埋めろ、年号メイク10パズル
snowdrop
Kamakura Period
「ねえ、橘。パズル考えてみたけどやらない?」
休み時間、隣の席の樋口が声をかけてきた。
澄まして座っていれば楚々とした可憐さがある彼女は、退屈になると、授業中でも構わず嫌がらせじみたちょっかいを掛けてくる。
以前より頻度は減ったかわりに、勝ったら奢るよう求められる。
しかも適用されるのは彼女だけで、橘が勝っても名誉しか得られない。
不公平極まりないのだから、自重してほしい。
「いいけど、どんなパズル?」
「こういうのなんだけど」
彼女が差し出したルーズリーフには、手書きで数字が書かれていた。
5 5 5 5=10
「10パズル?」
「名前は知らないけど、そうなの?」
「四桁の数字を一桁の数字として、四則演算などを用いて10を作るパズルだよね。メイク10とも呼ばれる。車のナンバープレートなどをつかって短時間でできる遊び。ちなみに、これは……」
橘はペンを手にすると、四則演算の記号を書き込んだ。
5+5+5-5=10
5×5÷5+5=10
5×(5+5)÷5=10
「こんな感じかな」
「そうそう。四つの数字を、足したり掛けたりカッコを使って、十にするパズル。昨日、年号をおぼえていたときに思いついて。それでね、これを使ったビンゴパズルを考えたの」
樋口はそう言うと、ルーズリーフをひっくり返した。
そこには手書きで表が書かれていた。
鎌倉幕府成立 頼朝征夷大将軍 北条時政執権
承久の乱 御成敗式目制定 文永の役
弘安の役 永仁の徳政令 鎌倉幕府滅亡
「鎌倉時代に起きた出来事が書かれています。これらが起きた年号をつかって、10パズルを解いていき、相手よりもはやく、縦横斜め、どこでもいいので一列できた方の勝ち。使っていいのは四則演算まで、カッコも使っていいけど、かならず数字は一桁にして計算すること。数字の順番は入れ替えてもいいけれど、二桁にして計算するのは反則ね」
「オッケー、わかりました。できたら申告するの?」
「うん。たとえば橘が先に文永の役ができたら、『文永の役ができました』っていって、計算式をここに書いて。とにかく、相手より先に年号から10パズルを作って書き込み、一列つくれば勝ちというルールです」
樋口の説明を聞いて、納得した橘は、計算用にルーズリーフを用意した。
樋口も自分のルーズリーフを一枚、机に置く。
「じゃあ、スタートっ」
樋口の声を聞いて、橘はパズルに取り掛かる。
いかに計算式をはやく作るのかも大事。
だが、それよりも鎌倉時代に起きた年号を覚えていることが必須だ。
わかっていなければ、計算できない。
手始めに橘は、源頼朝、征夷大将軍になった年から計算し始める。
「よし、で~きた」
樋口が声を上げた。
「
鎌倉幕府成立 頼朝征夷大将軍 北条時政執権
(1+1)÷2+9=10
承久の乱 御成敗式目制定 文永の役
弘安の役 永仁の徳政令 鎌倉幕府滅亡
樋口が表に書き込んでいくのを横目に、橘は息を吐く。
「先を越された。いまそれを計算してたのに」
「残念だったね」
いひひ、と樋口が小さく笑うのが聞こえた。
彼女がビンゴを狙うには、御成敗式目と永仁の徳政令を埋めなければならない。
どちらか一つ、先に答えてしまえばビンゴは防げる。
御成敗式目のほうが簡単かもしれない。
そう当たりをつけて、橘は計算をはじめる。
「ぼくも、出来た。
橘は早速、表に書き込んだ。
鎌倉幕府成立 頼朝征夷大将軍 北条時政執権
(1+1)÷2+9=10
承久の乱 御成敗式目制定 文永の役
1×2×(3+2)=10
弘安の役 永仁の徳政令 鎌倉幕府滅亡
「ちょっと、わたしのビンゴの邪魔しないでよ」
彼女が顔をしかめて睨んでくる。
「邪魔しないと、ぼくが負けるだろ」
「そこは負けて、勝ちを譲りなさいよ」
「勝負にズルは駄目だよ」
「レディーファースト」
「男女雇用均等法だよ」
「これはパズルであって、雇用とは関係ないよ」
そういうのは屁理屈だよ、と言い返すより先に、
「できた。御家人に
樋口が先に解いてしまった。
鎌倉幕府成立 頼朝征夷大将軍 北条時政執権
(1+1)÷2+9=10
承久の乱 御成敗式目制定 文永の役
1×2×(3+2)=10
弘安の役 永仁の徳政令 鎌倉幕府滅亡
2×9-1-7=10
「橘が先に御成敗式目を埋めなければ、ビンゴ達成したのに」
悔しがっている樋口をよそに、橘はつぎの年号を考えていた。
樋口がビンゴを狙うには、弘安の役と鎌倉幕府滅亡を計算しなければならない。
同時に、橘自身がビンゴ成立するためにも、どちらかを解かねばならなかった。
「えっと……できた、
鎌倉幕府成立 頼朝征夷大将軍 北条時政執権
(1+1)÷2+9=10
承久の乱 御成敗式目制定 文永の役
1×2×(3+2)=10
弘安の役 永仁の徳政令 鎌倉幕府滅亡
1+2+8-1=10
2×9-1-7=10
表に書き込んでいる間も、樋口は絡んでこようとはしなかった。
必死で自分の問題を解いている。
彼女を気にしているよりビンゴ達成を、と樋口は残り一つの挑もうとした。
「むっ。これって……」
年号を思い出したとき、
「
樋口が先に解いてしまった。
鎌倉幕府成立 頼朝征夷大将軍 北条時政執権
(1+1)÷2+9=10
承久の乱 御成敗式目制定 文永の役
1×2×(3+2)=10
弘安の役 永仁の徳政令 鎌倉幕府滅亡
1+2+8-1=10 1+3+3+3=10
2×9-1-7=10
「樋口さん、この問題には出来ない年号があるんだけど」
「え?」
鎌倉幕府成立の年号を計算していた樋口は手を止め、顔を上げた。
「負けそうだからって、嘘付いてるとか」
「ついてないよ。北条時宗が執権についた一二〇三年は、どう計算しても十にはならないし、一二二一年の承久の乱も同様だよ」
橘の指摘を聞いて、ありゃりゃと呟く。
「これ以上解いても、ビンゴは成立しない?」
「一二七四年の文永の役を解いても成立しないよ」
橘の言葉を聞いて、樋口は机に突っ伏してしまった。
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