お嬢様学校祭です!ー早くも修羅場化するー
体育祭が無事に終わり数週間が立つ、朝いつも通りに登校する相馬、摩耶、奈々。
摩耶は体育祭が終わってからずっと相馬の近くに居てはニコニコしていた。
「…摩耶、悪いが少し離れてくれないか?」
摩耶は相馬とギリギリ触れるか触れないかの距離を保ち横に並んで歩く。相馬は体育祭以降から摩耶との接し方が少し変化していた。
「嫌ですよ、私は相馬さんが大好きですから」
笑顔を向ける摩耶、相馬は嬉しい半分、迷いが半分だった。
相馬は摩耶が告白したと思われる言葉から一度も返事をしてない、それどころか摩耶自身はそれが告白だとは微塵にも思っていなかった。
「朝から熱いわね…」
二人の一歩後を歩く奈々が相馬と摩耶のやり取りを見て呆れていた。
「そうですか?でも夏は過ぎましたよ」
摩耶は振り返って答える。
「違うわよ、その熱いじゃない、あ〜もう目障り」
視界に入らないように先を歩き始める奈々。
奈々は体育祭以降はお嬢様と公言したことと大胆な告白宣言して見事に玉砕したことが一目置かれて今では全生徒から注目の的だった。そのお陰で相馬の悪い噂は全く聞かなくなった。
相馬はそれが目的だったのか分からないがお礼を言うと「摩耶の為にやっただけ、あんたの為じゃない」と奈々は言うが相馬はそれでもお礼を言った。ただあの告白は本当かどうか今でも分からなかった、それは、
「奈々ちゃんも相馬さんが好きなら一緒に歩きましょうよ」
摩耶はあの告白は本当だと信じている、しかし玉砕した人に対してその言葉は危ないんじゃないかと思う相馬だが、あの告白が嘘であるならば気にしない所、しかし奈々は振り返る。
「は、はぁ!?別に好きじゃないですけど〜」
顔は赤くムキになる奈々。明らかに無視するだろうと思っていた相馬だが予想とは裏腹に奈々は拗ねた様子だった。
「奈々、聞きたいんだが…」
相馬はなぜそこまでムキになるのか理由を聞こうとする。
「ちょっ、こっちに来ないで!汚い!」
奈々はめちゃくちゃ嫌そうな顔をして距離をとる。
「なんか久々に汚いとか聞いたな、地味に傷つくわ…」
「奈々ちゃん!相馬さんにそんな言葉言っちゃダメですよ」
「無理無理、じゃあ私は先に行く」
走り出す奈々に追いかける相馬と摩耶。
「あっ、おい」
「待ってください!」
摩耶の次は奈々に距離を置かれて相馬はため息を吐く、しかし別に奈々はいいんじゃないかと思った。犬猿の仲であるがために必要以上に仲良くなる必要はないと改めて思う相馬、しかしそれと同時に放ってはおけないと感じていた。
バスの中では少し距離置いて座る奈々、そして学校に着くと奈々の周りに生徒達が集まり人気者になる。
「凄い人気になったね」
「そうだな、お嬢様と暴露したからそりゃ皆からチヤホヤされるわ、オマケに男並に力が強いときた。楯突く人は少ないだろう」
予想以上の人気に今では摩耶を見る人はかなり減った、それでも摩耶の可愛さと綺麗さには人気はそれなりにあったが奈々が放ったお嬢様と力強さ、そして小柄というギャップ差に人気は摩耶以上だった。
「私もお嬢様と言えば人気になりますか?」
「さすがにそれは止めてくれ」
「どうしてですか?」
「前のイジメの件みたいな事が俺は守れるかもしれないけど次が無くなる。出来ればこのまま穏便に過ごしたい」
摩耶が事件に巻き込まれるのを防ぐ、それが相馬にとってこの学校生活そのものが掛かっていた。
「ああ、ごめんなさい。相馬さんの気も知らないで…」
摩耶は相馬の気持ちを考えてなかったことを謝る。
「大丈夫大丈夫、ただ摩耶は人気者になりたいのか?」
他の人と喋る摩耶はとても楽しそうに話す、しかし体育祭が終わって以降は奈々の方に注目がいき摩耶と喋る人は次第に減って行った。入学して早々からかなり人気はあった摩耶だが今は全てがひっくり返ったかのように奈々が人気になっている。そんな光景を目の当たりした摩耶にまた人気になりたいかと聞く。
「……いえ、正直なりたくはないです」
意外な答えに相馬は驚く。
「意外だな、喋る事が苦手じゃなかったのに体育祭終わって以降は喋る相手が減る度に摩耶は少し寂しそうにしていたから奈々に人気を取られたことに嫉妬していると思った」
常に誰かと喋っていた摩耶は誰に対しても明るく楽しそうに喋る、しかし相馬曰く体育祭以降は喋る人が減り今ではほとんどが相馬と話していた。そんな摩耶が奈々を羨ましそうに見ていたことは相馬は知っていた。
「……嫉妬…もしかしたら以前の私もそうだったのかもしれませんね」
「以前?」
「私が相馬さんと奈々ちゃんに嫉妬していたのかもしれませんね」
摩耶が自分の胸に手を当てる。しかし相馬はそれは違うと否定する。
「嫉妬を全否定するわけではないけどそれはおそらく嫉妬じゃなくてヤキモチだと思う、自分から言うのが少し恥ずかしいが…」
「ヤキモチ…、たしかお母様から一度聞いたことがありました。お父様が他の女性の方とお話しているのが憎い、と」
摩耶は普通に話すがその摩耶の両親の現場は壮絶過ぎると思った相馬だが言わないことにした。
「面白い言葉ですね、でも私は別に奈々ちゃんを嫉妬してる訳じゃないんです。私は今は本当に楽しいです。相馬さんとお喋りすることが楽しいです。ですがやはり他のクラスメイト達と喋りたい時はありますが相馬さんと一緒にいることが楽しいので別に私はもう人気にならなくてもいいです」
微笑む摩耶、相馬は内心嬉しい気持ちで一杯だった。しかしまだ心のどこかで摩耶の告白は全て受け入れる事が出来ず突っかかる物があった。それは今ここで摩耶の告白を受け入れれば全て解決するのかという疑問だった。
「摩耶、一つだけ聞いてもいいか?」
「はい?なんでしょう?」
「奈々がやったあの騎馬戦での告白は本気だと思うか?」
摩耶に聞くのはおかしいと思うが摩耶なら素直に答えてくれると期待する相馬。
「そうですね、奈々ちゃんは常に本気ですからあの告白は本気だと思いますよ」
その言葉を聞いて相馬は深く考え始めた。
あの告白が本気ならば奈々は相馬が好きということになる、しかし相馬自身は奈々に惚れさせるようなことはしてない、ましてやほとんどが罵倒するような言葉で双方とも惚れる要素が何一つ無かった。しかし相馬にとって答えは決まってるようなものだが不思議と迷いがあった。どちらを選ぶべきかを。
「なぜだ…、なぜ選べない。答えはきまってるだろ」
頭を抱える相馬。
「相馬さん大丈夫ですか?」
「大丈夫、そろそろ教室へ行こう」
「はい!」
教室へ着くと相馬は一人で考え悩んでいた。
付き合うのならば摩耶一択、それは当然で奈々と付き合うのはないと考えていた、罵倒の他に力強く女性としての魅力は無いがアメリカで出会ってから男勝りの力に相馬に対して罵倒混じりの優しさがあり、告白に至っては最後まで友達である摩耶を優先させるほど友達思いであることを思い返した。
意外にも憎みたくても憎めない存在となっていた奈々、そんな奈々の告白を簡単に捨てるように蹴ってはいけないと思った相馬は決意して奈々の元に向かう。
「奈々」
「そ、相馬くん!?」
来ることが想定外だったのか相馬が来たことによって奈々は顔がほのかに赤くなるが平然を装う。
「奈々、再来週の学校祭。俺と勝負しろ」
「え?しょ、勝負?」
急に勝負を仕掛けられたことに困惑した奈々だがどうせいつもの勝負だろうと思っていた。
体育祭が終わってすぐ再来週には学校祭がある。相馬はその時に体育祭での玉砕した告白を改めて答えるつもりだった。
教室はざわつき始める。
「お前が俺に勝てたら付き合う。体育祭と同じだ。そして俺が勝ったら摩耶と付き合う。どうだ?」
体育祭と同じで奈々が勝てば付き合うルール、しかし新たに付け加えられた相馬が勝てば摩耶と付き合うルールに教室は黄色い歓声になる。
「え、え、えーーー!?」
奈々は驚く、見事に玉砕した告白が再びチャンスが来たことと次で最後になることに。
「そ、そそ相馬さん?」
当然、驚く人はもう一人いた。
「摩耶、悪い。けど奈々の告白は無駄に出来ない。それに摩耶の告白にはちゃんと答えてない」
それは摩耶だった。摩耶は驚きで手足が震えていた。
「分かったわ、その勝負受けるわ」
奈々が立ち上がり勝負を受けると宣言した。
「決まりだ、勝負内容は腕相撲だ」
力勝負、それこそが奈々と決着つけるのにはちょうどいい。
「余裕よ、学校祭楽しだわ」
「ああ、俺もだ」
二人が笑ったあと相馬はトイレに向かった。
「うわーーーーーーー!!やっちまった!!」
相馬はトイレに入るなりその場にしゃがみこみ大声を上げる。
「いくらなんでも唐突過ぎるだろ、うっわ恥ずかしい、やばい死ぬ死ぬ」
大胆な告白、しかしこれを体育祭の時に奈々がやっていたと思うと改めて奈々の肝は座っていると実感する。
「相馬ー!」
走ってトイレの中に駆け込んできた誠人。
「誠人、やめろ今は何も言うな」
耳を塞ぐ相馬、今は恥ずかしさでいっぱいだった。
「マジかよ相馬、お前ある意味すげぇな」
「おまっ、止めろって言っただろ」
赤面状態の相馬に黙ることの無い誠人。
「いつの間に摩耶ちゃんから告白されていたんだよ、もはや両手に花か?」
「違う、これには訳がある」
「わけ?」
「ああ奈々と賭けしてるんだ、内容は言えないが」
咄嗟に嘘を言う相馬、あっさりと騙される誠人。
「賭けか〜、なるほどな」
「そうそう、で今回が最後の賭けなんだ」
「へぇ〜、じゃあ俺は相馬に賭けるわ」
「それは嬉しい、じゃあそろそろ授業始まるから戻るか」
「え、いやまだ…」
「ほら行くぞ」
早口でその場を収める相馬、そしてなんとか誠人に騙すことが出来てなんとかなった。
しかし、教室で堂々と公言したことによって相馬と奈々の勝負は体育祭同様に注目の的となったがそれと同時に摩耶も再び注目を浴びる事となった。
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