第22話 マンツーマンで練習②

 先程から、尾神さんは何度も歌の練習を行っているが、一向に裏声から透き通るような声は出ない状態であった。


「おっ、尾神さん…… 透き通るような声を出すのには、まずはお腹の力を入れてみて」


「どんな感じに?」


「どんな感じと言われましても…… とりあえず、腹筋に力を入れてから声を出すと、透き通るような感じの声が出ますわ」


 わたしは尾神さんから、どんな感じにしたら透き通るような声が出るのかと聞かれたので、わたしは、いつもやっている歌を歌うやり方で、実際に透き通るような高い声を出してみた。


「ほぉ~ なるほど。そんな感じで出しているのかぁ」


「わたくし達も、ぜひとも参考にしておかないとね」


 わたしが出した声を聞いた阪畑さんと桜森さんが、2人そろって関心をしながら見ていた。


 そして、再び声を出し終えると、わたしは尾神さんに、もう一度、高い声を出してみる様に言った。


「そっ、それじゃあ、さっき言った様に、もう一度高い声を出してくれるかしら」


「分かったわ。今度こそやってみるわね!!」


 尾神さんは、張り切った様子で、先程のわたしと同じ様な感じで、透き通る様に高い声を出し始めた。


「うん、うん…… 女月ちゃんの声は、さっきよりはマシになったね」


「そう言えば、そうね」


 確かに、阪畑さんと桜森さんの言う通り、尾神さんの声は、今までよりはマシになって来た。先程よりも高い声を出していた尾神さんは、声を出し過ぎたのか、突然、蒸せるように声を出すのを止めた。


「ふぅっ~ やっぱ、長時間声を出すのは難しいね」


「でしょう。でも、実際に歌うとなると、さっきの様に透き通る様な声を、何度も出していかなければいけないのよ」


「えぇ!! そうなの!?」


「そっ、そうですわ。それに、歌となると、声を出すのとは違って、声の高さのトーンも調整しながら歌わないといけないから、もっと大変ですわ」


「そっ、そうなの!!」


 わたしが、歌を歌う時は、声をトーンの調整をやりながら歌っている事を尾神さんに伝えると、それを聞いた尾神さんは、まだまだ物事を覚えなければいけない事があると思い、ダルそうな表情で、その場に座り込んだ。


 そんな尾神さんの様子を見た阪畑さんが、わたしの方を見ながら話を始めた。


「まぁ、女月ちゃんがこんな状態になっちゃったから、ここはひとまず休憩をしよ!!」


「それが良いですわ」


 阪畑さんだけでなく、隣にいた桜森さんも休憩の案に賛成をしていた。


「そんな事言うけどさ~ あんた達は、まだ練習を何もやっていないじゃないの!?」


「そんな事はないさ」


「そうですわ。尾神さんが朝芽さんから歌を教わっている時は、私達だって一緒になって練習を見ていたのですから」


 休憩をしようと言った阪畑さんと桜森さんの2人に対し、地べたに座り込んでいた尾神さんは、2人の方を見ながら練習をしていない事を言うと、それを聞いた阪畑さんと桜森さんは、再び2人そろって、見ながら練習をしていたと言った。


「そう? じゃあ、さっきのヤツやってみてよ……」


 その為、尾神さんは、阪畑さんと桜森さんをジト目で睨む様に見ながら、先程の練習のヤツをやってみる様に言った。


 すると、まずは阪畑さんがその練習でやった事をやろうとして、ほんの少し動いた。


「そうだね、じゃあ、やってみるよ……」


 そう言って、阪畑さんは先程の練習でやったお腹に力を入れながらの、透き通る様に高い声を出し始めた。もちろんとは言っては尾神さんに失礼だが、あえて、この言葉を使わせていただきます。もちろん、阪畑さんが出す、透き通る様に高い声は、先程の尾神さんの声よりも、余程上手い声であった。


 そして、阪畑さんも一通り息が切れるまで声を出した後になって、自ら声を出すのを止めた。


「はぁはぁはぁ…… これって、結構続けるのって、しんどいね……」


「そうでしょ。なんせ、この私だってしんどかったのだから、麻子がやったら、すぐに疲れるに決まってるわ」


 声を出す練習で疲れ切った阪畑さんは、そのまま尾神さんと同様に、地べたに座り込んだ。


 そんな阪畑さんを見た桜森さんが、次はやるぞと、言う様な雰囲気を出しながら、立ちはじめた。


「じゃあ、次はわたくしがやってみますわ」


 そして、桜森さんも、先程の尾神さんや阪畑さんと同様に、お腹に力を入れ、透き通る様に高い声を出し始めた。そんな桜森さんが出す声は、先程の尾神さん、いや、阪畑さんよりもよほど上手かった。そんな桜森さんは、阪畑さん以上に、長い時間、声を出し続けていた。


 そして、ある一定の時間が経過した頃に、桜森さんも声を出すのを止めて、地べたに座り込んだ。


「はぁはぁ…… ホント、透き通る様に高い声を出すのって、難しいわね」


「でしょ、私だって、始めは凄く簡単だと思ってやってみたのだけれども、いざやってみたら、これが、凄く難しかったの」


 地べたに座った桜森さんは、隣に座っていた阪畑さんと一緒に話をし、透き通る様に高い声を出す練習がいかにしんどいかを語り始めた。


 そして、阪畑さんと桜森さんは、そのまま地べたに座り、話を始めた。


「にしても、こんな高い声を長時間トーンの調整をしながら出し続ける事が出来る朝芽さんって、ホント凄いね」


「確かに、阪畑さんの言う通りね。一体どんな特訓をやったら、この様になるのかしら?」


「そうなるには、やっぱり、体力を付ける練習が大事よ」


「って、女月ちゃんは、なんでいつもそうなるの!?」


「だって、体力作りは、どんな状態にしたって必要でしょ!!」


「確かに、尾神さんの言う通り、体力作りは基礎ですわ」


「ほら、桜森さんだって言っている事だし、やっぱり、体力作りは必要なのよ」


「も~う、2人そろって、体力作りはないよ~」


 そう言って、阪畑さんは、嘆きながら、そのまま地べたに寝転がり出した。


 その時、わたしは地べたに寝転がった阪畑さんを見てある事を思い出した。そう言えば、アイドル活動って言うくらいだし、ダンスもあるんだった。以前に観た動画では、阪畑さん達もダンスを踊っていたわけだし…… ここはひとつ、わたしも阪畑さん達に負けないくらいの体力を付けないと……


 そう思い、わたしは地べたに座って休憩をしていた尾神さんに、勇気を出して喋りかけた。


「あっ、あの……」


「ん? どうしたの? もう休憩は終わるの?」


「おっ、尾神さん…… 今度は、わっ、わたしに、ダンスの基礎となる、体力作りのコツを教えて欲しいの……」


 勇気を出して言ったわたしの声を聞いた尾神さんは、地べたから立ち上がり出した。


「いいわよ。確かに朝芽さんは、遅れて入って来たのだから、少しでも遅れを取り戻さないといけないから、今はたくさんの練習が必要ね」


「そっ、そうですね……」


 そして、わたしの体力作りの練習に付き合う為、尾神さんは、走る準備を始めた。


「せっかくだしさ、今から、朝芽さんを入れての、みんなで校庭10周のランニングをやるわよ」


「えぇ!! このクソ暑い中をランニング!?」


「そうよ、朝芽さんが頑張る気でいるんだから、リーダーである麻子が頑張らないでどうする?」


「確かにリーダーだけどさ…… こんな時ばかりの、都合の良いリーダーじゃないよ……」


「ほらっ、阪畑さん、頑張りましょ。その頑張った先には、きっと楽しい事が待っていますから」


「そうだね。このキツイ練習を乗り越えれば、きっと、ダンスだって歌だって、今よりも上手くなる」


「そうよ、今から始めるランニングは、その為のランニングですわ」


「そうだね。んじゃあ、走るとしよっか!! だれが先にゴール出来るか競争だぁ!!」


 そう言って、ダンスや歌が上手くなる為の体力作りの練習だと言って、ヤル気を出した阪畑さんは、1人で先に走り出した。


「全く…… 麻子ったら、昔から無茶ばかりして」


「暑さで、途中で倒れていなければ良いんですけどね」


「あぁ、そうだな」


 そして、その後に、尾神さんと桜森さんの2人も、麻子の後を追う様に走り始めた。


「私達は、ゆっくりと走るから、朝芽さんはなるべく、そのペースについて来れる様に走って来てね」


「はっ、はい…… 分かりました……」


 こうして、わたしは、みなさんと一緒に、歌やダンスを行う為の体力作りとして、暑い炎天下の元でのランニングを始めた。

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