第119話 いつか帰ってくる

 平成二十六年七月十四日の手帳。

「妖怪ウォッチのカード落とす

 買った直後でひどく残念

 宿泊所に帰って気づく」


 いつもと同じく、学校帰り、神殿近くのおもちゃ屋でガチャをした。

 託児所が気に入らないみたいで、昼寝をせずに遊んでいるようだ。だからだろう。帰る途中、ベビーカーで眠ってしまうことがある。

 途中、本屋さんに寄ったところまでは、起きていた。

 この本屋では、神様の町の五人組のヒーローのDVDとうちわを買ったことがある。

 この日は何を見に寄ったのだろう。妖怪ウォッチの最新刊だろうか。「たのしい幼稚園」などの幼児向け雑誌は毎月買っていたし、妖怪ウォッチのコミックも買い集めていた。まだ字も読めないのに、楽しめていたようだ。

 本屋を出てアーケードを歩き、ようやく宿泊所に着くと、ここからが大変だった。汗だくで眠る娘を汗だくの私が抱え、三階まで上がらなくてはいけない。健常者はエレベーターを使わないルールだ。

 部屋に着いて気づいた。

 あれ、カードどうしたっけ。

 本屋までは持っていたような気がする。三枚組のカード。まだ帯封は切っていない。

 どこで落としたんだろう。

 眠っている娘以上に、私が残念さを感じていた。

 さっき、買ったばかりなのに。

 戻ろうか。いや、今さら探したって。いったいどこを探せばいい。


 平成二十六年七月十五日の手帳。

「本屋で尋ね、カード見つかる

 心配しても無事戻る!」


 この町は、つくづく不思議な町だと思う。

 その日の学校帰り、娘と二人、昨日通った場所を探す。

 もちろん、食堂の前の自販機でアイスは食べ終わっている。毎日、あそこでアイスを食べた。今でも、父娘二人とも、よく憶えている。

 おもちゃ屋の前を通り、本屋に到着。本屋さんで、妖怪ウォッチのカードが落ちてなかったか聞いてみた。

「少々お待ちください」

 店員さんが、店の奥へ消える。

「こちらですか?」

「これです。すみません。ありがとうございます!」

 帯封のついた三枚組のカード。よくあったな。

 すぐに売り切れになるくらい人気のカードだから、誰か他の子が持って帰っても仕方ないとあきらめていたのに。

「なくさないように、ちゃんと持ってないとあかんよ」

 娘に手渡した。


 大丈夫。渡しても、すぐに帰ってくる。

 そう、神様から言われたような気がした。

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