第96話 神社へ小旅行①
電車に揺られて300年……、じゃなくて30分。
私たちは小路ちゃんの行きたかった神社のある最寄り駅に降り立った。
うん、本当に来ちゃったよ。
智恵ちゃんがいなかったらこんな行動できただろうか。
もしかしたらできたかもしれないけど自信はないよ。
負けるわけにはいかない、小路ちゃんは私のヒロインの一人なんだから。
いくら大好きな親友である智恵ちゃんでもこれは譲れない。
静かなる闘志を燃やして智恵ちゃんを見ると、私の視線に気付いてひらひらと手を振ってくれた。
キュン!
私は死んだ。
様子のおかしい私を心配したのか、小路ちゃんが近づいてきて私の服の裾をくいくいと引っ張った。
「大丈夫ですか、なずなさん」
「え、大丈夫、死んでないよ」
「それはわかってますけど」
まずい。
比較的近場だというのに、まるで旅行に来たみたいなハイテンションになっているのか私。
この美少女ふたりを相手にどこまで自分を抑えられるのだろうか。
頑張ってくれよ、私の理性。
神社までは歩いてさらに15分ほど。
いろんな神社を巡ってきた私としてはけっこう近いと感じる。
中には駅が神社の名前だったり、神社の目の前に駅があったりするところもあるけど。
逆にローカル線の一番近くの駅ですら歩いて1時間越えとかあるからね。
まあ、そういうところにこそ神秘さを感じて行きたくなるってものなんだけど。
特に海と神社が一緒に楽しめる場所は最高だと思う。
ぜひ誰かと旅行に行きたいものだ。
一人でも行っちゃうけどね。
「なずなちゃん、こっちだよ」
「あ、ごめん」
いけないいけない、考え事をしていたらふたりとはぐれるところだった。
「もう、しょうがないなぁ」
「え?」
先を歩いていた智恵ちゃんがなぜか戻ってきて、急に私の手を握った。
「勝手にどこか行かないように、私が手を握っててあげる」
「いや、そんな、こどもじゃないんだから……」
とはいえ、智恵ちゃんのやわらかい手は握っていると気持ちよかった。
これはチャンス、もうこの手は離さない。
なんて思っていたら、いきなり逆の手もやわらかい感触に包まれる。
驚いて目をむけると、私の手は小路ちゃんに握られていた。
「なずなさんがはぐれないように私も手を握ってあげます」
「え~、そんなに私信用ないかな~」
「というより、今日のなずなさんからは何か不吉なものが漏れ出している気がします」
「え、なにそれ、怖いんだけど」
小路ちゃんは和服を着てはいるものの、別に神社の家系とかそういうのではなかったはず。
きっと冗談か勘違いだろう。
いや、もしかしたら私と手を繋ぎたくてそんな嘘を吐いたとか?
だとしたら超絶かわいい。
「うふふふふ」
「はっ、なずなさんが何かに憑りつかれました!」
「いや、大丈夫だよ、大丈夫」
「むむむ~」
小路ちゃんが疑いの目で私を見てくる。
ジト目がとりあえずかわいかった。
ということでおでこにチュウをする。
「へ? わああああ!? 智恵さん、やっぱりなずなさんが何かに憑りつかれてます!」
「そう? いつも通りだと思うけど……」
「うう~……」
小路ちゃんはちょっと涙目になりながら、おでこを左手で押さえている。
でも私と繋いだ右手は離さなかった。
神社の前に着くと、休日ということもあってか、そこそこな人でにぎわっていた。
それでも神社の大きさを考えるとかなり少ない方だ。
何にもない日でも混んでるところってあるしね。
「さて、どうしようか。せっかくだから奥社まで行っちゃう?」
私が小路ちゃんに聞くと、いつもと違う興奮したような表情でこちらに振りむいた。
「行きたいです! でもまずはこっちでお参りします」
「オッケー。智恵ちゃんはやりたいことある?」
「私はお守りを買いたいかな? 後はふたりについていくよ」
「わかった。じゃあ先にお参りしようか」
私たちは入り口から真っ直ぐ進んで拝殿へとむかう。
けっこうな人がいたけど、10人近くが同時にお参りできるくらい横に広くなっていたので、私たちは並ぶことなくお参りすることができた。
私はここで、より多くの小学生と知り合い仲良くなることを心の中で宣言し、心が清らかになるのを感じ目を開ける。
すると目の前に、光を失った目をした智恵ちゃんの顔面があって、私はなんの反応もできずに固まった。
なにこれホラー?
「えっと、何かあった?」
「何もないよ」
「え? 何もないのにそんな不自然な体勢で私の顔を覗き込んでるの?」
「うん」
「嘘だよね」
「嘘じゃないよ」
嘘だ!!
っと、心の中で叫んでおく。
いや本当に何してたんだろう。
そして隣では小路ちゃんがそれはもう熱心にお祈りをしていた。
なにかブツブツと言っているけど聞き取れない。
ただちょっと、何かに憑りつかれているみたいで怖かった。
私、今日無事に帰れるのかな?
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