りんごの木を植えよう

人の身ではどれだけ鍛錬を積もうとも、いずれ老い、朽ちてしまう。今日読んだ漫画にそんな台詞があった。

その通りだなと思った。どれだけ努力をして何かを積み重ねても、死はそれを全て白紙に戻してしまう。それはすごく寂しいことだと思う。

大学のゼミの担当教授はものすごい博識で、日本語学のことについてなら何を聞いても、いつも的確な答えを返してくれる。これだけの知識を蓄えるのにいったいどれだけの時間がかかったのだろうかと、そしてこの知識もいずれ失われてしまうのかと、その先生と話すたびに感動と哀愁に飲み込まれる。

でももし人に寿命がなかったら、人は今のように必死に生きられるだろうか。努力を重ねることができるだろうか。終わりが見えているから走れるということがあるように思う。それに世代交代がなければ、後から生まれたものは一生戦端にたどり着けない。

終わり良ければ全てよし、終わり悪けりゃ全て悪し。死が悲劇なら、すべての命は悲劇だ。だが人生はそんなオセロみたいなものじゃないと思う。悲しみに挟まれても喜びのままでいられるような思い出を、人はきっと作ることができる。たとえ終わりに約束された悲しみが待っているとしても、それを忘れて生きる喜びを謳歌できるのが人間の愚かさであり、美しさでもあるのだと思う。

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