく、紗美と詩鈴も一緒になって、私の名前を叫んだ。


「ちょっとっ!! 何やってんのよ!!」


 動画の中とはいえ、自分の名前を叫ばれるのは、さすがに恥ずかしい……


 そして、その後に、今回の動画の歌が始まった。


「一体、どんな歌かしら?」


 私は少しばかり気にしながらではあったが、私がいない【D-$】の歌を聞いてみる事にした。


 今回の【D-$】の歌にはダンスはなく、ただ単に歌を歌っているだけであった。その歌はいつも歌う明るい感じの曲の歌ではなく、どこか透き通る様にお淑やかな感じの歌であった。


 また衣装の方も、そんな歌に合わせた感じの可愛らしい衣装となっていた。私が【D-$】にいないだけで、こんなにも違ってくるんだな…… 私はそう思いながら、私のいない麻子と紗美と詩鈴だけの【D-$】の動画を見ていた。


 そして、動画の再生が終わると、私はスマホの電源を切り、再び考え込んだ。麻子は先生から忠告を受けたにも関わらず、再び動画の投稿に挑んだ。それは、麻子だけでなく、紗美も詩鈴も一緒だった。そして結局、動画に出なかったのは、私だけ。なんだか私だけ、先生の忠告に恐れて逃げたみたいになっちゃったな…… 今までは麻子や詩鈴には、強気でいたけども…… これじゃあ、私は麻子や詩鈴に負けたみたいじゃない!! 先生の忠告を恐れずに、動画の撮影を行っているんだから……


 とは言うものの、私は本当にこのまま、麻子や紗美や詩鈴のやっている事をほっといてもいいのかしら? 先生からの忠告を無視して動画の投稿を行った以上、麻子達は先生からそれ相当の処罰が下されるのは、既に時間の問題。もし、このまま黙っていれば、私だけは、先生からの処罰は真逃れるかも知れない。本当であれば、そうしたいかも知れない?


 でも…… 本当にそれでいいのかしら? これでは、私だけが友達を見捨てて逃げているみたいじゃないの。現に紗美と詩鈴は、先生からの処罰のリスクがあるかも知れないというにも関わらず、麻子と一緒に、動画の投稿に挑んでいた。


 それは、紗美も詩鈴も、麻子と同じ様に、動画の投稿、いや、【D-$】としてのアイドル活動が大好きだからこそ、出来たはず。


 だったら、私は、【D-$】としてのアイドル活動は嫌いだったのか? そんな事はない。私だって、【D-$】としてのアイドル活動は大好きであった。最も、私が誰よりも【D-$】を楽しんでいたのかも知れない部分がある。


 先生の忠告を守るか、先生からの処罰にも恐れず再び【D-$】として活動をするか、私は両方の考えを天秤をイメージして、どちらが大事なのかを考え出した。


 そして、そこから導き出した答えは……


 私も麻子や紗美や詩鈴と一緒に、再び【D-$】としての活動をする事に決めた。だって、私も【D-$】のメンバーの1人なんだもの。そう思うと、翌日からは学校で久々に麻子と話をしたくなってきた。まずは、ビンタをした事を、麻子に謝らないと…… そう思い、この日は寝る事にした。





 そして、翌日の学校の教室……


 私が教室に入ると、そこには既に麻子が席に座っていた。いつもなら、麻子よりも私の方が早いのに、今日はその逆であった。


「おはよ、麻子」


「おっ、女月ちゃんが、久々に私に声をかけてくれた!!」


 久々に行った挨拶を聞いた麻子は、凄く驚いていた。


「そんなに驚く事ないじゃないの。昔からの友達なんだし」


「昔からの友達だからこそ、驚くんじゃないの」


「はは、そうなの」


 私は久々の麻子との会話を、ごく自然に行った。


「それよりも麻子、この間はビンタをしてゴメン」


「別に気にしなくてもいいよ。あの一撃で私も色々と考えが改まった訳だし」


「そう? ならよかった」


 そして、私は先日に麻子にビンタをした事を謝った。すると、それを聞いた麻子は、特にそこまでは気にしていない様子であった。


「それよりも麻子、昨日、動画を投稿していたわよね?」


「あぁ、アレね。女月ちゃんも見てくれたんだ」


「そりゃあ、観るわよ。私のいない【D-$】はどんなものかを」


「そう。じゃあ、女月ちゃんのいない【D-$】は、どんな感じだった?」


「なんというか、私がいないとダメね」


「いきなり、厳しい指摘だね」


「当たり前でしょ。私がいた時と違って、曲の明るみがないんだもの」


「まぁ、確かに女月ちゃんがいないと、色々とまとまらないって、紗美さんも詩鈴も、直前まで不安がっていたよ」


「そうだったの。これじゃあ、私がいないとダメね」


「っと、いう事は!?」


「その予想通り、私は【D-$】に復帰するわ!!」


 そして、私はさりげない会話の中から、麻子に【D-$】に復帰する事を伝えた。その言葉を聞いた麻子は、凄く嬉しそうな表情であった。


「ほっ、ホントに女月ちゃんが、【D-$】に戻って来てくれるの!!」


「私が嘘をついてどうする」


「ホントにホントなんだね!! やったぁ~」


 そして、麻子は私が嘘を言っていない事を確認すると、再び私が【D-$】に戻って来たという事に、凄く嬉しそうに喜んだ。


「まっ、私も、麻子や紗美や詩鈴が、先生の忠告を恐れずに【D-$】をやっていたのを見ていると、私も負けていられないと思ってね」


「やっぱり、私の予想は間違ってはいなかったよ」


「予想って、何の事?」


「まぁまぁ、気にせず。それよりも、女月ちゃんが【D-$】に復帰したことを、紗美さんや詩鈴のも伝えるね」


 そう言って、麻子は凄く嬉しそうな表情で、カバンからスマホを取り出し、私が【D-$】に復帰した事を、紗美と詩鈴に伝えていた。


 麻子にとっては、私が【D-$】に戻って来た事が凄く嬉しく感じるという事は、少なくとも、麻子にとって私は【D-$】に必要な存在であるという事が確認できた。

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