血鬼伝~吸血鬼になったので鬼狩りを始めました~
つらら
第1話 邂逅
川辺の斜面を椅子代わりに、空を見上げる。
昔からこれが好きだった。
日替わりの空の表情や、鼻腔から入ってくる草の香りを何も考えずただひたすらに感じる。
その行為自体が好きというよりは、黄昏れている自分に酔いしれたかった。
だが、そんな行為は高校二年の夏休みに終わりを迎えた。血の匂いと共に。
***
烏野麗奈。
彼女を一語で表すならば”才女である。
彼女が知らないことはないのではないかと思うほどに、彼女は物知りだ。
警察に協力して事件を解決させたという噂もある。
やはり眼鏡女子というのは脳が発達しやすいらしい。
終業式を終え教室に戻った僕は、ホームルームが始まるのを待つために自席に向かう。
すると、烏野麗奈が僕の席に座っていた。
「おい、そこは僕の席だ、どいてくれ」
「おやおや、鷹神春人君じゃないか、どうしたんだい?」
「どうしたんだい?じゃねえよ、白々しい、あと、人を一々フルネームで呼ぶな」
「はいはい、わかったよ鷹神君、つれないねえ」
烏野が椅子から立ち上がる。
この何でも見透かしたような話し方が鼻につくが、実際何でも知っていそうだし、烏野以外に気軽に話せる友人がいないので仕方ない。
許してやろう。
重い腰を下ろし、椅子に座る。
「ところで鷹神君、最近この辺りで失踪事件が多発しているのを知っているかい?この太刀雲高校の生徒からもついに行方不明者がでたらしい、夜道には気を付けたまえ、君がいなくなったら私は話し相手がいなくなってしまうよ」
「へいへい、わかったよ、って、おい!何やってんの!?」
いきなり烏野が膝上に乗ってきた。
しかも対面で。烏野は僕の目を見て話す。
「絶対、だ、絶対夜には出歩くな」
さっきまでのくだけた雰囲気から一転し、真剣な口調でそう述べた。
「わかった、わかったから早くどいてくれ、ほかの人の目線が痛い」
周囲を見渡すとクラスメイトが興味津々で僕らを見ていた。
「おっと失礼」
烏野はニヤっと笑って、自分の席に戻っていった。
***
一学期最後のホームルームを終えて、僕はいつもの川辺に来ていた。
まだ正午をまわったくらいなので、時間はたっぷりある。
斜面に寝そべり空を見上げ、ぼーっとしていると次第にまぶたが重くなってきた。
――――――――気が付くと辺りは暗くなっていた。
今は七月だから十九時頃だろう。熟睡してしまったな。帰るか。
放任主義の両親だから心配していないだろうが、今朝烏野にいわれたことを思い出したのだ。
夜に出歩くな。そのセリフを女子が言うなとつっこんでやりたいところだが、烏野がかなり真剣な表情をしていたのでやめといた。
と、こんなことを思いつつ立ち上がり、制服のズボンをはたいて砂を落とす。
ちゃぽん。
「!?」
背後で水滴が滴るような音がした。
突然の出来事に慌てて振り返ると、そこには赤い長髪の女が立っていた。
なんだこいつは。全身びしょぬれじゃないか。ってか、赤い髪ってバンドマンか何かなのか?あ、よく見るとすごい美人だな、この人。
「あのー、どうされました?すごい濡れてますけど、川にでも入ったんですか?風邪をひきますから早く家に帰ったほうがいいですよ。」
沈黙を破り、僕はそう尋ねた。
「・・・」
何も答えない女を見ていると、服の左胸あたりが赤く滲んでいることに気づいた。
よく見ると腕や首に多数の傷があり、血が滲んでいる。
さっきは暗闇に目が慣れていなかったから気付かなかったのだろう。
「めっちゃケガしてるじゃん!大丈夫ですか!?救急車呼びますか?」
「・・・」
ん?小声で何か言っている。もしかしてケガのせいでしゃべれないのか?
「聞こえなかったんで、もう一回行ってください」
僕は女の方に近づいて耳を寄せて聞く。
すると、
「矮小な人間の小僧、お前の血をもらうぞ」
女が僕の首に顔を寄せ、鋭くとがった八重歯を、首筋に突き立てた。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、ああああああああああ。」
激しい痛みに襲われる。
「ちっ、やはり人間の血はまずいのお、それに、あやつらの血を吸った時に比べて体の再生が遅い、心臓の再生もこれでは無理かの」
女が何か言っているが、意識が朦朧として聞き取れない。
このままでは死ぬ、と生存本能が警笛を鳴らした。
だが、人間ではありえない力で頭を押さえつけられているので、逃げられない。
「仕方ない、最終手段じゃ、おい人間、お前の体を依り代にしてやる、光栄に思え」
女はそういって首筋から顔を話すと、右手の人差し指を歯で噛み切り、自分の首に線を描いた。
すると、女の体が次第に変形していく。
「心臓がない状態では、変化後のサイズも落ちるのか」
女はひとり呟く。
そこには、羽をはばたかせ宙を舞う、漆黒の蝙蝠こうもりがいた。
逃げようと試みるが、血を吸われた影響か足に力が入らず、ふらついて尻餅をついてしまった。
「人間、そこにじっとしておれ」
そういった女、いや、蝙蝠は凄まじいスピードで僕の胸に突進してきた。
「ぐはっ、ごほっ、ごほっ」
自分の胸を見ると、蝙蝠は僕の心臓に突き刺さっていた。
激しい勢いで血が噴き出す。
次第に体の感覚が遠のいていき、ついに意識を失った。
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