……はずだった。
「……なぜ俺はこんなところでこんなことをしている?」
「知らないよ、そんなことより目が覚めたならさっさと出てっておくれ」
今、俺は大通りに並ぶ露店の一つにダーツの矢の如く頭から突き刺さっている。
店の商品はぐちゃぐちゃに吹っ飛ばし、屋台は半壊状態だ。
そして迷惑そうに出てけと言ってくるのは店の人。
喋り方の割にまだ若い女の人だ。
こめかみには青筋が浮き出ており、かなり怒っている様子。
……怒るのも当然だろう。
大の男がどこからともなく飛んできて大切な商品の並ぶ店に突き刺さったのだから。
これの弁償金を考えるだけで足がガクガクだ。
普通ならポリスメンの一人や二人呼んでもいいくらいだが、どうやら呼ばずにいてくれているらしい。
おまけに弁償の話もなく、出て行けとだけ言ってくる。
「あなたは優しい人だな……」
思わず口に出てしまった。
「な、なんだい!?褒めてもなんも出やしないよ‼︎」
頬を染める店員さん。
よく見ると割とタイプな感じの綺麗な銀髪はかない系の……口調はかなりキツ目だが、
「ほら、引っこ抜いてやるから‼︎さっきの首なし追っかけるんだろ?あっちに歩いていったから早くいっちまいな!」
俺の両足を掴んで力一杯引っ張り、なんとか引っこ抜いてくれた店員さんは、さっき俺が来た道とは逆方向を指差して教えてくれた。
「ありがとう!優しい人!」
「エルザだよ‼︎私の名前!」
少し照れているようで、早口に名前を教えてくれた。
「ありがとうエルザ!この埋め合わせは必ずする、俺の名はダンテだ」
「ダンテ、あんた変わったやつだな、まあいい、わかった、期待はせずに待ってるよ、年中無休でやってるからいつでもおいで」
「ああ」
エルザに一礼してその場を立ち去ろうと教えてもらった方へ向く。
「しかし、凝ってるよね、あれ、私もどうなってるか気になってたんだ。でも気になって触ろうとしたヤツは皆んな、あんたみたいに吹っ飛んでったからあきらめた」
あれとは、マリー胴体のことだろう。
つまりは俺以外にも無粋にもマリー胴体に触れようとした輩がいたようだ。
エルサの言う通り、あたりにはまだ新しい、何かが刺さった後が無数にできていた。
さっきの俺と同じ運命を辿ったものの数だろう。
しかし、人があんなにも簡単に吹っ飛ぶ理由も分からない。
エルザは、もしわかったら教えたとくれ、と手を振って笑顔で送り出してくれた。
「いい人だったな」
またしばらく無視していたから機嫌が悪くなっているかなと思いつつ、マリーに話しかける。
「…………」
マリーからは返事がない?
というか。
「袋変わってね?」
独り言を口に出してしまった。
俺がさっきまでかついでいた頭陀袋が、ただの小銭袋に変わっていた。
重さが変わらないから、気づかなかった。
この袋はマリー胴体が稼ぎを入れていた袋だ、
中に大量のお金が入っている。
なら、
「マリー首がマリー胴体にさらわれた!?」
……いや、よく考えたら別に本人が落とした自分の身体の一部を持ったというだけの話、
「……めでたしめでたし?」
んなわけないわな、
どう考えてもただ事ではない。
本日二度目の全力疾走でマリー胴体とマリー首を追いかけた。
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