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灰の大公爵 ラシエト=ウルド=サンギィスリウム〜悲劇の聖者〜
むかしむかし、あるところに心優しい王様ざいました。
王様はきれいなお姫様をむかえ2人の子どもをさずかりました。
1人は鬼のようにおそろしく、1人は人形のように整った見た目をしていました。
鬼のような見た目をした子どもは悪魔や鬼子とおそれられていました。
鬼子はたずねます。
「ははさま、ははさま、どうしてぼくは鬼子なの?」
しかし答えてくれません。
誰に聞いても答えてもらえず、無視され、怒りに支配されていった彼はやがて鬼になって姿を消しました。
もう一人の人形のように整った子どもはその容姿にふさわしくとても清らかで優しい心を持っていました。
聖神ラシュトから加護を得たラシエトは親から愛され健やかに成長していきました。
兄が鬼となって去った晩、幼いラシエトは双子の兄を思い、いつか元に戻してあげようと決意をします。
ラシエトは教会に向かい神父さまに尋ねます。
「神父さま神父さま、兄が鬼になってしまったのです。助けるにはどうしたらいいでしょうか」
神父さまは少し考え
「神から授かった光は荒んだ心をいやし、悪を打ちはらう力を持つのです。
ラシエト様が強くなればいずれ兄を救うことが出来るでしょう」
といいました。
それからラシエトは街に降りては救いの手を差し伸べ、だれとわずいやし、悪しき者たちを払い続けました。
それから10年の時が経ち、王様が王位をラシエトへゆずると発表しました。
そしておういけいしょうの日、広場に集まったひとびとに王様はといます。
「ラシエトが王になることにふまんがあるものはおるか」
もちろんいません。
この10年間、彼のはたらきをしらないものはいません。
だれとわず救いの手を差し伸べ"せいじゃ"のしょうごうをさずかったラシエトこそ王にふさわしいとだれもがいいます。
「ではラシエトよ」
そういいかけたところで空から鬼がふって来ました。
そして鬼はいいます。
「父……いや王よ。そいつよりもオレサマが王にふさわしいくないか?」
突然あわられた大男にみんしゅうは石を投けます。
父といわれもしやといいよどんだ王を鬼は掴むとそのまま食べてしまいました。
もう兄は戻らないかもしれない。
そうさとったラシエトはこしから剣を抜きたちむかいます。
光をまとった剣をふるうたび鬼からは黒いきりが吹き出し少しづつ縮んでいきます。
しかし鬼は勝てないと分かるととつぜんみんしゅうへとおそいかかりました。
にげるひとびと、ですがひとりの子どもが足をつまづかせ転んでしまいます。
次のしゅんかんにおこるざんげきに誰もが目をつぶりました。
「大丈夫だったかい?おじょうちゃん」
おそるおそる目をあけるとかばうように立つラシエトがいました。
振るわれた右手は鬼の首をはね、左手は鬼に潰され失いました。
子どもを救うためとはいえ、救おうと思っていた兄をころしてしまったラシエトは城に引きこもってしまいます。
王を失い、悲劇によって悲しみにくれるラシエトにさらなる悲劇がおそいかかります。
邪悪なドラゴンを従えた帝国が山を越えてやってきたのです。
それを知ったラシエトは一人でも人を逃すため、港をかいほうし船を出させました。
帝国は、こうふくをうけいれず無慈悲にも焼きつくしていきます。
心を痛めたラシエトは一人でも多く人を逃すため最後まで戦うことを決めました。
そしてそれに賛同するように男達がナベをハンマーを持って俺たちも戦うといいます。
しかし、彼らに笑いかけると目にも止まらぬ速さでかけ帝国軍におそいいかかりました。
邪悪な炎で焼きつくす帝国の攻撃など聖なる火の加護を受けたラシエトには聞きません。
勝てないとわかると帝国はひきょうなことに人間を盾にラシエトに襲いかかります。
盾にされた人はラシエトに言います。
「おれはどうなってもいい、だからたおしてくれ」
ラシエトは覚悟を決めます。
聖神が彼に加護をさずけるさいに絶対に使ってはいけないと言っていた魔法をつかうことにしました。
彼は自爆魔法を使い帝国軍を滅ぼします。
天高く昇る光に包まれ王国はしょうめつしました。
そして彼は死の直前、目の前に降臨した聖神はいいます。
「あなたは多くの命を救いました。しかし同時に多くの命をうばってしまいました。あなたは死ぬのは早い。
加護与えたあなたに罰を与えます。
殺した人たちの分まで生きなさい。」
天高くのぼる光の柱が消えたあと空からは灰がふり、賑やかだった思い出の都市はがれきへと変わりました。
そこに一人生き残ってしまったラシエトは立ち尽くしました。
それから死ねない罪を背負いながら歩み続けました。
いつからか彼は灰の大公爵と呼ばれ、今も何処で罪をつぐなっているのです。
続く
◇◆
「誰だこいつ」
部下の一人から借りた"悲劇の聖者ラシエト"とか奴が罪を償うために旅に出る物語を読み発した言葉がこれだ。
今日は新入りを迎えた歓迎会を開いてちょっとした祝杯をあげていたところだった。
そこに、以前から聞きたいことがあるけどまず読んでくださいと言われて渡されたのがこの本だった。
「いや、マジでこれ誰だよ」
悲劇の聖者ラシエト=ウルド=サンギィスリウムか。偶然かなぁ、自分も同じ名前なんだ。
いやまて誰だよこんないい加減なことを書いたやつ。
フェアリーズトリトリ文庫?初めて聞く会社だな。
罪を償う?冗談じゃねえ。
そういえば、やたらとオレのことを尊敬した目で見てくるやついたがこれのせいか!
いや、だとしたら本当に悪いことしたわ。
真逆だよ。心優しきとか違うし。
「どうですか?これ子どもの頃何回も読んだんですよ!ラシエトさんに会うのが夢で今なんて一緒に働いているなんて夢みたいです!」
確かにこの本よれよれだしな。
どんだけ読み返したんだか。
このへんな物語のせいで海賊になっちゃった人もいたりしてな。
あーあ、夢見たいか
夢ね。何人か頷いてるな。
尊敬されるのはいくつになっても嬉しいよ、でもね、それオレじゃないんだよなー。
うーむ、困った。ここは嘘をお話しに合わせて話すか?
どうすればいいんだ、よっ
数百年前、とある事件によって共に不老になり当時から共に海賊をやってきた副船長のゴンスに視線を送る。
多分「おれはどうなってもいい、だからたおしてくれ」とか言ったやつのモデルはこいつだ。
あの時の生き残りはオレとこいつともう一人しかいないからな。
(おい、副船長だろ、なんとかしろ、副船長は船長を補佐するのが仕事だ
さあ、やれよ)
(無茶言わんでくださいよ…)
(出来る出来る、ほらなんか適当にいい話をな?)
睨み合うこと5秒。
視線での会話を終え、"はぁわかりましたよ"言わんばかりに目を伏せた渋々ゴンスが口を開いた。
「その話はデタラメだ」
その言葉に誰もが息を飲んだ。
(おいおい、そうじゃない!そうじゃないぞ)
(こうですよね!)
(いや、お前はわかってない、今すぐ話を戻せ)
大丈夫、船長、任せとけと言わんばかりにゴンスは目で頷き話を続ける。
「最初から最後までデタラメだ。心優しき王はいないし、姫は攫ってきた貴族の令嬢に産ませた子供だし、兄は鬼ではなかったし、ラシエト様は全然優しくなかった。
それから帝国は邪悪ではなかったしどちらかといえば公国の方が邪悪だった。
神に祝福はもらってないし、生まれた日は大公爵様を騙そうとした商人の家を焼き払った日だった」
「え?なんですか、それはう、嘘ですよね」
かなり動揺する部下。
黙っていたオレに視線が注がれる。
仕方ない。
話がこうなってしまったは嘘をついて誤魔化すのは愚案だ。
「マジだ、すまんな、夢を壊して」
ゴンスが言ってしまったなら仕方がない。
確かに隠しててもいつかはバレる話だった。
こいつはわかってて今話してくれたのかもしれない……と思いたい。
一応、オレが書いたわけではないが夢を壊してしまったのはオレの責任だ。
だから組織のトップとして謝罪をした。
「そんな……」
ボソリと呟いた一言に彼のどれだけの悲しみが込められているのだろうか。
「っ。……は…」
泣かしてしまったか。
そうだよな。
いると思ったものが実は虚像で全てが嘘っぱちだったなんて。
尊敬していたならば尚更か。
「はっはははは!そんな、そんなことだと思ってましたよ!ひひっ、ひゃはははは!!」
やばい、おかしくしてしまった。
どうしたよ。危ない薬にでも手を出してしまったか?
ちなみにうちはそう言う薬に手を出してはいけないと言ったはずだがな?
「大丈夫か?まさか……」
「いや、大丈夫です。
正気です。正気。
いえ、あのですね。
子供の頃は物語の方を信じてましたがここで働き始めてからは疑問に思っていたんですよ!
だって船長この間だって民間人が乗った船を砲撃で沈めてたじゃないですか。
理由が兄に似たやつが乗ってだからって。
もしかして生きてるかもしれないし殺しとくかって言って何の罪もない人を殺すなんて
あれが心優しい人が出来ることじゃないですよ。
って言うか兄を救おうとした人が兄がいる死ねとかやりませんし。
罪を償うって言うか罪を増やしてるし。
物語読んでから実際に観ると殺戮を繰り返して殺した人間から寿命を奪い取ってるようにしか見えませんって!
それに、神は死んだとか毎日のように言ってる船長に神の加護があるとは思えませんし。
で、……船長。
マジな話どうなんですか?
俺たちしらないんすよ。
教えてください!」
はぁぁ、よかった。
いやよくないけど。
てかお前らオレのイメージ酷くない。
民間人をむやみに殺してんじゃないんだよ。
あれは難民だ。馬鹿。
仕事だっつうの。
国がうちに依頼したんだよ。
隣国から入り込んでくる難民を追い払えってな。
国際法とか言うので難民は保護しないといけないとかで、国民以外に食料を分け与える余裕がないらしく法の元に属さない海賊に国がなかったことにしろって依頼して来たんだ。
実際言ってきたやつは、海の掃除をしろって言ってたけれど。
言われなくてもそんなことだろうと言うのはわかる。
それにこないだ沈めた小船に偶々兄に似たやつがいてちょっとした冗談で言っただけじゃねぇかよ。
な?ゴンス君。
「船長の冗談はわかりづらい。
船長は真顔で冗談言うし、笑いながら怒るし、そういう上司は部下に嫌がられます」
……キツイなぁ。
いいじゃん個性。
個性だよ。
(船長、そろそろ話した方が…)
ゴンス君が目で催促してくるのでそろそろ話すことにしますか。
本当の歴史を。
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