第8話 リョナ絵描いてたという理不尽な理由で地獄行きにされたけど案外悪くない

タイトル

リョナ絵描いてたという理不尽な理由で地獄行きにされたけど案外悪くない


あらすじ


地獄に落ちたけどめっちゃ文明化してた……

リョナとエロをこよなく愛したエロ絵師は背徳行為だと人生を否定され地獄に落ちてしまう。しかし地獄は近代化の波によって開拓されていた。

スーツを着込む鬼、電気、水道の存在する都市、悪魔、鬼、人間が闊歩する街で暮らしていけるのか!?






2020/04/14 1話 内容改編しました。

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空は暗くそして赤く月も星も見えない天上とまっすぐ続く石畳の道。


道の端には等間隔に松明が並べられている。辺りには俺と同じような格好をした人間たちがたくさんいた。



俺は死んだらしい。そう、さっき聞いたのだ、信じられない。



近くにあると言うのに松明からは熱を感じない、パチパチと生木が焼けて割れる音がするし、火の粉が舞っているが近づいても頰を撫でるような熱気がない。


恐る恐る触れてみれば手が松明を支える籠を通り過ぎ火の中に入っていった。

なんだこれ、透けてる。


うわ、ぉ。さっき言ってた死後の世界ってのは本当なんだな。


いつのまにかこんな場所にいて混乱してその辺にいた人に聞いたけど、死んだとか死後の世界とか正直信じられない。

まだ仮想世界に閉じ込められた、って方が現実味がある。


死んだとか勘弁してくれ。

夢であってくれ、夢で!

まだやり残したことがあるような気がするんだ!


手だけではなく体まで松明にめり込ませて考えごとをしているってのは少しおかしいやつだと思われるのではないだろうか。

ただ地面はすり抜けないのに松明はすり抜けるってのはゲームだったらオブェクト設定のミスとかバク報告がされそうな話だ。


現に俺みたいないきなり松明を触るやばい奴もいるから、死後の世界でもう一度火葬されないように配慮されているのかもしれない。



それにしても死後の世界といえば逢魔様の裁判を受ける前に三途の川なる場所を渡るのではなかっただろうか。


この後きっとわたるのだろう。

そうじゃないと、目の前でちゃんと並んでいる幽霊達がなんなのか説明がつかないし。


そういえばこんな話も聞いたことがあるな。三途の川を渡るには橋渡しの死神にお金を払わないといけないとか。


今着ている服にはポケットとか見当たらないし、金を持っている気配もない。

それも他の幽霊達も同じようだ。


まさかゲームみたいに殺したらお金をドロップするなんてことないだろうな。

三途の川前でニッコリと笑った死神が川を渡りたきゃあ、殺し合いなって言いながら、鋭く尖った鎌をなぎ払って"逃しやしないよ?逃げる奴は私が殺す"とか言って俺たちに殺し合いをさせるのではないだろうか……

……


……ちょっと考えていたら面白くなってきてしまった。悪い癖だ。続きは列に並びながらでも考えよう。



それにしても並んでいる人達は生きていないんだなって思ってしまうような顔をしている。

偶に俺のような意識がはっきりしていてちゃんとした顔をしている奴や、騒がしくしている幽霊なんかがいるが、ほとんどはそれらの例外に当てはまらない。


常人なら出るよ、ここ絶対出るよ、てかここ何処だよ、って騒ぎ立てそうな場所なのに、そんなことを言うやつは見た感じいない。

それどころか、平然と……というかそこに列があるからと、当然のように石畳の続く道に並んでいた。

肝試しに使うようなおどろおどろしさがあるってのにな。


でも、出るとか言ったけど俺も幽霊だし周りも幽霊だった。出てるわ。幽霊の満員電車だよ。マジモンの心霊スポットじゃねえか。

幽霊になってからわかったけど他の幽霊がいると安心感がやばい。

近くにいるほど安心するって感じかな。


一つの心霊スポットにたくさんの幽霊が出るってそういうことだったんだな。



幽霊が出そうな場所だなと思ったがよく考えたら自分も幽霊だし、前に並ぶ人達も幽霊だったってことに気づいて急に気分が醒めてきた俺とは対象に意識がはっきりとしている奴らはちょっとおかしかった。


自分の状況が理解出来ないのか列に並ばず走り回る奴、頭を抱えて泣く子供、そして転生できるぜやったあとか死んで喜んでるキチガイ。


それ以外の幽霊達は死を受け入れているのか、トロンとした目で上の空を見てただただ並んでいた。


俺も列があったから並んだが、周りの奴ら老若男女だいたい上の空で魂が抜けたような顔をしている。

幽霊なのに魂が抜けてどうするよ。

魂が抜けるのは現世においてきた身体くらいにしろよ。


それにしても、ぷっくらと腹の贅肉を垂らしたハゲおやじがトロンとした目で上の空になっているのは正直言ってウける。


列に並ぶ。僅かながら列は前に進んでいるらしい。

ほとんど進まない上、先が見えないのだから恐ろしい。

幽霊になったからか、立ちっぱなしでも足が疲れないのは素晴らしい。


俺は生前絵描きだったので出来ればこの瞬間、この場所を絵にしたかったが残念ながらスケッチブックもペンもない。

それでいて松明に限らず他人も自分の身体も傷つけられない。

死んでるのだから血を出しても死なないだろうと思って唇を噛んで血を出して自分の服に絵でも描こうかと思ったがうまく行かなかったのだ。

生前だったら絶対こんなこと思いつかなかったが、死んだせいか、それともこの非現実を受け入れ始めたせいか少し俺もおかしくなったらしい。


絵も描けない、風景も面白くない、幽霊は生返事しかしない。何時間も待ってられるか、と嫌になってきて騒いでいる変人でも観察して時間を潰そうと思ったら目があってしまった。


「……(あっ)」

一瞬やばいと思い目を背けたが間に合わなかったようだ。


「ぼ、僕はだれですか?」

第一声にそんなことを言い出した記憶喪失の青年は、虫の這うようなシャカシャカとした動きではってきて俺の服の裾を掴んだ。



「知らん」


目の焦点もあっていない。死んでいるからか、虐待とかされた様子もない青年。ただのおかしい人なのか、生前、酷い目にあって心が壊れてしまったのか判断がつかない。


「そんな、酷いヨぉ!ひどい"いいいいいいぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


奇声を上げて青年は叫び出した。

頭を掻き毟り頭を石畳にぶつけ泣き出した。

幽霊だから掻きむしっても髪の毛は抜けないし、頭を打ち付けても血が出ないが、これが生きている時にされていたら相当な恐怖を感じていただろう。


本音を言えば酷いのは俺じゃなくて、お前だと言いたい。言ったら何をされるかわからない。死んでいるからかよっぽどじゃなければ何をされても痛くも痒くも無いが、もしこの後、逢魔様や閻魔様が人間に裁きを与えるというならばここは穏便な対応をとるべきではないだろうか。



「僕は僕、ぼぼぼBBbbbbbb……僕ボク僕ボク僕ボク僕ボク僕ボク僕は僕?僕は……僕は誰誰誰ダレ?ダレですか?ダレ僕?アハ僕。アハハハ」


ひぇ……。なんか手遅れな気もしてきた。死んだらもっと正気になると思ったがこうもおかしなやつもいるんだな。

この青年も可愛そうっちゃ可愛そうだ。

もっと正気だとか、死んで喜ぶような狂気であればまた違っただろうが、こうも精神的におかしくなった状態であるならば、普通の幽霊のように死を受け入れて上の空であるべきだっただろう。


しかし、まあ俺に頼ってきたのは間違いだとしか言えない。

絵描きだが、残念ながら自分のセンスは芸術極振りでありネーミングセンスという才能はない。

何処かで聞いた見た馬鹿馬鹿しいありふれた名前くらいしか出てこないのだ。

だからこそ、ここは変に攻めた名前を言わずに超シンプルであるべきではなかろうか。


「お前は田中太郎だ 」


青年はブツブツと呟くのをやめクマの目立つ濁った目が俺を捉える。


「僕は田中太郎なんですか?」


ソウダヨ、キミノナマエハ 田中太郎ダヨ

明らかにアジア人、ジョンドゥではマズイだろう。

ともかく、こいつが俺に自分の名前がわからないから教えてくれと言ってきたのだ、こいつの名前なんか知るわけがない。ただ、だからこそ何処にでもいそうな意味で適切に対応するという意味で適当につけたのだ。

誰がどう言おうとお前は田中太郎だ!


「そうだ」


死んだ目でブツブツと呟き爪をかじってヨダレをたらしていた青年の目に光が宿った。


「わーい!」

急に狂気が鳴りを潜めて子供っぽい無邪気な笑みを浮かべた青年は笑いながらどこかにかけていく。

ますます今がわからない。


死んでからそんなに立っていないが退屈しないな。死後の世界はもっと退屈でどうしようもない場所だと思ったが違うらしい。死後は刺激のない退屈な世界で生きる……?違うな、止まるのは嫌だなと思っていたから、こんな感じで偶に変人を見るのも悪くないかもしれない。

地獄くらいしか死んだ後、刺激のありそうな場所はないと思っていたからちょうどいい。

「あのー、」

流石に針山地獄で滅多刺しにされたり同胞の血でできた池に沈められたりするのは御免である。


「あのっ!」


次から次へと厄介ごとが……。

耳元で言われたので煩いと思う反面少しドキッと来た。い、良いじゃねえか、男なんだから……。


振り返るとやはり若い女性がいた。

人のことば言えないがこんな若く死んでしまって可哀想に。

ふわふわした雰囲気の女性だ。茶髪に染めているし化粧もバッチリだ。ネイルもしている。一体、死後の世界に持ち込めるものと持ち込めないものには何の違いがあるのだろうか。

俺がしていたはずのアンティークの懐中時計は無いのに対し、後ろにいた女性はつけまつげが付いている。


*ぶき ぼうぐは そうびをして みに つけるように! もってるだけでは だめですぞ!*


なんだかわからないが頭の中に浮かんできた。なるほど、これが電波というわけか。初めて聞く言葉だが、とてつもない名言である気がしてならない。


ちょっと、装備と持つの違いが理解できなかったが要は身体にぴったりくっついているものは装備扱いになり持ってこれるということだろうか。

そういえば、よくよく思い出してみると、金歯や入れ歯をした人を見かけたな。


「すみません、聞こえてますか?」



ふと意識を戻してみれば仕事が出来なさそうな女性がいた。

可愛いがマヌケそうなので絶対に仕事を共にしたくはないタイプだ。

と酷評したところで思い出した、この人はさっき俺に話しかけてきた女性じゃないか。


「あなたはどう言った経緯でここに?」


真面目な顔でどう言った経緯で、なんて聞かれてふと、面接を思いだした。

懐かしいなぁ。


「気づいたらいたんだ。ここに」



死んだぜ、転生して異世界でハーレムチートだぜとかわけのわからないことを叫んでガッツポーズをしていた変人が聞き耳を立てているのを無視して話をすることにした。


「それで死ぬ前はどうだったかあまり覚えていないんだ、これが。高いところから落下したような気もするし、何か詰まらせて死んだ気もする。要は過去の記憶とごっちゃになって実際はどう死んだかなんて覚えていないってことさ」


「成る程……」


唇に人差し指を当てて考え出す女性。

生前はぶりっ子ぶってんじゃねえよ、とか、男をたらしこみやがって阿婆擦れが、と同性の方に言われたことはないのだろうか。

エロ絵師として彼女には是非ともあんなことやこんなことになって欲しい。


「?何かついてますか」

ジッと見つめていたからか、不思議そうな顔をして返事を返されてしまった。


「頭に芋ケンピ……ついてるよ」


聞き耳を立てていた変人が毒電波を垂れ流してきたが、どうやらこの女性も無視するらしい。


「いや、何でもない。ところで貴女はどうしてそのようなことを俺に?」


「あー……」

と言いながら顔をぽりぽり掻いて露骨な真似をしたことに少しイラっときた。

可愛こぶってんじゃねえよ。

エログロ絵師としてリョナ絵の餌食にすんぞ。


どうも答えてくれなさそうな女性を放って置いて異世界転生芋ケンピな変人君に話しかけることにした。

だってこの人さっきから、話しかけてきてほしいオーラ出してんだもん。

無視された時なんか、餌の前で待てをされた犬みたいだったし、少し罪悪感が湧いてきたってのもある。

一番は、自分から聞いてきたくせに自分の情報はもったいぶって話さず終始ぶりっ子ぶっている後ろの女と会話を終わらせたいというわけだ。


「うーん、キミはどうしたんだい?何かようかな」


「あ、えっと、俺っすか?」


「そうだけども。」

お前だよ、ほかに誰がいるんだよ。

わざわざ向き直したのに、お前の後ろに幽霊でもいるのか?俺は霊媒師だとか言うつもりか。

俺たちが幽霊だから、そんなのあるわけない。


「あー……」


話し下手かよ。さっきまで叫んでいた奴が一対一で話した途端これ。

きっとこいつ心の中で、"どうしよう"とか"話しかけられちゃったよ"とかで埋め尽くされているんだろう。


「さっき、異世界転生してハーレムしてチートで内政するんだって言ってたけどあの勢いはどうしたんだい」


「あ、聞いてた感じっすか」


そりゃあんな大声で叫ばられれば、意識が正常なやつなら振り向いてみるっしょ。


「キミはさっき来たばっかりだから、もしかしたらわかってないかもしれないと思って言うんだけどいいかな」


「う、うっす」


「あくまでその辺の人から聞いたり自分の推測も含まれるんだけど、俺たちは死んだらしい。今の姿は幽霊だとか、横文字にするならアストラ体だとかそんなところだろう。

実際に透ける、嘘くせえって思うんなら、松明に頭を突っ込んでみるといい」


「い、いいっす……いや、やるわけないだろっ!」


「いやぁ、だから透けるから大丈夫だってば、さっきやってみたけど火達磨にもならなかったし暑くもなかった」


「はぁ!?やったんかい」


「はははは、ナイスツッコミ、もしも同じ"ごく"になったらお笑い芸人目指さない?」


「なんだよ、同じ"ごく"って!?」


「天国とか地獄とか煉獄とか……辺獄まあ色々あるわけだけど」


「同じクラスみたいなノリで言うことじゃないだろ……」


話してみたら意外と面白い奴だったわ。

変人とか決めつけて悪かった。

あまりにも頭の悪そうなことを言うものだから、つい後ろにいた女並みかと思ったが、意外だ。

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