第133話 コンビニバイトのあまみさん

「うむむ……」


 夜に自室でのんびりしていると、フリマアプリから商品が売れたと通知が入る。

 どうしようか、明日学校から帰ってからにしようか。

 でも今のうちに終わらせておきたいという気持ちが強い。


 明日の放課後も何があるかわからないし。

 よし、やっぱり今日中に終わらせるとしよう。

 ということで、さっさと梱包を済ませ、荷物を持ってリビングへ。


「お母さん、ちょっと荷物出してくるね」

「あら、こんな時間に? 気を付けてね」

「うん。行ってきます」


 私は家を出て、走って近くのコンビニへとむかった。

 そして中に入ってびっくり。


「あれ、なずなだ」

「茜ちゃん!?」


 まさかの茜ちゃんと遭遇。

 いくら家が近いとはいえ、あまりコンビニに来ない私とこんな時間に偶然出会うとは。


 なにか運命的なものを感じなくもない。

 そしてさらに驚くべきことが。


「茜さん、誰としゃべってるんですか?」

「え、ひまわりちゃん!?」

「わぁ! なずなさん!」


 なんと茜ちゃんに続いてひまわりちゃんまで。

 これはもう運命を感じてしまう。

 でもさっきの反応、もしかしてこのふたり、一緒に来てた?


「えっと、茜ちゃんとひまわりちゃんはいつから一緒にコンビニまで来るような関係に?」

「いや、別にコンビニくらいで大袈裟な……。たまたま会っただけだよ」


「そんな……、たまたま会うだけでも運命的だよ。うらやましい」

「私たちも今会ってるじゃない。ということは、もうこれは結ばれる運命だね」


「でもふたりが先に会ってるということは、私はただのかませ犬ということに」

「かませ犬……? よくわからないけど、なんでそんなネガティブ……」


 く~、私がもっと早くここに来ていれば……。

 私がひまわりちゃんと運命的な出会いを果たし、その足で婚姻届を出しに行くまであったかもしれないのに。


 悔しい~!!


「なずなさん、やめてくださいよ。私と茜さんがそんなに仲いいわけないじゃないですか」

「ちょっと、ひどくない!?」


 ひまわりちゃんにばっさり切り捨てられ、ちょっと傷つく茜ちゃんだった。

 しかし、口ではそう言いながら、なんとなく茜ちゃんとひまわりちゃんの間には特別な絆を感じなくもない。


 それがどういうものなのかは図りかねるけど、私との関係とはまた別のものだと思う。

 なんとなくだけど、スポ根アニメのライバルキャラ同士みたいな空気を感じる。


 わからないけど。

 まあいい。

 茜ちゃんもひまわりちゃんも私のものだからね。


 とりあえず荷物を出すとしよう。

 端末で手続きを済ませ、レジにむかう。

 他のお客さんがいないので気は楽だ。


 後ろが詰まってるときに、あの送り状を入れる作業をするの緊張するし。

 時間があれば、非対面で発送できるもうひとつのコンビニまで行くんだけどなぁ。


 そんなことを思いながらレジで荷物を出す。

 すると、またまた驚くべき自体に遭遇する。


「あれ、なずなちゃん?」

「ええ!? あまみさん!? どうしたんですか? こんなところでバイトなんて……」


 ご実家の甘味処のバイトだけでは足りないのだろうか。

 しかもわざわざたくさんあるコンビニからここを選ぶなんて。

 もっと家に近いところあったろうに。


「ふふふ……、実はFXでちょっと無茶なトレードしちゃってね……。少しでも取り戻したいんだよ……」

「え、そんな……、嘘ですよね?」


「うん、嘘だよ」

「嘘なんかい!!」


 心配して損したよ!


「心配しなくても、そっちではけっこう稼いでるんだ~」


 やってはいるのか……。

 稼いでるなんて羨ましい。

 でもだったらなんでこんなところでバイトを……。


 ……。

 これは聞いちゃダメなやつかもね。


「あ、これ発送するんだよね」

「そうでした。お願いします」

「は~い」


 あまみさんは迷うことなくテキパキと作業を進める。

 けっこう歴があるのだろうか。


 今まで会わなかった方が不思議だったり?

 あまみさんのおかげか、私の作業もすんなりと終わり、控えを受け取る。


「なずなちゃんからの贈り物かぁ。羨ましいなぁ」

「いや、売りものですが」


「それでもだよ」

「それでは私から、この20円のチョコをプレゼントします」


「いいの!? ありがとう、なずなちゃん!」

「いえいえ」


 20円チョコくらいでこんなに喜んでもらえたら私も嬉しい。

 コスパ最高です。


「本当にありがとう。家宝にするね!」

「いえ、早めに食べてください」


「え~、もったいないよ」

「手作りならともかく、ただの既製品ですから」


「じゃあ、今度手作りが欲しいなぁ」

「わかりました。そのうちお店に行ったときに差し入れとして持っていきます」


「やった~! 生きててよかった~!」

「……なにかあったんですか?」


 めちゃくちゃ大袈裟な……。


「それじゃあ帰ります」

「うん、また来てね!」

「ええ、まあ」


 あまみさんがいる時に来れるかどうかはわからないけどね。

 それなら小倉庵に行った方がいいだろう。


 私はあまみさんに軽く手を振ってコンビニを出る。

 するとそこには茜ちゃんとひまわりちゃんがいて、私のことをジト目で見ていた。


「どうしたの? ふたりとも」

「別に~」


 そう言いながら、なぜかひまわりちゃんは私の隣に張り付いて来て腕を組まれる。

 なんだなんだ、甘えん坊さんか。


「今度またどこか遊びに行こうね」

「……! はい!」


 嬉しそうなひまわりちゃんの笑顔は、夜の闇の中でもなぜか太陽のように輝いて見えた。

 天使。

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