第119話 いつかのおまわりさん

 自然公園にて、偶然出会ったありさちゃんの後について歩いていく。

 保護者の方と一緒に来ているらしく、なぜか紹介してくれるらしい。


 私もそういうのは緊張するけど、お相手さんもいきなり知らない人を連れてこられても困るのではないだろうか。

 立場が逆だったらものすごく嫌な感じがする。


 いや、しかし、これでものすごく綺麗でかわいいお姉さんだったらどうだろう。

 ありさちゃんの保護者なら金髪さんかもしれないし。


 うっひょ~!

 テンション上がってきた~!


「めぐ姉ちゃん、ただいま~」

「おかえり~、って、あら?」


 私たちが連れてこられたのは、川の近くにある屋根付きの休憩所のようなところ。

 そこにいたありさちゃんの保護者さんは私を見ると目を丸くした。

 私もそのお姉さんを見て驚く。


 それはいつの日かバッティングセンターで出会ったおまわりさんだった。

 こんなことってあるものなのか。


「あなたはあの時の女子高生!」

「そういうあなたはあの時のおまわりさん!」


 どうやらお互いに覚えていたようだ。

 そしてそんな私たちを不思議そうに見比べているありさちゃん。


「え? ふたりは知り合いなの?」

「うん、ちょっとね」


 私が誤魔化しつつ肯定する。

 しかしおまわりさんは何も遠慮せずに話始めた。


「この前パトロールしてたらね、この子が小学生の写真を撮ってたの。それを盗撮だと勘違いしちゃってね」

「撮影……」


 ありさちゃんがものすごく怪しげな視線で私を見る。

 いい、いいよその目。


「ひまわりちゃんのね、バッティングフォームの確認を手伝ってただけだよ」

「へぇ、ひまわりちゃんですか。また会いたいですね」


「そうだね、今度家にでも遊びに来てくれたらいいよ。お菓子とか作ってあげる」

「お菓子作れるんですか!? すごいですね」


 ありさちゃんの目がキラキラ光る。

 そう、私たちは甘いものが大好きなんだよ。


「わ、私もお姉ちゃんの家、行ってみたいです!」


 私たちの会話を聞いていたかおりちゃんが私の前にさっと出てきてぴょんぴょんする。

 超絶かわいい天使。


「もちろんだよ。もう家に住んでくれてもいいよ」

「それはちょっと気が早いといいますか、その……」


 照れてもじもじとするかおりちゃんも超絶かわいい。

 お菓子よりもかおりちゃんをおいしく頂きたいところだ。

 今それを口走ったらお縄につきそうなので我慢するけど。


 なんて思いながらちらっとおまわりさんの方を見る。

 って、あれ?

 いない?


 突然姿を消したおまわりさんに驚いていると、いきなり後ろから何者かに抱きつかれてしまう。

 ぎゃ~!!

 助けておまわりさ~ん!!


「ああ、やっぱり思った通りだわ。なんて癒されるのかしら」

「……」


 私に抱きついていたのはそのおまわりさんだった。

 何してるんだろうこの人。

 変態さんかな?


「この甘い香りとやわらかな感触。日々の疲れが癒されていくわ」

「……そうですか。胸を触るのやめてもらっていいですか。通報しますよ」

「あはは、ありさちゃんみたいなこと言うんだね」


 そういえばありさちゃんは口癖みたいに通報するって言ってたっけ。

 もしかしなくてもこのお姉さんの影響があるのかな。


「もうめぐ姉ちゃん、なずなさんが迷惑してるでしょ! 離れて!」

「は~い」


 ありさちゃんに怒られ私から離れるおまわりさん。

 表情を見る限り反省はしていない。


「あなたなずなちゃんって言うんだね。私は和泉めぐりです。よろしくね」

「白河なずなです、よろしくお願いします」


 握手しようと手を差し出す。

 するとすっと手を握られた後、逆の手でなぜか撫でられた。

 ちょっと怖い。


「ふふふ」


 かなり怖い。


「ところでふたりは姉妹なんですか?」


 私は適当な話題をふり、その隙に手を引っ込める。


「私たちは従妹だよ。そこまで家も近いわけじゃないのに、なぜか呼び出されるんだよね」

「いいでしょ別に」

「別にいいけど……」


 ほほう、ほうほう。

 これはあれですね、ありさちゃん。

 なんだかんだ言いながら、めぐりお姉さんのことが大好きですね?


 わかるわかる、その気持ち。

 好きな人とは少しでも長く一緒にいたいもんね。


 めぐりさんも嫌そうな感じではないし。

 仲良きことは美しきかな。


「そういえばそっちのふたりはどういう関係なの? 姉妹じゃなさそうだけど」

「え~っとですね……」


 私とかおりちゃんの関係か。

 どういえば誤解なく伝わるだろうかと考えていると、かおりちゃんが満面の笑みで言ってしまった。


「私はお姉ちゃんに恋人が出来なかったら、その時に結婚してあげるんです!」

「え……」


 その瞬間、世界から音が消えた気がした。

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