再会


ねえ………何処に行こうか?

ぼくは言った

「海に行きたいな」

きみは言った

うみ?

ぼくは尋ねた

「こんな天気の日に恋人と二人で出掛けるなら海がいいんじゃない?」

そんなやりとりを駅の改札でして

ぼくときみは電車に揺られた

電車は音も無く進んで行った

乗客は殆どいなかった

ぽっかり空いた席を前に立ち尽くす女性がいた

何か呟いていた

「刺し殺………あのサンタクロ……刺し殺す」

俯き加減で長い黒髪が垂れその表情は確認、出来なかった

ぼくたちは海岸に近い駅で降りることにした

「暑いね」

きみは言った

そうかな

何か他に言うことがある気がした

でもそれを言ってしまったらもう引き返せないだろう

海はただつまらない風景が単調に続いているだけだった

波が無機質に揺れるその繰り返しだった

麦わら帽を被った子供がはしゃいでいた

ぼくはその時、隣りにいる彼女が既に死んでいることに気付いた

これは

「そう夢よ」

きみがぼくの心の中を覗くようにして口を開いた

ぼくは耳を塞いだ

「あなたいつもそうよね」

遠くを見つめながらきみは言った

死んでなんかいない

ぼくは言った

「こんなものただの幻よ………目が覚めればもうそこには何も残っていないわ」

頭上、一面を覆い尽くすよう広がる灰色の雲

「ねえ………わたしが何のために会いに来たと思う?」

膝から崩れ落ちた

砂浜のその一粒一粒がはっきりと見えた

嫌だっ

ぼくは叫んだ

きみがもう二度と帰らないことになったあの日

「あなたも見ていたはずよ」

うるせえ!

なあ

お前、誰なんだよ?

存在しないのにどうしてここにいるんだよ?

呻き声が耳の中でこだました

何もかも破壊され明日なんて世界の終わりであればいい


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