第144話 珊瑚ちゃんと謎のプレゼント

 休日の朝。

 布団の上でゴロゴロする最高の幸せをかみしめている。

 ああ、こんな時間が永遠に続けばいいのに……。


 なんてちょっとフラグを立ててみる。

 まあ、ファンタジーじゃないんだから何も起きないけどね。


 と、ここでインターホンがなった。

 まさか本当になにか起こるのだろうか。


 恐る恐る……、というわけでもないけど玄関にむかう。

 お客さんは珊瑚ちゃんだった。


「あれ? ごめん、約束してたっけ?」

「いえ、今日は柑奈ちゃんと会う約束してたんです」

「ああ、柑奈ちゃんの方か」


 柑奈ちゃんは珊瑚ちゃんのこと尊敬してるからなぁ。

 玄関先で話をしていると、ここに柑奈ちゃんがやってくる。


「あ、お姉さま! 早く早く」

「ふふふ、そんなに慌てなくても、例のモノは逃げませんよ」


 ……例のモノ?

 怪しい。


 珊瑚ちゃんって、見た目は全然違うけど、ちょっとみこさんと似ているところがあるんだよね。

 って、あれ!?


 珊瑚ちゃん、柑奈ちゃんの部屋に入っていったよ?

 いいの?

 いいのか、柑奈ちゃん!?


 ……まあ、あのふたりだしなぁ。

 なんてことを玄関先で考えていると、そこにまた来客があった。

 茜ちゃんと彩香ちゃんだ。


「おはよう、なずな」

「おはよう、白河さん」

「あ、おはよう、ふたりとも。どうしたのこんな時間に」


 ふたりが一緒にこんな時間に来るなんて珍しい。

 何かあったのだろうか。


「いや、あなたが昨日誘ってきたんですけど」

「え、そうだっけ」


 彩香ちゃんがジト目をこちらにむけてくる。

 いいね!


「寝ぼけてたの? 夜遅かったし」

「えぇ?」


 そんなバカな……。

 と思いつつスマホのアプリを見ると、確かに誘っていた。

 しかもふたりだけに。


 そんなことがあるのだろうか。

 怖いぞ、昨日の自分。


「あら、浜ノ宮さんのにおいがするわね」

「え、彩香ちゃん、それはさすがに引く……」

「いや、あなたに引かれたくないんですけど……」


 それはいったいどういうことだい?


「それで浜ノ宮さんは? 先に来てるの?」


 茜ちゃんが首を傾げながら聞いてくる。


「ああ、今柑奈ちゃんの部屋にいるんだ」


 それを聞いて、事情を知る茜ちゃんは驚いた。


「え、柑奈ちゃんの部屋に入ってったの!?」

「うん、そうなんだ。びっくりだよ」

「そっか、ふたりはもう、そんな関係なんだね」


 別に変な関係ではないと思うけど。

 でも、あの部屋でいったい何をしているのだろうか。

 気になる……。


 とそこで彩香ちゃんがスマホを見始める。


「浜ノ宮さんからメッセージが来たわ」

「なんて?」


「柑奈ちゃんマジ天使」

「珊瑚ちゃん……」


 本当にいったい何をしているのやら。

 しかもなぜそのメッセージを彩香ちゃんに?


 やっぱりお姉ちゃんっぽいから甘えてるのだろうか。

 気持ちはわかるけどね。


「あ、こんなところでしゃべってないで、私の部屋に行こうか」

「そうだね」


 せっかく来てくれたんだし、今日は3人で楽しく過ごそう。

 私の部屋に入り、それぞれが大体いつもの位置に収まる。


 いいよねこういうの。

 もっともっとなじんで欲しい。


「彩香ちゃん、膝枕して~」

「なんでよ……。って勝手にしてるし」


 私は了承を得る前に彩香ちゃんに膝枕をしてもらった。

 うむ、やっぱり心が安らぐ。


「はぁ、平和だなぁ」

「どうしたのいきなり」


「いや、みんなって変わり者だなって思ってたけど」

「ひどいこと思ってたのね」


「でも違ったんだよ。本当にヤバい人っているもんなんだよ」

「白河さんもなかなかだけどね」


「やだなぁ、私みたいなごく普通の女子高生にむかって」

「ごく普通だったらよかったのにね」


 え、まるで私が普通じゃないみたいだ。

 あ、そうか。


 確かに私は普通じゃない。

 大和撫子だった。

 いや~、ついに他人にもわかるくらい成長しちゃったんだね。


「白河さんが今考えてること、多分違うと思うわ」

「え、私の心が読めるの?」


「今のは何となく」

「そっか、私たちが結婚したらいい感じかもね」


「ぶっ」


 ふふっ、決まったよ、会心の一撃が。

 とそこで私の部屋のドアがノックされる。

 なんだろうと思って開けてみると、そのむこうには珊瑚ちゃんが立っていた。


「珊瑚ちゃん!? どうしたの?」

「いえ、柑奈ちゃんとの用事が終わったのでこちらにお邪魔しようかと」


「柑奈ちゃんは?」

「お友達のところへ遊びに行きました」


「そうなんだ。あ、どうぞどうぞ」


 珊瑚ちゃんを部屋に入れると茜ちゃんや彩香ちゃんがあいさつをする。

 驚いたような様子がないことを見ると、珊瑚ちゃんはこのふたりが来ているのを知っていたようだ。


 仲良しな私たちの情報網の優秀さが光るね。

 まるでホラーだよ。


 私が元いたところに腰を下ろすと、珊瑚ちゃんがなぜかこちらに近づいてくる。

 そして当たり前のように私の前に座った。

 恋人座りというやつだ。


「やっぱりここが落ち着きますね」

「あの……、いつもやっているみたいな言い方やめていただけると……」

「ふふふ」


 楽しんでるな、珊瑚ちゃん。

 なら反撃といきますか。


「落ち着くということは、それは私の恋人になるってことでいいの?」

「それもいいですね」


 おおっと、反撃にならず!


「ねえ高城さん、なんか急にふたりがいちゃつき始めたんだけど」

「私たちはお邪魔なのかな。いったい何を見せつけられてるんだろうね」


 お花畑オーラをまき散らす私たちに対し、白く冷たい視線を送ってくる茜ちゃんと彩香ちゃん。

 いやあの、私も巻き込まれてるだけなんですけどね。


「ふふふ、まあふたりとも、これを差し上げるので今日のところは譲ってください」


 そう言うと、珊瑚ちゃんは器用に私から見えないようにしながらスマホを操作し始めた。

 すごいテクニックだ。


 そしてスマホを確認する茜ちゃんと彩香ちゃん。

 ふたりとも次の瞬間には目を見開いて、そして頷き、グッと親指を立てる。


 私以外で何かの合意がされたらしい。

 なにがあったこの人たち。


「ありがとうございます」


 そしてなんの遠慮もなく私にもたれかかってくる珊瑚ちゃん。

 これはいいのだろうか。


 あたたかくていいにおいのする珊瑚ちゃんの体と密着する。

 私は何もしてないのに幸せなんだけど。

 まあ、いらないこと言わずに黙っておこう。


 それよりもおふたりさん。

 さっきからスマホの画面を見ながらニヤニヤしてるけど、いったい何を珊瑚ちゃんからもらったんだい?

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