悪魔も恋していいですか?

しみしみ

第1話 金髪の、人間

 この世界は、不思議だ。

 様々な種族が共存する中、魔族との戦争史のページは毎日増えるし、差別や偏見はなくならない。

 私達悪魔族は、額に角がある。その忌々しさから、なにをしたわけでもなく嫌われ、避けられ、今では僻地に追いやられるほどだ。

 それでも私達は幸せだ。

 食べ物には困らないし、娯楽もたくさんある。

 ただ、1つ困ることが。

 私の好きな人が、悪魔族ではないことなんだ。


 ある朝、森を歩いて赤く実った果実を集めていたときのこと。

 あぜみちの真ん中で、金の美しい長髪の男が倒れていたのだ。

 幸い私は治癒の魔法を使える。

 見るに、人間族のようだった。

 私は街を焼かれたわけでも、親を殺されたわけでもないし、見殺しにするのは可哀想だと思ったので、その男に治癒の魔法をかけた。

 額や破けたズボンから見える傷口はみるみるふさがり、やがて男は意識を戻した。


「あなたが私を助けてくれたのですか」


 男にしては高い声。

 だがそんなことよりも、額の角を隠していないことに気づかれただろうと思い、急いでその場を去ろうという気持ちでいっぱいだったのだ。

 だが。

 ぐん、と体が止まった。

 私の腕を掴む男の手は、とても綺麗に見える。

 アスベラのように白く、艶やかな手。

 反射的に顔を見てしまった。

 意識が、ふわっとする。

 乱れた金の長髪からこちらを覗くすっとしている目が、私を釘付けにした。


「あっ、あの私」

「大丈夫、角のことでしょう?」


 男は薄く微笑むと、話を続ける。


「見ず知らずの人間の命を助ける心の持ち主が、悪い人だとは思わないんだ」


 声を聞くたびに跳ねるように脈を打つ心臓が、

 自分でもわかる。


「お礼をさせてくれないだろうか」

「い、いえ大丈夫です、では」


 とっさにでた言葉に、後悔している。

 なんで断ってしまったのだろう。

 あんな素敵な人と折角出会えたのに。

 しかし私は、人生ではじめての胸を締め付ける感覚に、たまらずその場を去ってしまった。


 あれから幾日か経った。

 角が少なく、小さい私は嫌がらせを受けるので学校にも行かず、家に閉じこもる日々を過ごす。

 そんな退屈な生活に射し込んだ太陽のような光のようなあの男の人のことが、忘れられなくて。


 出会えるはずはない。

 なぜならここは街から遥か離れた森の、さらに奥なのだから。

 森へ出向いたところで……。

 と、頭では思いつつ、森へ足を運ぶ自分に不思議と笑みがこぼれてしまった。

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