第24話 このアイドルのグループ名は?

 わたしを含めてのアイドル活動での、動画撮影から一週間が明けた。先週、公園での動画投稿の撮影を終えたあと、その日の晩に、桜森さんが動画をUTubeにアップをする為に動画の編集を行ってくれました。ホント、桜森さんには感謝です。


 それは、そうと…… あれから一週間の間に、阪畑さん達の動画には、何件かのコメントが寄せられていたので、今日は尾神さんの部屋で、みんなで、その動画を観ながら話をしています。


「そう言えば、今までは投稿をした動画には、コメントなんてなかったのに、先週に投稿をした動画をきっかけに、何件かコメントがあったね」


「そうね。私達の動画でコメントが付いたのは、今回が初めてだもんね」


「いち、にい…… ろく。初めてのコメントは、合計6件もありましたわ!!」


「ろっ!! 6件も!! 私が朝に見た時は2件しかなかったのに!!」


「増えているよ!!」


 阪畑さんも尾神さんも桜森さんも、初めて寄せられたコメントの数を見て、テンションが上がっていた。


「こうして、コメントが来たのを見ると、私達も頑張ったかいがあったね」


「そうね。初めて動画を投稿した時は、麻子と2人でやったけど、その時は再生回数があっただけで嬉しかったけども、見てくれた人からのコメントが書かれるのは、凄く嬉しいよ」


「だね。コメントの中身が気になる分、どんな内容が書かれているか恐いけど、その代わり、この動画を本当に観てくれる人がいるという証にもなるよ」


 始めてのコメントに、阪畑さんと尾神さんは、凄く嬉しそうであった。最も、阪畑さんと尾神さんは、わたしとは異なり、先月からUTubeでのアイドル活動をやっていたのだから、初めてのコメントは、きっと、わたし以上に嬉しいはず。


「やっ、やっぱり、初めてのコメントは、それ程までに、うっ、嬉しいものでしょうか?」


「うっ、嬉しいい? あったり前じゃないの!! コメントが来たんだよ、コメントが!!」


「そうだよ!! コメントがあるって事は、観てくれた人がいるって証なんだよ。嬉しいに決まってるじゃないか!!」


 わたしが、2人に嬉しいか聞いてみると、尾神さんと阪畑さんは決まって嬉しいという事を答えた。まっ、そうでしょうね……


 でも、ただ嬉しいという気持ちだけでいる阪畑さんと尾上さんの事で、わたしは少し気になった事があります。それは、もし、このコメントで書かれている内容が誹謗中傷なアンチコメであった場合です。


 その時は、わたしにも予想は出来ますが、恐らく、阪畑さんと尾神さんの嬉しいという気持ちは一瞬でなくなり、絶対に怒るでしょうね。わたしは、そう思いながらも、阪畑さんと尾神さんの2人に、もしも誹謗中傷なアンチコメを書かれていた場合の事を聞いてみる事にしました。


「あっ、あの…… もし、そこに書かれているコメントが、誹謗中傷なアンチコメだったら、やっぱり、おっ、怒るのでしょうか……」


 わたしは、こんな時に言ってはいけない質問だと分かってはいたものの、ついつい、気になって染まった為、勇気を出して質問をしてみる事にしました。


「まったく、朝芽さんったら、こんな時に、そんな事を言わないでよ!!」


「ごっ、ごめんなさい……」


「確かに、誹謗中傷なアンチコメがあったら、私は怒るわよ」


「そっ、そうですよね……」


 その事に対し、始めに答えた尾神さんは、もちろん怒ると答えた。と、同時に、わたしのせいで、嬉しいと言って浮かれていた気持ちはなくなったようです…… 尾神さん、ごめんなさい。


「私は、別に怒らないよ」


 えっ!? その後に答えた阪畑さんの意見を聞いたわたしは、先程の尾神さんの意見とは異なった為、驚いた。


「どっ、どうしてでしょうか?」


「だってさ、いくら誹謗中傷なアンチコメを書かれても、結局は書いた人の顔も知らない訳だし、実際の私達に対して面と向かって言われた訳ではないじゃない」


「たっ、確かに、そうですけれども…… 本当に怒らないのでしょうか?」


「心の中では、怒るかも知れないけど、そんなアンチコメに怒っていても、キリがないじゃないの」


「おっ、麻子にしては珍しい事を言うわね」


 確かに、尾神さんの言う通り、出会ってからまだ期間が短いわたしからでも、この阪畑さんの意見は珍しいと思った。わたしは、阪畑さんは、誹謗中傷なアンチコメを見たら絶対に怒ると思っていた。けど、違うみたいですね。


「だってさ、誹謗中傷なアンチコメを書いている人って、結局は私達の動画を観てから書いているわけでしょ」


「確かにそうだけど…… もしかして、麻子が怒らないって言ったのは、それが理由なの?」


「とりあえず、そうかな。これに関しては、とあるUTuberも言っていたじゃない」


「なんて?」


「信者もアンチも0,1円であると」


 ん? 信者もアンチも0,1円? あっ、そっか…… 確か、阪畑さん達が動画を投稿しているUTubeって、投稿した動画の再生数に応じて、収入が入って来るシステムがあったんだっけ。だから、阪畑さんは、誹謗中傷なアンチコメを書かれていても、怒らないと言ったのね。


「そう言えば、UTubeって、観た人に応じて、収入が入って来るんだったね」


「そうそう。だからこそ、アンチコメでも、怒らずに済めるのだよ」


「なるほど~ 麻子が怒らない理由は、本当にそれだけ?」


「別に、それだけでは、ないよ。ただのアンチコメに関しては、間違っているところを指摘してくれている場合もあるし、改善点なども見つかるかも知れないしね。一端に、アンチだからと言って、怒る理由にはならないよ」


「じゃあさ、朝芽さんもさっき言った様に、誹謗中傷な場合も同じなの?」


「まぁ、一度や二度の場合は許せても、限度を超えた場合は、ブロックをしてしまえば終わりよ」


 やっぱり、信者もアンチも0,1円の精神でいても、アンチコメには限度ってのがあるんですね。


 そんな時、桜森さんが、なにか言いたそうな事があるかのように、ウズウズとしていた。


「そんな話をしているよりも、早く、動画に寄せられたコメントを見ましょ!!」


 どうやら桜森さんは、さっきから早く動画に寄せられたコメントを見たくて、ウズウズしていた様である。


「そうだったね。早くみよっか」


「そうね。今日はその為に、みんな私の部屋に来たのだから」


 そう言って、尾神さんは、部屋に置いているパソコンの方に向かった。始めて寄せられたコメントだけに、1人で読むのは勇気がいるというのを理由に、この日は尾神さんの部屋に集まり、みんなで一緒にコメントを見るという事になった。


「それじゃあ、コメントを読んでいくわね……」


「うん、早くして……」


 そして、尾神さんは、今までに投稿をした数々の動画のコメント欄に書かれているコメントを読み始めようとした。


「一気に読んでいくわね……」


「うん」


 わたしを始め、阪畑さんも桜森さんも緊張して見守る中、尾神さんはマウスを動かしながら、マイページに表示されている新着をクリックし、書かれているコメントを読み始めた。


「『黒髪の子が可愛いです』『黒髪の子が可愛いだけでなく、凄く歌が上手いです!!』『ファンになります!! だから、頑張ってください』『下手ながらも、ダンスを頑張っているのを見ていると、今後も応援をしたくなります』『某有名なアーティストの曲を、見事にカバーしましたね。お見事!!』ってな感じかな?」


 とりあえず、尾神さんの言葉から出てきた、動画に付けられたコメントには、誹謗中傷なアンチコメは書かれていなかったようです。


「にしても、朝芽さんに関するコメントが多いね……」


「そりゃあ、朝芽さんが、一番可愛いからだよ」


「悔しいけども、やっぱり、観ている人も、朝芽さんの可愛さは分かっているのね」


「でしょう、朝芽さんは、私の言った通り、髪を解きメガネを外すと、すっごく可愛いでしょ!!」


 動画に寄せられたコメントの多くが、わたしに関する事であった。


 そんな中、尾神さんは、パソコンの画面を見ながら、何か凄く気になるコメントを観たようであった。


「そういえば、コメントの中に、こんなコメントがあったの」


「え!? なになに、行ってみて?」


「『このアイドルのグループ名は?』というコメントよ」


 最後に寄せられていたコメントは、わたし達のアイドルグループのグループ名に関するコメントであった。そう言えば、わたしも、またグループ名は知らない。


「ぐっ、グループ名!? そう言えば、決めてなかった……」


 どうやら、阪畑さんはグループ名を決めていなかったようである。

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