第122話 父と娘の夜警

 神様の町の宿舎は、一週間に一度、夜警の当番が回ってくる。

 幼児連れであっても、容赦はない。

 夜九時から三十分かけて、施設内を回る。

 お祭りの時以外は、一般の宿泊棟は四階まで真っ暗。そこを四歳の娘を連れて、夜警に回る。トイレもすべて確認。声をかけてから中へ入り、誰も潜んでいないか見て回る。建物の外も一周して、門扉が締まっていることを確認していく。

 娘と私で、ライトを持つのと拍子木を打つのを交代しながら、見回りに歩く。

 一回目の当番の日、雨が降っていたから、娘にお部屋で待っていられるか確認したら、「一緒に行く」とパジャマ姿で立ち上がる。

 眠くなる時間だけど、楽しそうに回っていた。

 時には、もう眠っていて、帯で背中に背負って、一人で懐中電灯を照らし、拍子木を打ちながら歩いたこともある。

 こんなことも、すべて忘れがたい大事な思い出。

 いつか私の中から消えていく前に、ここに記しておこうと思う。

 もし普通の家庭だったら、親子、夫婦の思い出がたくさんありすぎて、すべてが日常的で、どれが大事かはっきりしなくて、もっと早く消えやすいのかもしれないし、苦労もあるけど幸せな日常が継続していくぶんだけ、小さい頃の思い出が上書きされやすいかもしれない。

 娘を渡した翌年、両親と三人で神殿に行った。

 娘が怒って泣いた廊下。お友達と走り回った畳敷きの大広間。脳の中の娘の映像を、再生してみた。

 裁判に負けたことで、神様に感謝することはないが、娘との貴重な思い出は残ったことはありがたく感じる。

 いつか、またあの町を訪ねる日が来るだろう。

 その時には、娘も連れていけたらいいなぁと空想してみる。

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