星降る夜に


「なあ」

お前は言った

「ん?」

「よくさあ、星降る夜って言うけど、それって一体どういう状況なんだろうな?」

首を傾げた

「星降る………夜か」

「ああ」

「そのまんまの意味じゃないのか?」

メテオ

「でもラブソングに使われることが多いよな、星降る夜にきみを抱き締めていたいとか」

おれは補足した

「それはつまり………世界の終わりの抱擁みたいな意味じゃないかな?」

「ロマンチックだな」

「だな、でも実際には星降る夜には慌てふためいてタンスの角に小指を激突させたりするんだろうな」

お前は黙り込んだ

「そもそもおれたちには無縁の話しだよ星降る夜なんて、だって抱擁する相手もいないしな」

おれは続けた

「まだ彼氏、出来ないのか?」

隣りの友人は言った

「ああ、ホモはつらいよ、色々な意味で」

「男はつらいよ」

「ああ、男はつらいよ、女になりてーよ」

「これからは肌寒い季節になるしな」

「ああ、人のぬくもりが欲しい」

「………そんな目でこっちを見るなよ、おれにその気は無いんだからさ」

「そういう拒絶のされ方は非常に傷つくな」

「ぬくもりはこたつで我慢しろ」

「傷ついた」

「傷ついたって駄目だよ、おれにその気は無いんだって」

「やだ、抱いて」

「いやだよしつこいなあ、しつこいホモは嫌われるぞ」

「じゃあどんなホモなら嫌われないんだよ?」

「………うーんちょっと考えるから待ってろ、ちょっと思いつかないな」

お前は再び黙り込んだ

「そもそもおれも含めて世間一般の人の多くはホモなんて頭のおかしい変人という認識でしかないんだよ」

「随分はっきり言うんだな」

「まーな」

「でも、そういうとこ好きかも」

「げげっ、ちょっと近寄って来るなよ気持ち悪い」

「抱いて、そして強く唇を奪って」

「やめろお!」


そうして気付いたら血塗れの友人が床に転がっていた

「はあはあ………」

何だかはあはあうるさいと思ったら自分のはあはあだった

落ち着け

おれは考えることにした

目の前の血塗れの友人が起き上がって来るのを待った

だがいつまでも友人はうつ伏せのままだった

(こいつが襲い掛かって来たんだ)

おれは思った

だから自分は悪くない

正当防衛だ

瞳から涙が勝手に溢れていることに気付いた

『おれもこの人を愛していたのだ』

ホモだとか下らない常識に縛られ自分自身の本当の気持ちにすら気付けなかったのだ

そのことにおれはようやく気付いた


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