第205話 とらわれのなずな姫
朝起きると、そこは見知らぬ天井だった。
……まさか私、異世界転生しちゃった?
まいったな~。
これからは異世界美少女とのウハウハチート生活が始まるってわけか。
「おはようございます」
「うわっ、天使までいる! 間違いない……」
「やだ、天使だなんて。珊瑚ですよ」
「って、珊瑚ちゃんか。まあ天使だけど」
どうやら異世界へ転生したわけではないらしい。
安心したけど、少し残念である。
しっかりと体を起こし、窓の外を見た。
高速で移動する景色。
外はまだ暗い。
私は大き目の車の中にいた。
珊瑚ちゃんは助手席にいて、そこからこちらを覗き込んでいる。
私は後ろの席でひとりだ。
運転しているのはいつもの黒服お姉さん。
これは聞いてしまった方が早いな。
「珊瑚ちゃん、ところでこの状況はいったい……」
「お出かけ中ですね」
「誘拐ではなく?」
「はい。お出かけです♪」
「……」
どう考えても誘拐なのだが。
私は自室で寝ていたはずなのに、どうやってここに連れてこられたのか。
「ふたりきりのおでかけなんだね」
「それでも良かったのですが、やはりみなさんもいた方がなずなさんも喜ぶかと思いまして」
珊瑚ちゃんが笑顔で私の後ろを指さす。
私は嫌な予感がしつつも、恐る恐る後ろを覗き込む。
「キャアアアアアア!!」
そこにはまるで○体のように並べられた私の友人たちの姿が。
みんなさらってきたのかな?
ヤバすぎるぜ、このお嬢様。
「みなさん、幸せそうに寝ていらっしゃいますね」
「……」
これがそんな風に見えるのか。
なかなかだな、このお方。
まあ冗談だと思うけど。
……冗談だよね?
「それで私たちはいったいどこへむかってるの?」
「海ですよ」
「海? まさかコンクリで海の底へ!?」
「海の底!? どういうことですか?」
意味が分からなかったらしく驚かれてしまった。
「あ、ごめん。なんでもないよ」
変なことされてるせいで変なこと言っちゃったよ。
「それで海まではどれくらいかかるの?」
「あと1時間くらいでしょうか」
「けっこうかかるんだね」
ということはさらわれてから比較的早くに起きたということだろうか。
スマホを見ると今の時刻は6時過ぎ。
到着は7時過ぎか。
なかなかすごい時間に連れ去らわれたなぁ。
そういえば朝ごはんも食べてないね。
「なずなさん、朝ごはん食べますか?」
「心読まれた!?」
「ふふふ。サンドイッチとコーヒーです」
「豪華すぎる! ありがと~」
アイラブ珊瑚ちゃん。
まるでランチタイムのようなサンドイッチを頂く。
そして普段飲んでいるものよりもおいしいと思われるブラックなコーヒーを飲む。
なんて優雅な朝なんだ。
誘拐されたとはとても思えないなぁ。
いや、ただのお出かけだったか。
みんなも早く起きてこの素晴らしいひとときを堪能するといいよ。
「よく起きないね、みんな」
「そうですね。なずなさんは5分も経たずに起きたんですけどね」
「そうだったんだ!?」
おしいな私。
それなら部屋に侵入された時点で起きて欲しかったものだ。
「ところでこんな時期に海へ行って何するの?」
別に泳ぐだけが海ではないけど、みんなで行く用事なんてあるのだろうか。
「何しましょう?」
「決まってないんだ……」
「とりあえずお昼はバーベキューしましょう」
「やった~!」
お肉だお肉♪
珊瑚ちゃん、バーベキュー好きだなぁ。
この前行ったばかりなのに。
もしかしてハマったのだろうか。
私としては海と言えば水着。
水着を着た珊瑚ちゃんの姿を拝みたい。
欲を言えば、水着の上からシャツかパーカーを来ているとさらに萌える。
なので夏になったらまた行きたいところだ。
「あの、なずなさん。そっちに行ってもいいですか?」
「え? うん、いいけど?」
「やった♪」
そう言ってとびっきりかわいく返事をした珊瑚ちゃん。
ちょうど信号で車が停まり、その間にいったん外に出て私の隣に回る。
「えへへ」
超かわいい。
とりあえず抱きしめる。
ふわふわの髪にやわらかくて温かい体。
癒しの天使だ。
「珊瑚ちゃんはやわらかいね~」
「な、なずなさん……。恥ずかしいです……」
私の腕に中でおとなしくなる珊瑚ちゃんを堪能。
だがしかし。
「はい、アウト~!」
「みんな起きてたの~!?」
私たちのイチャイチャは、いつの間にか起きていた彩香ちゃんたちにばっちり観察されていたらしい。
起きたのなら起きたって言ってよね!
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