3 古典 古き歌
古典 古き歌
思えば、今、ここに至る物語も、いろいろと苦労をしたものだ。
そのすべては目の前にいる、恋に鈍感な(星と、宇宙のことにしか興味がない)綾川先輩に責任があると小夜は思った。(まあ、そんな先輩に恋をした私が悪いといえば、悪いのだけど)
小夜は本当は古典が大好きだった。
日本の古典作品が好きで(源氏物語とか、枕草子とか、あと古今和歌集とか、そういった物語や随筆、歌が大好きだった)本当は古典の部活に入ろうと思っていた。(親友の八木ちゃんは、古典の部活に入部した。ちょっとだけ羨ましかった)
でも、小夜は天文部に入部をした。
なぜならそこには、部活動の勧誘をしていた当時二年生だった、綾川波先輩を見て、小夜は一目惚れの恋をしてしまったからだった。
天文部にようこそ、という文字の書かれた、たすきをかけて、黄色いメガホンを持ち、とても小さな声で「天文部に入部しませんか?」と言っていた綾川先輩を見て、小夜はその瞬間、一瞬で恋に(文字どおり)落ちた。
世界の時間は止まり、綾川先輩の周囲には花が咲き、(たくさんの白い花だ)小夜の目は輝き、視界が淡い色にぼやけて見えた。
次の瞬間、「……君、新入生? 天文部に入らない?」という綾川先輩の声を聞いて、(そのとき、綾川先輩は小夜の本当に近い場所に立っていた)思わず小夜は「……はい」と返事をしてしまったのだった。(そのあとすぐに、渡された入部届けに記入をした。今にして思うとちょっとした入部詐欺っぽい感じもするけど、……まあ、いい思い出であることは間違いない)
「先輩。私たちが初めて会ったときのこと、まだ覚えていますか?」
小夜は言う。
「初めてって、あの僕が三笠さんを天文部に入部しませんか? って声をかけたときのこと?」先輩は言う。
「はい。そのときのことです」思わずちょっとだけ声を弾ませて小夜は言う。
先輩はやっぱり覚えていてくれた。
優しい綾川先輩が、二人の思い出を忘れるはずがないと思っていたけれど、やっぱり、……それがすごく嬉しかった。
小夜は思わずにっこりと綾川先輩に微笑んだ。
綾川先輩は、なに? どうしたの? というような(いつもの)とぼけた顔をした。
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