第7話 動画を観ながら話

 この日の休憩時間、私と女月は、新たにアイドル活動を行う仲間である紗美を教室に呼び、昨日に投稿をした動画を一緒に見る事にした。


 紗美がいつも使っていると言う、高価で高画質なビデオカメラで撮影された私達のダンスの映像は、UTubeに投稿された動画をスマホで観ていても分かるくらい綺麗な映像であった。


「凄い! 前回の動画とは画質が違い過ぎるよ!!」


「ホント。前回の画質はどこかボヤけた感じはしていたけど、今回はスマホで観ても分かるくらい、繊細な鮮明な画質になっているわね」


「あのビデオカメラは凄いよ!!」


 2回目の投稿を行った翌日、私と女月と紗美の3人が教室で集まって、昨日に投稿をしたダンスの動画をスマホで見ていた。


 そのダンス動画の画質は、小さなスマホの画面で見ていても分かるくらい、女月の言う通り繊細で鮮明な画質である事は、観ているとすぐに気が付く。


 あと、前回からの動画編集は、紗美が行う様になり、私達のアイドル活動の動画の撮影を終えた後、家に帰ってからその動画をパソコンに入れた後で、その動画を編集してUTubeに投稿しているようである。


 只でさえ無理を言って、部活でもなんでもない私と女月のアイドル活動の為にビデオカメラを持って来てもらい、撮影をさせてもらっていると言うのに、更に編集まで紗美に任せるなんて…… いやっ、ホント紗美さん、ありがとうございます!!


 それと引き換え、紗美さんのアドバイスをキッカケに、私は前回の撮影からはマスクの着用をしない事を決めた。アドバイスとは言え、マスク着用をしないと決断をしたのは私であるが、そのせいもあってか、素顔が丸出しになってしまい、初投稿の時よりも凄く緊張がした。


 そう、今こうして昨日に投稿された動画を観ている時も、丸出しとなった自分の顔を観るのは、無性に恥かしい気分である。動画を観ている今は、嬉しいと言う反面、恥かしいという気分でもある。今後はなれるのかなぁ?





 そんな感じで私と女月は、紗美が持って来たビデオカメラの高画質な映像を観ていた。


「どう? 私のビデオカメラは凄いでしょ」


「凄すぎるよ!!」


「うん。凄いよ」


「女月さんも麻子さんもそう言ってくれて、ホントよかったわ。わたくしもあのビデオカメラを持って来たかいがありましたわ」


 私と女月がビデオカメラの性能を褒めると、そのビデオカメラの持ち主である紗美は嬉しそうに喜んだ。


 投稿された動画の画質を楽しんだ後は、その次に私達は、ダンスの評価をしあった。


「そんな事よりも、今回のダンスはどうだった?」


 まず初めに、ダンスの評価を聞いたのは女月であり、主に私達のダンスの振り付けを考えたりしてくれている女月が、紗美にダンスの評価について聞き始めた。


「わたくしは、こう言った感じのダンスは始めてでしたけれども、クラシックバレーとは異なり、結構楽しめましたわ!!」


「私は初めての投稿に比べたら、上手く出来たと思うよ」


「なるほど、確かに麻子のダンスは初回の動画投稿に比べると、上手くはなっていると思うわ」


「次に、桜森さんのダンスはこればかりは私も予想はしていなかったけど、桜森さんって、ビデオカメラの投稿が得意と言っていたけど、ダンスを踊るのも、意外と上手いわね」


「そう、ありがとう」


 女月からダンスが上手いと褒められた紗美は、またしても嬉しそうな様子となった。


「感想を聞いてみても、確かにダンスの方はこのまま練習をする様に踊って行けば、いずれは歌を歌いながらでのダンスを可能になるかも知れないわね」


 その後、女月は次のステップを考え始めていた。


 あぁ、そうだった!! 私達がこの動画を投稿している最大の目的は、ただダンス動画をアップするだけではなく、歌って踊れるアイドルの様になっていくのが目的だった。只でさえ、ダンスの振り付けを覚えるのに精一杯の私に、これから先の歌って踊れるアイドルの様な事が、本当に出来るのか、私はこの一瞬、脳裏に不安を横切った。


「あれっ? 麻子、どうしたの? 一瞬で顔色がさえなくなったわね」


「麻子さん、体調を崩されたのでしたら、保健室で寝る事をオススメしますわ」


 不安そうな顔になった私を見た女月と紗美は、私の事を心配してくれた。


「大丈夫だよ…… ただ、私がダンスをやりながら歌なんて歌えるようになるのか、少し心配になって……」


「確かに麻子は、ダンスの振り付けを覚えるのにも一苦労していたわね」


「そうでしょ!」


「確かにそうね…… でも、歌って踊れるのはダンスがなれれば大丈夫よ」


「ホントに!?」


「ホントよ。だから今はダンスを頑張るのよ」


「うん、頑張るよ」


 女月により励まされた私は、先程よりも少し自信はついたかも知れない。


「そうよ。今はとりあえずダンスがある程度上達するまで頑張らないと、ダンスはアイドルの基礎なんだから」


「そうだね!! ダンスでつまずいていたら、肝心な歌の動画も投稿出来ないもんね!!」


 そんな感じで、私と女月が話をしていると、紗美が何か思いつめたような表情をやりながら、私と女月に質問をやって来た。


「そう言えば、歌うだけであるのでしたら、どうしてバンドを選ばなかったのでしょう?」


 バンド!? あぁ、ギターやドラムなどの楽器を演奏するヤツか…… 確かにUTubeを観ていても、一般人の歌ってみた系の動画なんて、基本はギターを弾きながら歌っているのが多い。


 あのトップUTuberである『レンレ~』って人も、始めはギターを弾きながら歌を歌っていたっけな。


「まぁ、単に楽器を買うだけでもお金がかかるでしょ」


 うん、女月の言う通り、バイトのしていない女子高生である私達には、楽器なんて買うお金はありません!!


「確かに、楽器をやろうと思うと、持っていないとまずは楽器を買わないといけないから、お金はかかるわよね」


「そうそう、だからお金のかからないダンスをやる事にしたワケなの」


 えぇ!? そんな理由で、歌って踊れるアイドルをやろうって思っちゃったワケ!? 単に、貧乏な発想じゃないの!!


「なるほど…… 確かに、楽器の演奏とは異なり、ダンスを行う方がお金はかからなくて良いかも知れないですわね」


「でしょ。それに私はダンスの経験はあるけど、楽器の演奏の方は苦手なのよね」


「そうなの。確かに苦手な楽器を無理して選ばれるよりも、経験のあるダンスを選ばれた方が正解よ」


 そう言えば、私は女月が楽器を演奏しているところなんて見た事がない。それどころか、女月は体育の成績は良くても、音楽の成績は悪い。そんな女月は、どうして私と一緒に歌うアイドル活動なんかに参加をしてくれたのだろうか? この時、私の脳裏には、ひとつのどうでも良いともいえる疑問が浮かんでしまった。


「そう言えば、桜森さんは、なにか楽器は出来るの?」


「わたくしですか? わたくしは、ピアノやギターなどの楽器が出来ますわ」


「すっ、凄い!!」


 確かに凄すぎる!! ピアノだけでも凄いと言うのに、その上、ギターまでもが弾けるなんて。なんと言うか、紗美のイメージなら、確かにピアノが弾けると言われると、一瞬でピンとくる。


「桜森さんは、ピアノやギターも弾けるとか言っていたけど、それらも親の影響かしら?」


「確かに、親の影響かもしれないわね。ピアノは子供の頃からクラシックバレーと同様に習っていたの」


「じゃあ、ギターも習っていたとか?」


「ギターに関しては、親が持っていたので、少しばかり教えてもらったの」


「へ~ そうだったの。桜森さんの家って凄いね」


 確かに、紗美の家は凄すぎるよ。子供の頃からの習い事は、クラシックバレーにピアノ。そして、親の趣味はビデオカメラでの映像撮影。オマケに、いらなくなった50万もするビデオカメラを、娘の紗美にあっさりと渡しちゃう親。そんな紗美の家って一体……

 

 



 そう、私が女月と紗美の話を聞いていた時、突然、教室中に休憩時間終了を知らせるチャイムが鳴った。


「あっ!? もう休憩時間が終わりだ」


「話をやっていると、すぐに時間は立つわね」


「みんなも、席に着き始めていますし、わたくしも教室に戻りますわ」


 休憩時間の終了と共に、紗美は座っていた席を立ち、教室を離れた。


「じゃあ、また放課後ね」


「うん、待ってるよ」


「今日も、ダンスの練習で行くわよ」


 そう言って、紗美は私と女月に手を振って別れを告げた後、自分の教室へと戻って行った。

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