第15話世界の終わり
俺はとある人物を待っていた。
「気分はどうだ?」
オークの様な形相をしたセレーナが歩いてきた。
「……何故、貴方がここに?」
「ただ試合に挑むって雰囲気じゃないな。復讐するんだな?」
「……気づいていたんですか?」
「当たってたか。大好きな姉様に会ったら諦めるかと思ったんだがな……無理だったか」
彼女の過去を聞いて復讐する動機はあった。
「恩人の貴方に危害を加えたくありません。そこを通してください」
「セレーナを治した俺の責任だ。止めさせてもらう。復讐したらお前は間違いなく処刑される」
五大賢者関係で消えた人間は少なくない。彼等は他人に興味を示さない。邪魔だと思えば躊躇わない。
セレーナの隣に漆黒の風が渦巻き、黒髪の女性が現れた。
「貴方に何が分かるんですかッ!誰も私を見てなかった!『アルフ・ユグドラシルの娘』としか見られてなかった!そして親に刃を向けられた私の気持ちがッ!私はこの日の為に生きてきたッ!見てくださいッ!」
彼女が背を向けて衣服をはだけた。
身体中には痛々しい傷の痕が残っていた。
「私はこの傷に誓いました。必ず復讐を成し遂げると……」
セレーナは衣服を整え、詠唱を始めた。
彼女の脚に漆黒の風が集束する。
「(……ッ、まただ。あの精霊は普通じゃない)」
精霊紋を治療した時に感じた魔力とは違うナニカを彼女の魔法から感じた。
そして━━
「(思い出した……)」
シアの固有精霊魔法を使った時にも、僅かに感じるナニカ。
「お前の精霊は特別なのか?」
「……話す気はありません」
「(当たりだな。あの魔法はシアの魔法と同等と考えた方がいいな)」
「最後です。そこを退いてもらえませんか?」
「断る」
そうですか……とセレーナが呟き俺に接近する。
「〈来い・シア〉!」
シアを呼んで魔法を行使しようとしたが……
「……嘘だ……ろ」
彼女は来なかった。
セレーナの風を纏った蹴りが俺の胴体を捉え、肋を破壊しながら彼女の蹴りが深く俺に沈みこんだ。
「……あがッ!」
俺は壁に激突して倒れた。
「(……ま、ずい……)」
シアの防御魔法がかかった俺の衣服でもダメージを殺しきれなかった。
立ち上がれない。意識が遠退いていく……。
「ま……て……」
彼女に手を伸ばすがその手は届かず、俺は意識を手放した。
***
『それでは!選手の方は入場してください』
私は舞台に立った。
『試合始め!』
お姉様を呼んで唱えた。
「〈漆風の纏い〉」
身体強化をしてアルフの目の前に移動、そして舞台に叩きつけた。
彼は身代わりの魔法具を持っていたようで無傷だった。
「貴様ァァァァ!〈天空と叡知を「させません」
立ち上がり詠唱するアルフの顔を掴み、地面に何度も何度も叩きつけた。
アルフの顔が砕け血が飛び散る度に私の体を駆け巡る歓喜に身を委ねながら魔力を練る。
そしてゆっくりとアルフの顔を持ち上げた。
「気分はどうですか?五大賢者と呼ばれた貴方は手も足も出ないなんて?」
彼の返事は無い。
「あははッ!無理だよ!そいつ気絶してるから!」
隣のお姉様が腹を抱えて笑った。
「驚いたよ。魔法具の効果も切れてるみたいだけど、まだギリギリ生きてるね」
アルフを放り投げ唱えた。
練った魔力を解放する。
「塵と化せ、〈漆風の嵐〉」
アルフは天を貫く漆黒の嵐に呑まれた。
嵐が消えると、アルフはいなかった。
「彼、死んだよ。塵も残ってない。おめでとう。君の復讐は成された」
「お姉様、次はユグドラシルを滅ぼしま……」
背筋に冷たいものが走った。
「どうしたんだい?」
「お姉様……あれ……」
灰色の空、紅い月。
「それだけじゃないセレーナ、周りを見て」
赤い花が一面に咲き誇る花畑に私達は立っていた。
「ここは一体……」
「ようこそ、私の庭へ」
声の方向に目を向けると、一人の女性が立っていた。
「ごめん、セレーナ」
首に衝撃を受け、私は意識を失った。
***
「あら、気絶させたのね」
「その方が都合がいいしね。それより久しぶりに勝負しようよ。ここなら時間を気にしなくて済むでしょ?」
「……貴方、まだ首折った事を怒ってるの?」
「やられっぱなしは嫌なんだよ」
私は左腕にかけていた魔法を解き、左腕を見せた。
ヴィネーが顔を引きつらせた。
「あの島以外の魂を全て回収したのよ」
体内に幾万の魂を取り込んだ為、身体に負荷がかかり崩壊を始めた。
「……尚更、勝てるチャンスだね」
「流石悪魔ね。でもここが何処か忘れたの?」
「しまッ……」
ヴィネーの後ろに扉が現れて彼女は吸い込まれた。
エルフの娘に近づいて魂を回収した後、アスモを呼んだ。
「アスモ、エルフの娘を頼んだわよ」
「ほいっす!」
私は転移した。
***
目が覚めると、シアの顔が目の前にあった。
「あら、起きたのね」
シアが俺を抱き締めていた。
「これどんな状況だ?」
「倒れていた貴方を治療したご褒美を貰っている最中ね」
「次の質問にはしっかり答えろ」
「何かしら?」
俺は立ち上がった。
「その左腕と腹、どうしたんだ?」
「……はぁ、よく分かったわね」
シアがため息をついて魔法を解いた。
左腕は陶器のように割れ、腹には空洞が出来ていた。
「答えろ」
「ごめんなさい。時間があまりないのよ」
「周りの人間はどうした?」
周囲を見渡すと、観客が全員倒れている。
「魂を回収したから死んでるわ」
「……そうか」
シアはただ殺戮を繰り返す奴じゃない。だから心配はしていない。
だが理由が気になる。
「理由は話せないのか?」
「ええ、後で説明するわ」
そしてシアが俯いた。
「それと貴方に謝らないといけない事があるの……」
そう言ってシアが顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめた。
視界の端で赤い滴が落ちた。
その瞬間、理解した。
今、シアは自分を殺して何かを成そうとしていることに……
身体が勝手に動いた。
そして━━
シアの唇を奪っていた。
シアは目を見開き、身体を硬直させたが直ぐに身を委ねた。
数秒後、シアが優しく俺を押した。
「……バカ」
「お前、俺から離れる気だろ」
「……」
「シアがいない人生は意味が無い」
するとシアはクスリと笑った。
「ありがとう、でも大丈夫よ。私は必ず、貴方の元へ帰ってくる」
「泣き顔で言うセリフかよ」
目を真っ赤に腫らしたシアの頬を涙が伝う。
「……う、嬉し泣きよ」
シアを抱き締めた。
「本当は答えなんて分かってた。俺はお前がいないと生きていけない。お前が望むなら何だってする。キスだって毎日してやる。だから行くな」
情けない事を言ってるのは分かっている。だがそんな事を考えている暇はない。
「その言葉を聞けて嬉しいわ。でも決めたのよ。貴方と出会う前の私は奪うだけの道だった」
シアが後退った。俺は彼女に手を伸ばすが足元から現れた黒い手に拘束された。
「でも今度は違う……」
何かに吸い込まれる様に、俺の身体がシアから遠ざかった。
「私が世界を救うのよ」
「シアァァァァァァァァァァァ!」
必死に抵抗するが黒い手はびくともしなかった。
シアは泣きながら笑っていた。
「愛してるわ」
その一言と共に一輪の赤い花を投げた。
その花に見覚えがあった。
そして思い出す彼女の言葉。
『貴方を愛してるのよ。これはね━━』
そう言って俺の部屋に花を置いていった事があった。
確か━━
「……彼岸花」
視界が黒く塗り潰され、意識が途切れた。
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