神は死んだ

神様はいるんだよ。人を好ましく思っていないけど

 神様っていると思いますか?

 その答えは個人によって違うでしょう。

 でもね。この世界にはいるんですよ。神様が。


 ことの始まりは7年前。極東の島国でそれは発症した。瞬く間に世界中で同様の症例が見られ、今もなお有効な治療はおろか延命さえかなっていない不思議な病。

 症状は至ってシンプルで、そして謎に満ちていた。

 内容はこうだ。ある日突然、左手の甲に1~12の数字が刻まれる。老いも若きも、男女も国境さえ関係ない。その数字が余命だ。

 例を出して説明しよう。世界初の発祥国、日本の場合。3と刻まれたら余命は3ヶ月。そしてその数字が2になり、1になり、消えた瞬間……という具合だ。

 それは発症した人間が一番慣れ親しんだカレンダーに従っている。

 それはどんな高性能な時計よりもきっちりと絶命の瞬間を教えてくれる。

 普通に考えて人間業ではない。

 じゃあ新しいウイルス? 細菌? DNAの問題? 

 おおよそ人類が考えられるすべての可能性を追求した。その横で一人、また一人とその生涯を終えていく。

 5年間。それは人類がその病に抗った時間。

 わかったことは1つ。人類にはできることなど、何一つとして「ない」ということだけ。

 じゃあ人類は神話でもなし得なかった絶滅を迎えたのか? その答えは「ノー」だ。

 その病は発症率が限りなく低かった。そして感染もしない。だから中世のヨーロッパで大流行したペスト――黒死病ようにパンデミックを起こさなかったのだ。


 じゃあ人類は何もしないのか? 残念ながら人はそこまで愚かでも賢くもない。科学では説明できないことを解決する、素敵な発想を持っている。

 賢い皆様ならもうお解りだろう。


 そう。神様の存在を。


 誰かが言い出した。

「これは神様に選ばれた証だと」

「これは神様の呪いだと」

 天国に行けるだの、地獄に行くだの。みんな好き勝手に騒いでいた。


 皆様の大半が思い描いていた神様とはかなりのギャップがあるだろう。だからこの病には世界で統一された名前がない。なのでここはやはり先駆者である日本人がつけた皮肉なネーミングで。かの有名なセリフ「神は死んだ」より。


ニーチェ病……神が命を摘みとる病

 

 と呼ぶことにしよう。

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