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西暦201X年2月13日


「おかしい!!」


黙り込む青年、西園寺 宅戸 (さいえんじ たくと)をさし置き隣に座っていた少女は激怒した。

少女ーー的場小雪(まとばこゆき)には理解ができなかった。

無能力者であると言うだけで自分たち能力者とは同じようには評価がされないという不条理が全く理解できなかった。


彼女は許せなかった。確かに自分も高校生になるまでは無能力者を馬鹿にしていた節もあった。

しかし彼の頑張りを見て心が引かれたのだ。彼女だけではない。入学当初無能力者であり酷い火傷を負っていた彼を避けるものは多かった。

だが彼は賢かった。無能力者は馬鹿だと思っていた能力者達は張り出されたテストの点数に度肝をぬかれた。

無能力者であったが為に学年主席者の挨拶をすることはなかったが明らかに彼が主席入学者であった。

その当時は無能力者の癖に自分よりいい点数を取っていたことを怒る人間もいた。

だが彼は賢いだけに留まらなかった。

冷静沈着で心は優しく、無能力者という絶望的なハンデを埋めるくらい喧嘩が強かった。誰かがいじめられていれば助けに入り怪我したものがいればおぶって運んだ。

そんな彼をみて多くの生徒たちが彼を見直した。無能力者でありながら頑張る彼をみて彼の人間性を認めていったのだ。

教師達だって見ていた筈だ。だと言うのに目の前の傲慢な中年男性は規則は規則と言わんばかりに二人を馬鹿にした表情で見ていた。


文学風に言うならば必ずや、この邪知暴虐の教師を除かなければならぬと決意した。


「宅戸くんも何かいいなよ!おかしいでしょ!?」


それはまあ、おかしいと思ったからここにきたわけであったが大学から送られて来た不合格の通知を見せるなり机を挟んで座る教師は無能力者が落ちるのは当然だと言い放ったのである。


「小雪さん落ち着きなさいよ」


机を挟んで向かい合う教師が的場のことを下の名前で呼んだのを聞いて驚いた様子で瞬きする西園寺は想像して面白くなったのかからかうような口調で質問した。


「なんだ、下の名前で呼ぶような関係だったのか?」


それこそまさかである。

自分が融通も利かぬハゲ親父と下の名前で呼び合いながら愛を語っている光景が浮かんできて小雪はゾッとした。


「まさか、誰が下の名前で呼んでいいなんて言ってことありませんが?気持ち悪いです」


その後に"死んでください"と聞こえたのは幻聴だろう。


二人がこの進路相談室へやって来たのも西園寺宅戸が国内最高峰の国立大学であるニ柊技術理工大学を主席合格しながら無能力者だと言うことを申告しなかったという不正行為で不合格になったことに対する抗議のためだ。

大学側に問い合わせても営業妨害で訴えるなどと頓珍漢な返答しか受けられず学校を通して抗議を使用と考えたのだ。


それも無意味だったようだ。

進路相談室だと言うのに主席合格しながら無能力くらいで不合格にされるのはおかしいと言う二人に対して教師は勉強が出来るだけでは何も意味が無いなどと馬鹿みたいなことしか言わなかった。

だと言うならば勉強しかできない教師は一体なんだと言うのか。

この不平不満を全てぶちまけてやりたかったが我慢した。


自分のことでもないと言うのに一緒に抗議に行ってしまうくらい的場小雪は西園寺宅戸にベタ惚れなのであった。

盲目的なその思考からは西園寺は賢く優しいそれでいて皆が認める"スーパースター"ならぬ"スーパースチューデント"に見えていたようだが、進路相談室にいた教師のように規定概念に囚われているものも多くいたし、口には出さないがあまり良く思っていないものもいた。


「話になりませんさようなら」


怒りを孕ませながら教室を出た二人に白色のサブレザーと灰色のスカートを履いた一人の少女が待ち伏せていた。

彼と手を繋いでいた的場の手を叩き払うと西園寺の前でその場でくるりと回ってウインクをした。


「……?」


何か感想が欲しいのだろう。

何も言わない西園寺をチラチラみている。


「……あー、今日も美しいね」


「そうでしょ、むふふ」


嬉しそうに鼻を膨らませる少女に次のように続けた。


「制服が」


「制服……?制服がかぁ。」と呟いた少女は誰にも聞こえないくらいの声で「それって僕が可愛いってことはあまり前だから言わなくても当然ってことかな?むふふふ。宅戸くんも可愛いところあるね」適当なことを言われたのにポジティブに捉え幸せそうにしている少女に的場小雪は「まーた何かくだらないこと考えてるよこいつ」と思った。


「ていうかさ!私の手、叩いたでしょ!何するのよって言い忘れたでしょ!」


「ん……それでぇ?」


「いやだから謝れって言ってんの」

何処かとぼけたような返答を返すのは江花鵼。本人曰く自らの子供に鵼などと訳の分からない妖怪のような名前をつけるのはセンスがおかしいと思っているが、女なのか男なのかさっぱりわからない彼女にはお似合いの名前だろう。


江花家にお世話になっている西園寺は彼女だと思っていたが、的場小雪は彼女では無く彼……つまり男だと思っていた。

男のくせに女装して西園寺くんに言いよるなんて気色が悪い奴だと的場小雪は思っていた。

江花鵼が男であると言う根拠はない。ただそれが男だったらいいのになのか、女の勘が囁いているのかはわからないが要は嫉妬である。


「うーん、ごめんねぇ。虫がついてたからつい」


「嘘くせ」


「プライベートにまで足を踏み込んでくる、悪い虫がね」


「うぐ……そ、それは」


その嫌味は的場にクリーンヒットした。

西園寺と江花は同居人にして幼馴染でありプライベートなことも相談する中ではあったが的場はそこまで中がいいわけではなかった。

的場小雪は西園寺に恋をしている。

以前、西園寺に告白をしたもののふられてしまっているもののじゃあ友達からならどうですか?と迫ったその迫力に負け友達になった。

友達とは友達になろうと言ってなるものではないと思うが断る必要性を感じなかった西園寺はそれを了承したのだ。

告白以前、西園寺は誰かにつけられているような気がすると江花に相談していたが彼女はそれが的場小雪という人物だと気づいていた。

告白を受け迷う西園寺にそいつずっとストーカーしてた変質者だぞと吹き込んだのも江花である。

友達にはなったものの西園寺にとって的場はあまり仲良くしたくない相手であり、その少し離れて欲しいオーラは伝わっていないようだった。

何度も言うが的場は西園寺に恋をしていた。恋は盲目というが盲目になりすぎた彼女は彼が嫌がっているのも気づかずこうやって友達ズラをしているのであった。


しかし彼女もプライベートまで突っ込んでいる状況がいいのか悩んでいた。だから江花に悪い虫呼ばわりされたことに対して言い返せなかった。


精神的にダメージを受け落ち込む的場小雪を放置して西園寺と江花の二人は楽しげに話しながら歩いて行く。それを彼女は後ろから追いかけた。

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