第15話 メッセージ
ここは、図書室……
図書室内のテーブルの上に置かれているカバンの中から、ブザー音が聞こえてきた。
「ん? 詩鈴のカバンからブザー音が? メールをやる相手って、私以外にいたっけ?」
そう言いながら、詩鈴の友達である山田は、悪意とは気にせず、詩鈴がいないのを良い事に、こっそりと詩鈴のスマホを観始めた。
『朝芽さん、こんにちは!! 始めてのメールを送ってみました♪ 今日の放課後、私達の練習風景を見に来るよね? その時、山田さんも一緒に連れて来てくれないかな? 私達の練習風景を見れば、反対をしていた山田さんもきっと納得をしてくれると思うよ。だから絶対、山田さんと一緒に来てね。放課後に、校庭の隅で練習をしているので、気軽に見に来てね♪ それじゃあ、待っているから。』
詩鈴宛に受信されたチャット文を、こっそりと読んでいた山田は、詩鈴には特に罪はないが、どうも納得が出来ず、イラ立った様子となった。
「馬鹿ね……」
そう言いながら山田は、チャット文の送り主である麻子宛てに、チャットを送り返した。
『ごっ、ごっめんね~ せっかくのお誘いだったけど、実は私、急用が出来てそちらには行けなくなってしまったの!! ほんと、ごめんね』
という内容のチャット文を、麻子宛てに送信をした後、山田は証拠隠滅の如く、詩鈴に届いたチャット文と先程麻子に送信したチャット文を削除した。
「詩鈴は、私が守らないと……」
そう言いながら、山田は詩鈴のスマホをカバンの中に戻し、何事もなかったかの様な状態にした。
そして、放課後……
「そう言えば、朝芽さん、私達の練習を見に来れなくなったけど、どんな急用かな?」
「さぁ、私に理由を聞かれたって分からないわよ。そんなに気になるなら、直接本人に聞けばいいじゃないの?」
「それが、さっきから朝芽さんとは連絡がとれないんだよ」
「とれないって事は、余程の急用なのよ。さっ、今日もいつも通り、練習をやるわよ」
この日の放課後は、本来ならば私達のアイドル活動の練習風景を見学に来てくれるはずであった朝芽さんと山田が来なかった為、私は少し心配をした。
しかし、女月は特に心配をする事もなく、いつもの様に練習を始めると言って、腕のストレッチをやり始めた。
女月が心配をしないのなら、私は紗美にこの事を聞いてみる事にした。
「紗美さんはさぁ、朝芽さんが来ない事についてどう思う?」
「どう思うと言われましても…… やっぱり、朝芽さんの突然の用事でしょ」
「いや、その突然の用事が怪しいのよ」
「怪しいとは、どの様に怪しいのでしょうか?」
「なんだろうね? なんか、私達から逃げるかのように用事があると言った、断りのメールを入れているのよ」
「まさか、そんな事はあり得ませんわ。仮にそうだとしても、朝芽さんが嘘をつく理由はどこにあるの?」
確かに、紗美の言う通りである。詩鈴はウソをつく様な子ではないという事は、今朝の登校中に一緒に話をして感じた。だから、今回の用事は、やっぱり本当なのかな?
「確かに、嘘をつく理由なんてないよね。仮にあったとしたら、それは、緊張をして逃げる為の言い訳ぐらいかぁ~」
「でしょうね。でも、朝芽さんは、この前の私達のアイドル動画を観ていた時には興味を持っていたし、絶対に緊張をして逃げる様な子ではないと思うのですけどねぇ~」
「だね」
やっぱり、朝芽さんが私に送って来たメールの真相はいまいち分からなかった。ただ、もし本当に朝芽さんが嘘をついたメールを送っていたら、それは……
「もしもだよ、もしも仮に本当に朝芽さんが私達に嘘をついたメールを送ったとしたら、あの方のせいだよ。きっと」
「あの方とは?」
私はもし仮に本当に朝芽さんが嘘をついてまで用事があると言ったメールを送った理由は、ある人物のせいだと思った。
「あの方とは、女月ちゃんだよ!!」
「えぇ!?」
「なんでそうなるのよ!?」
私がその詩鈴は用事があると言って嘘をついたメールを送った理由は、女月にあると言うと、紗美だけでなく女月までもが驚いた。
一件、なんの根拠もなく言った様に思うが、実はれっきとした根拠がある。
「だって、朝芽さんと初めて会った時に、女月ちゃんは山田に怒鳴ったじゃない。そのせいできっと、人見知りの朝芽さんは女月ちゃんに会うのが怖くなったんだよ」
「まさか、その程度で怖がるのか?」
「人によっては怖がるよ」
詩鈴は用事があると言って嘘を言った理由が自分にあると思い込んだ女月は、凄く驚いた様子でいた。
「本当にそうだとしたら、謝らないとね」
「本当だったらね。これは、あくまでも私の予測の1つに過ぎないから、本気で気にしたらダメだよ」
「なぜか、気にしてしまうよ」
まぁ、そうだろうね。原因が自分にあると思ったら、誰だって気にしてしまうよ。
「もう、朝芽さんの事は置いておいて、練習を始めるわよ!!」
「そうね。始めましょっか!!」
「やっぱり気になるけど、もしかしたら、用事が済んだら来てくれるかも?」
私は用事が済んだら朝芽さんが練習の様子を見に来てくれると思いながら、女月に言われるがまま、この日の練習に取りかかった。
この日の練習は、柔軟を柔らかくする為のストレッチから始まった。
「いてててぇ~」
「ほらっ、麻子、もっと足を広げなさい!!」
私は足を広げた状態で地面に座って行く練習で、凄く痛い思いをしていた。なぜなら、私は女月や紗美とは異なり、身体が柔らかくないからだ。
もちろん、その思いの通り女月と紗美は凄く何度の高い柔軟を楽々とこなしている。あんなのやって、痛くはないのか? 私はそう思いながら、痛い思いをやりながら、両足をゆっくりと広げていった。
「麻子さん、頑張ってください!!」
「頑張ってるけど、痛いよ~」
「初めは誰だって痛いのですわ。それを乗り越えてこそ、痛い思いから解放されるのよ」
確かに、何度も何度も経験を積めば、開脚をしても痛くはなくなるらしい。でも、そこへたどり着くまでの道のりが、まさに棘の道の様に、辛い道のりだ。
そして、結構長い事開脚を続けてきたが、さすがに限界が来て、私は地面に倒れこんだ。
「ふぅ~ この練習って、結構キツイね」
「何言ってるのよ。なれたら楽よ」
「でも、慣れるまでが、凄く大変じゃない」
「慣れたら楽なモノよ。さっ、次も体力練習よ!!」
そう言って、女月は鬼コーチの如く、床に倒れ込んでいる私を見ながら、次の練習メニューを言おうとした。
「また体力作り!? せっかくだし、別の事をやろうよ」
「また言い訳? 基本は大事ですよ」
「尾神さん、基本も大事ですけれども、たまには気分転換に別の事をやりましょ!!」
私の言い訳を聞こうとしなかった女月に対し、紗美も私と同意見の事を言って、女月に別の練習をやらせようとした。
「別の事って、何をやるのよ」
「そうねぇ…… 私達の活動はアイドル活動ですから、次の動画は歌を歌う動画を上げてみましょう!!」
「えぇ!! 歌を!?」
「そうよ。歌よ。だって、アイドルなのですから」
そして紗美が、歌の動画をアップする事を言うと、女月は顔色が悪くなるように嫌がった。
「そうだよ女月ちゃん!! 何事も経験、逃げてはダメだよ!!」
「確かに、私も今まで散々言ってきた分、ここで逃げるわけにはいかないわね」
しかし、女月は何事にも経験の精神で、逃げようとはせず、前向きに歌に取り組もうとした。
「そうだよ。その勢い!!」
そんな女月の意気込みには、私も見習いたくなるくらいアッパレなものだった。
その後、これから撮影をする歌動画を、ある方に伝える思いの歌を歌おうと思った。
「あっ、そうだ!! せっかくだし、これから撮影をする動画は、ここに来れなかった 朝芽さんと山田に、私達の活動を伝える為の動画にしようよ」
「どんな感じにですか?」
「歌で伝えるんだよ。私達のアイドル活動の頑張りを」
「なるほど、それは面白いですわね」
「でしょ。これから撮る動画を観てくれれば、きっと今日ここに来れなかった朝芽さんと山田も、私達の頑張りぷりを分かってくれるよ」
「そういう動画になる様に、私も頑張らないとね」
私が思いついたのは、これから撮影をする動画で、この日の練習を見に来れなかった朝芽さんと山田にも、私達の頑張りや努力が伝わる様な歌を歌う動画を投稿する事であった。
「でも、私達が歌える歌で、私達の頑張りぶりなんて分かってくれるかしら?」
「女月ちゃん、始めから心配をしていてはダメだよ。歌の歌詞よりも歌っている人の心で伝えるのだから!!」
「そうよ。私達の様子を見ていただければ、例え、投稿された動画内では楽しく踊っているだけでも、その奥には実際に見に来なくても、私達の頑張っている姿が目に浮かんできますわ」
「そうかもね。じゃあ、歌の練習を始めましょ!!」
そして、この日は用事で練習を見に来ることが出来なかった朝芽さんにも、私達の頑張っている姿を伝える為、私達は、歌い始めた。
この日、アイドル活動において、初めて歌を歌う動画を投稿した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます