第142話 なずなのマッスル講座。そして縁結び

 この前、小路ちゃんと自転車で来たことのある湖の神社にやってきた。

 今回はひまわりちゃんとである。

 神社内には相変わらず誰もおらず、今もふたりきり。


 ちょっと今気まずいところなので誰かいて欲しいのだが誰もいない。

 みこさんがひょっこり現れることもなかった。


 残念だ。

 まあ、ここは気を取り直して、ひまわりちゃんとのふたりきりの時間を楽しもうではないか。


「なずなさん、あそこの公園みたいなところでいったん休憩しましょう」

「うん、そうだね」


 よかった、ひまわりちゃんはさっきまでのヤンデレかメンヘラっぽい雰囲気が消えて、いつもの天使に戻っていた。

 椅子に座り一息つくと、ひまわりちゃんからなぜかプロテインバーを手渡される。


「運動の後はやっぱりプロテインですよ」

「うん、そうだね。ありがとう」


 それはわかるけど、駅から歩いてきただけなんだけどね。


「はあ~、こうやって落ち着いた場所で綺麗な景色を見ながらプロテインバーを食べる。至高のひとときですね~」

「そ、そうだね……」


 ひまわりちゃんってそこまでそっち系だったっけ?

 まだまだ知らないことってあるんだなぁ。

 マッスル系少女ひまわりちゃんだね。


 きっと語らせたら止まらなくなるんだろうなぁ。

 気を付けないとね。


 それにしてもプロテインバーというものはどうも脂質の量が気になるんだよね。

 なのでドリンク系のプロテインの方がその辺はいいんだけど、あっちはあっちで人工甘味料が気になる。


 たまにならいいんだけど、愛飲するとなるとねぇ。

 そこで私がこの前見つけたのは、高タンパク低脂肪乳だ。


 これは人工甘味料も入ってないし、脂質も少なく、そして何より安い。

 難点と言えば、逆に量が多いことだろうか。


 500ミリリットルの紙パックを飲むことになるので、人によっては苦しいかもしれない。

 私は気にならないけどね。


 ただタンパク質も取りすぎると内臓に負担がかかるらしいので注意が必要だ。

 それともし脂肪を気にしているのであれば、有酸素運動が良いだろう。

 筋トレなどの無酸素運動は主にエネルギーとして糖質を使う。


 それに対してジョギングなどの有酸素運動は脂肪を主なエネルギー源とする。

 さらに言うと、最初の頃は血中の脂肪を使い、ある程度使うと、その後は内臓脂肪や皮下脂肪が使われるとのこと。


 このあたりを意識して生活し、運動を行えば、きっと立派なマッスル少女となれるだろう。

 筋肉はすべてを解決するのである。


 とまあ、私が意識しているのはこれくらいであるが、きっとひまわりちゃんは私よりもはるかに多くの知識を保有しているはず。

 今度また別の機会に話を聞いてみたいものだ。


「なずなさん? どうしたんですか、ボーっとして」

「ああ、なんでもないよ」


「もしかしてプロテインバーは嫌いでしたか?」

「ううん、私はちょっととかして、やわらかくなってから食べる派なんだ」


「そうだったんですか。確かにちょっと固いですもんね」

「うん、歯が折れそうなくらいに固いやつとかあるもんね」


「ありますあります」

「あはは」


「ふふふ」


 なんだこの楽しい時間は。




 さて、私たちのエネルギー補給も終わり、恐らく本来の目的であろう縁結びの泉の前にやってきた。

 そういえば私的には縁結びって、新しい出会いって言うよりは、もっと仲良くなりたいって感じで思ってる。


 そこのところ、みんなはどうなんだろうね。

 やっぱり出会いを求める人が多いのかな。


「ここって縁結びで有名なんですよね~」

「そうだね。って、もしかしてひまわりちゃん、気になる人でもいるの!?」

「え? ま、まあ、いると言えばいますけど……」


 な、なんだと……。

 私以外にそんなやつが存在したのか。

 許せない……。


「ちょっと誰それ、私にも紹介してくれる? どこの馬の骨とも知れんやつにひまわりちゃんは渡せん」


 私の大切なひまわりちゃんにふさわしいかどうか、私がこの目で確かめなくては……。

 事と次第によっては○○す必要もあるかもしれない。


「はあ~」

「どうしたのひまわりちゃん、そんな深いため息をついて。幸せが逃げちゃうよ?」


「もうとっくに逃げてますよ……」

「何ですって!? じゃあ私が幸せにしてあげるね!」


「……」


 なぜかひまわりちゃんが私を白い目で見てくる。

 いったいどうしたのだろうか。


 私ならきっとひまわりちゃんを幸せにできるはずだ。

 任せておいてくれたまえ。


 ということで、縁結びの泉でのお祈りも終わり、他のところを回ろうと後ろを振り返る。


「わあ!」

「わっ、びっくりした……」


 振り返った瞬間に驚かされる私。

 そこにいたのはなんとみこさんだった。


 さっきまでいなかったはずなのに。

 本当に毎度毎度どこから現れるんだ、この人は。


「あの、なんでいるんですか?」

「ふふふ、これも縁結びの効果でしょうか。運命ですね」

「……」


 確かに私すら目的地を知らなかったのに、みこさんが知ってるなんて考えにくい。

 本当に偶然なんだとしたら、確かに運命を感じる。


 すごいこともあるものだ。

 だとしても私のお腹を撫でるのはやめていただきたい。


「私と結ばれる運命なのですよ。ひまわりちゃんもね」


 そう言いながら、私の次はひまわりちゃんのお腹を撫で始める。


「ひぃっ」


 ひまわりちゃんは恐怖に顔を引きつらせながら私に抱きついてくる。

 おっほ。

 やわらかくて幸せだ。


 なるほど、これも縁結びの効果というわけですか。

 とても素晴らしいですね♪

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