第五章
第64話 プロローグ
オレはある日、通り魔に殺された。しかし、目を覚ますとそこは異世界でしかも、顔は王子の様なイケメンのくせして性格はクズであるクズ王子、公爵家ジュリネオン家の長男、アークヴァンロード・ジュリネオンに転生していたのだった。そんなオレの異世界転生冒険譚はまだまだ続く。
ついこの間、魔族ノアールトの手により封印が解かれてしまった、魔王を倒した英雄を殺したとされた「英滅龍ルーアサイド」と一戦を交えた。転生にはお馴染みのチート能力が言わずもがな自分にはあり、今まではその力のおかげで様々な敵を乗り越えてきたのだが今回はそう簡単にもいかず、一筋縄では行かなかったものの倒すことができた。
そんなオレは龍を倒したことにより、『
と、あらすじ的にはこんな感じだ。
そんなわけで、オレの学園生活は今日も始まるわけだが、何かと変わったことがある。
それは学園内でのオレに対して向けてくる目線だ。今まで、オレに対して送ってくる目線は「クズ王子…この野郎…」みたいな感じのものや「なんでここにいんの、まじきも(笑)」みたいなものが多かった。しかし、今オレに向けられる視線にはそのような雰囲気はないように思える。
まあ、オレが龍を倒し
※ ※ ※
「お前、転校しろ」
「は?」
あまりにも唐突過ぎるメレナの発言に思わずオレはそんな風に言ってしまう。丁度おお昼休憩での事、いつもの面子で食堂へと向かおうとした時に唐突に校内放送があり、それはオレを学園長室に呼ぶためのものっだった。一体何の用事なのかわからなかったもののただ一つ、ろくなことではないということは察していた。
「あまりにも意味が分からなすぎるんだが」
「ああ、言葉が足りなかったな。めんどくさくて端折ったわ」
「短くするならもうちょっと話の趣旨を明確にしてからにしておけ」
改めてメレナは言う。
「一時的に違う学園に転校して欲しい」
「と、言うと?」
「俺には二つほど上の姉がいてな、その姉がどうやら互いの学園の美点を共有し合い、また改善点を知るのはどうだって話があってな。そのために学園の生徒を一時的に交換し生活することでより分かりやすくそれを知ろうという訳だと」
「ふむ、なるほど」
というか最初のあの発言は本当に文字を端折りすぎだよ。
「後、一人だと大変だろうから生徒二人を交換することになってるから、好きなやつ一人選んでいいぞ」
「ちなみに期間はどのくらいだ?」
「約一ヶ月ってとこだ」
「結構長いんだな…」
しかも場所はここからすこし遠い北の街のウルガスだという。となると、そちらで寝泊まりすることになるし、それはつまり家族にも会えなくなるということでもある。正直、家族と一時的に会えなくなるのは悲しい。いや、考えてみればオレって二年間我慢してたな。
いやでもな…
少し考えたいのでメレナにいつからなのか訊いてみた。
「なあ、それはいつからなんだ?」
「二日後」
「明後日かよ!なあお前さーー!」
いくら何でも明日は早すぎるんだよ!
せめてもう少し前にしっかり言っとけ!
「いやいや、悩む必要もないだろ。男子にとってはパラダイスだぜ?」
「だとしても考える暇くらいくれ………ちょっと待て、今お前変な事言わなかったか?」
「あっ」
咄嗟に口元を押さえる。オレが怪訝そうな目を向けるとそろりと目線をそらしていく。
「パラダイスってどういうことだ?」
「……」
「教えないと行かないぞ」
「……あーもう、わーったよ。実はその学園は女学園なんだ」
「……は?」
それには思わず本日二度目となるこの言葉を放ってしまった。女学園ってことはつまり女子しかいないというわけだよな、そしてそれを伏せた状態でオレに行くかどうかを聞いてきたわけで、行くって言ったら確実にオレは苦労していたはず……
もう嫌だ、この人。
まあ、分かったことだしもういいけどさあ。
「なあメレナ」
「なんだ?」
「そこ、パラダイスだと思うか?」
「そりゃそうだ。自分だけ男で他は皆が女だぜ?俺だったら最高だね」
「…………最高なわけあるかーー!」
オレは思いっきり絶叫し、部屋全体に声を響かせた。それが最高でないことなど考えることもなくそう断言できる。だいたい、女学園となると、要は箱入り娘が集まってるわけだろ?そこに男がいく時点で男に近寄ってこないに決まってるはずだからそこでもう苦労するのは確定だ。
「よし、断る!」
「おい、お前それは無理だぞ?」
「なんでだよ?」
「お前さっき教えないと行かないって言っただろ。じゃあ教えたんだから行かなきゃだめだろ」
「お、お前……」
こんな時に変な頓智を利かすなよ……
「……だいたい、なんでオレなんだ?そもそも交換ならオレじゃなくてもいいんじゃないのか?というか男子じゃなくてよくないか?」
「姉曰くその学園はさっきの目的の他に考えがあって、男子との共学化を考えているらしい、だからその段階的な施策で男子生徒を生活させて生徒の意見を取り入れたいんだと。それで男子を一人は欲しいと頼まれたから誰がいいかなって考えたらなんでも引き受けてくれそうなお前が頭に浮かんだと」
「ぶっ飛ばすぞ」
オレがなんでもかんでも引き受けると思ったら大間違いだ。
それにしても、本当にコイツは事如くオレを何かしら面倒なことを誘いやがる。しかも今回に限っちゃ断らせないために変な頓智まで使うし。
「兎に角オレはごめんだ。家族と離れるのは嫌だし、女学になんて行きたくもない」
「だーかーら、お前はさっきの発言でもう行くことは確定なんだよ。いい加減観念しろ。それでも嫌だってんなら毎月の授業料馬鹿みたいに増やしてお前の家をつぶしてやってもいいんだぞ」
「たかがこんなことでそこまでやるか!?」
嫌でもあの目、アイツマジだ。本当にその気でいやがる。
あの野郎、実は目的のためならどんな手でも使うタイプだろ。
しかし、家のことまで駆けられるとオレも……
「…わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「ん、ありがとさん♪」
もう嫌だ、この人……
※ ※ ※
「―――――ということに……」
「あんた……」
「苦労しますね……」
あれからしばらくして放課後、学園から少し歩いたところにある何時ぞやに来たカフェテリアへといつもの面子でやってきていた。最初は気晴らしのつもりで一人で行くつもりだったのだが、エヴァとミリーゼが一緒に行きたいと言ってきたのでそれに了解して三人でやってきたのだった。
最初はポーカーフェイスを保っているつもりだったが、途中からそのことを考えて顔がわかりやすく暗くなっていたらしい。二人がオレを心配し話を聞いてきたので話せばいくらか楽になると思ってすべて話し今に至る。
「それにしても、女学園に行くことになるなんてね」
「あまりにも急ですよね」
「本当だよ、しかも行くのは明後日だし……もうあの人やだ……」
そう言ってテーブルにあるコーヒーをぐびっと一気に飲み干す。
「その女学園ってなんて場所なんですか?」
「んーと、確かプリスメア女学園って言ってたな」
「プリスメア女学園って物凄い名門じゃないですか!しかもそのほとんどが貴族のお嬢様学校ですよ!」
「そ、そうなの?」
訊いてきたエヴァにミリーゼは強く頷く。ミリーゼが言うには、全てをこなすことのできる超エリートお嬢様が集められた学園で、それは他の学園生と比べれば常軌を逸する程でそれはこのリデスタル学園を超えるとも言われているらしい。
ふむ、お嬢様学校というのに関しては検討がついていたがそれに加えて名門か、まさかエヴァとかよりも強いのか?
彼女も彼女で普通の奴らよりも三段階くらい上にいる天才だからな。ミリーゼも同じように魔法に関してはエヴァ以上のセンスと実力があるが、上がいるかもしれない。
それなら鍛えている師側からしたら、何か教えられるものを手に入れるいい機会かもしれないな。
「その交換?は一人だけなの?」
「いや、二人までならいいらしい。だから誰か探さないといけないんだけどさ……」
なんかこの二人に頼むのもなんとも気が引ける。ついこの間もオレが困った時に助けてくれた。これ以上頼るわけにもいかないと思う。
「ねえ、それ私じゃだめ?」
「え?」
「だから、私じゃダメなのかって」
「いや、いいけど……」
「それじゃあ、決まりね。メレナ先生にも伝えておいてね」
「お、おう。でも、なんでだ?」
「そりゃ名門なんだし行きたくもなるわよ。あっちにいけば私にも学べることがあるはずだわ」
彼女の意見とオレの意見は立場は違えど同じ様だった。
もしかしたら、まだ友達の少ないオレに対して気を遣ってくれてるのかもしれないが、理由はなんにせよエヴァには感謝だ。
「わかった、先生には伝えておく」
「うん、よろしくね」
「アークさん!エヴァさん!もし、魔法とかで活用できるものがあれば是非とも覚えてきてください!そして教えてください!」
それにオレとエヴァはコクリと頷いた。
「あ、でもアークさん一つ気を付けてくださいね。どうやら件の学園には一人厄介な方がいるらしいですから」
「なんだよそれ」
「あらゆる男を根っこから嫌い、そして無慈悲である女王のような存在の方がいると風の噂で聞きました」
「なんだそれ……」
よくわからないが、まあ一応頭の隅っこに置いておくとしよう。
と、時間を見てみるとそろそろいい時間で、お開きにすることになった。
「それじゃあ、また明日ね」
「またな、ミリーゼ」
「はい、また明日!」
オレとエヴァは家の方向が同じだが、ミリーゼは違う方向なのでカフェの前で彼女と別れオレたちは二人で街を歩き始めた。そこからたわいもない話をしていると、改めて訊いた。
「本当にいいのか?一緒に学園に行くって話」
「ええ、いいわよ。覆すつもりもないわ」
「でも、家から離れることになるぞ?」
「それでもいいわ。私はその名門だという学園で学べるものを学びたいの。そして強くなりたい」
自身の右手を顔の前に向けてそれを強く握りしめる。そうやら訊くだけ野暮だったようだ。彼女には彼女なりの考え方がある。変に自意識過剰になってもだめだな。
「ちなみに、もう一つ理由はあるわ」
「ん?」
「…………アークと離れるのは………寂しかった……から……」
「………」
……本当に、お前ってやつは……
「……なんだよ照れながら言って、はっ!さてはお前、オレが好きなのか!?」
「そ、そんなんじゃないわよ!友達として!親友としてよ!」
「おいおい、照れるなって」
「照れてないわよ!」
そういって尚も頬をほんのりと紅潮させて頬を膨らます。
「ははは、悪い悪い。冗談だ、冗談」
「んーーー!もう、からかわないでよ!」
「悪かったって」
そんな風に笑って言いながらオレは自然とエヴァの方を向いて、
「エヴァ」
「ん?どうしたの?」
「……ありがとな」
「…なにがかしらっ」
エヴァはそう言って歯を見せながら笑みを浮かべた。
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