twitter300字ss

泉由良

64th / 果物屋の娘

 最初は「つくし」だった。次が「ことり」硬筆検定教室の話だ。先ず、ノートに「つ」を何度も書き、次は「く」を書いた。一角の平仮名が最初だったのだろう。次が二角の平仮名。つくし、そして、ことり。よく出来たものだと思う。

 果物屋の娘はとてもきれいな字を書いていて、いつも師範は朱色の鉛筆で花丸をつけた。一重丸(頑張りましょう)二重丸(頑張りました)三重丸(よくできました)そして、花丸。

 果物屋の娘のことを考えるとき、精神のすこやかさというものを想う。彼女が家に帰るとき、オレンジや、檸檬やキウイの匂いに満ちた店内を抜けて二階に上がってゆくさま。店にいる父親、奥のパーラーにいる母親。そしてきれいな字の娘。



(Tw300字ss第六十四回お題「書」)

 2020/05/02

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る