第81話 娘との思い出アルバム

 二〇一四年十月、狂気の家事審判がすべて終わったあとで、デジカメの画像をまとめてプリントして、三冊のアルバムを作った。第一巻のカバーはアンパンマン、三巻目はアナと雪の女王。

 今、その第二巻を眺めている。

 妖怪ウォッチのアルバムは、二〇一三年三月、娘が丸い顔で雛祭りのケーキを食べている写真から始まる。


 この一冊は、娘と遊びに出かけた思い出の写真で埋まっている。

 ケーキの次は、県内の海辺の子供向けミュージアム。

 ここへは、幾度となく通った。入り口のオブジェと並ぶ娘は、日付が変わるごとに、少しずつ大きくなっていく。

 この海辺のミュージアム近くの展望台では、海をバックに満面の笑顔の娘と私の写真が、ちょっとずつ表情を変えて、アングルはそのままの三枚が続いている。


 じいちゃんばあちゃんと出かけたアンパンマンミュージアムは、ゲームコーナーのスタンプ帳がコンプリートされて、記念撮影までできた。

 どことなく、母親を思わせる気難しさを持つ娘が、アンパンマンミュージアムから帰った夜、駄々をこねて怒られて、少し鼻の先を赤くした表情で、赤ちゃんマンのマントをつけて、「アンパンマン、ジャムおじさん、ドキンちゃん、メロンパンナちゃん、ロールパンナちゃん」の五つのパンが入った大きな箱をかかえて、写真に納まっている。


 隣の県の動物園は、娘が初めて行った記念すべき動物園。

 あいにくの雨で、初めて買ったピンクのレインコートを着て、三輪車に乗る。後ろには、三輪車を押すじいちゃんとばあちゃんが並んでいる。鳥の羽と帽子の着ぐるみをつけて、記念撮影。


 大きな船のある遊園地にも何回も行った。向かいに建つ宇宙船の施設へも繰り返し足を運んだ。

 この宇宙船のミュージアムは、入口に塗り絵のコーナーがあって、隣で塗り絵のキャラクターの顔青く塗る男の子に、「顔を青く塗るの、禁止!」って怒って、喧嘩になりそうで、あわてて止めたけど、どこでそんな言葉を覚えたの?


 山の中の遊園地。ここの滑り台は、山の傾斜と同じ傾きで、すごいスピードが出て、しかも長距離。二人で恐くなって、途中でリタイヤしたね。

 そうそう、この時、高速を走っていて、寝ちゃったから、お父さんがじいちゃんと運転を代わったら、途中で目が覚めて、「おとうさーん、おとうさーん」って泣いて、パニックになって、運転席へ来ようとして大変だった。

 いつも、お父さんが隣で、いつもお父さんが抱っこしてたから、離れて座るのには耐えられなかったんだよね。

 何も事情を知らないで、お母さんに引き渡せって言える裁判官って、自由に他人を不幸にして何も思わないでいられるなんて、本当に幸せで、とても不幸な人だよね。

 メイちゃんは、大人になっても、絶対にこんな仕事にはつかないよね。人を不幸にする仕事なんて、この世の中から消えて無くなればいいのにね。

 バカな大人が多い世の中で、ごめん。

 ごめんね、メイちゃん。


 アンパンマンミュージアムも何回も行ったから、マントもコンプリートしたね。

 ナガネギマンの緑のマントまでゲットしたよ。あの時は抱っこして車に戻ったら、マントがなくなったのに気づいて大泣き。

 お父さんはあわてて戻って、園内を探したけど見つからなくて、スタッフの人に説明して、新しいのをもらった。こんなことも、お父さんには絶対に忘れられない、大切な思い出。

 乱暴者だから、ドキンちゃんの風船を車内で叩きつけて、おうちに着くまでに破いたこともあったよね。


 ウルトラマンのミュージアムでは、五本の小さな指に、ウルトラマンの指人形。

 自然がテーマの公園では、積み木で遊んでいたら、他の男の子が運んできてくれたね。

 別の日のアンパンマンミュージアムでは、順番待ちして座ったのに、しょくぱんまん号のハンドルを横から奪おうとする男の子を、ひじでブロック。

 湖の近くの公園では、フィルムケースでロケット作り。おもちゃで遊んでいたら、いろいろ話しかけてきた女の子がいたね。まだ、メイちゃんは小さいから、上手に遊べないよね。

 電気科学館では、いつも工作して、お父さんと一緒に、タコの飾りやスライム、万華鏡も作った。実験のコーナーで、先生から当てられそうになると、顔を隠してたよね。動く光を追いかけて元気に走り回る姿は、一生忘れない。


 この年の夏は、じいちゃんばあちゃんみんなで、海遊館にも行った。

「水木しげるの妖怪楽園」、二人で入って、最初の真っ暗な部屋で号泣。途中で二人だけ抜け出して、お化けが並ぶ通路を抱っこして走った。

 ぬりかべの前で抱っこして撮った写真。顔が固まってるよね。出口では一反木綿に二人で座って、余裕の表情。おみやげは、ゲゲゲの鬼太郎の折り紙と目玉おやじの扇風機。

 ガチャガチャもしたけど、出てきたのが、ぬりかべだったから、お父さんにくれたよね。


 たぶん、同じ年だと思うけど、なぜか写真が残ってない。

 隣の県の端っこにある遠くの水族館。イルカのジャンプを見たけど、朝早くに出かけたからか、眠そうだったね。ここの売店がひどくて、メイちゃんがおみやげを買うのにお父さんと一緒に並んでいるのに、通路からドンドン横入りするから、お店の人に注意した。

 普段は怒らないけど、最初の駐車場の誘導から売店まで、あまりにひどかったからね。この頃からかな。ダメなことにはダメと、しっかり怒らないとダメだと思ったのは。


 七月、「うみな~うみな~ひろいかな~、どっちかなひろいかな~、ざんぶりこ~ちゃぷちゃぷちゃぷ」と歌った海水浴から一年。三歳を表す左右の三本指でダブルピース。

 八月、雛祭りにプレゼントしたマイメロのテントハウスで遊んでいる時に、大伯母ちゃんから質問してもらって、「おかあさんのことへは行きたくない!」ってはっきり答えたのに、そのDVDを見た高等裁判所は、メイちゃんの言葉を無視したんだよ。

 残念だった。

 悔しかった。

 平然と嘘がまかり通る世界が、この日本にあるなんて、裁判をするまで知らなかった。

 恐ろしい国、日本。

 メイちゃんが大きくなるころには、少しは、この国の裁判所が正しく変わっていたら良いなぁと心から願いつつ、この文章を書いています。


 モンキーパークでは、隣にいたお姉ちゃんから渡されて、トカゲを触ったよね。蛇嫌いなばあちゃんはあわてふためいていたけど、メイちゃんは勇気があるよね。この心の強さは、神様からのプレゼント。

 亀の甲羅に触りながら、亀とお散歩したの、覚えてる?


 秋には、いつもの海の展望台で、同じアングルの抱っこの写真。少しずつ大きくなっていくね。

 海をバックに、大きく手を広げるポーズ。


 国際交流会館フェスティバルでは、昔遊びコーナーでルールを無視して、お兄ちゃんお姉ちゃんと嬉しそうに走り回ってた。


 写真には残ってないけど、市内の淡水魚の学習施設で、お父さんは年間会員のカードを作って通ったよね。幼児のメイちゃんは、無料。クルクル回って降りる滑り台でいつも遊んだけど、一度だけ、よそのお姉ちゃんと弟が来ていて、仲良しになったよね。少しずつ成長してたんだよね。


 お父さんと二人だけで、隣の県の動物園まで行ったこともあった。初めてその隣の広い公園で遊んだね。ウルトラマンの顔がついた三百円の光線銃は、電池で光って英語までしゃべった。“Go!Go!Go!Going Now!”


 そして、翌二〇一四年一月、海辺のミュージアムのオブジェと並んで、恒例の記念撮影。とうとう身長がオブジェを追い越したね。

 いつもおみやげを買ったし、横のレストランで、いつもソフトクリームを食べてたね。百五十円でビッグサイズで、いつも半分はお父さんが食べてた。


 一年前の三月に、家庭裁判所がお母さんの嘘を事実と認めて、メイちゃんとお父さんの本当の話を無視した時、お父さんには、いつか裁判所の力で強制的に、メイちゃんがお父さんのところから奪われることが分かっていたんだ。


 ごめんね。本当にごめん。


 だから、お父さんは、じいちゃんばあちゃんとお話しして、メイちゃんが裁判所に連れ去られる日まで、一生懸命、思いきり、一生分、メイちゃんと遊ぶことにしたの。

 たくさん、たくさん、思い出を作って、メイちゃんの心の中から、お父さんやじいちゃんやばあちゃんが絶対に消えていかないように、メイちゃんが心の中で一人ぼっちにならないように、かわいそうなお母さんみたいに、一人ぼっちで迷子にならないように、大事な大事な思い出を、一年かけてプレゼントすることにしたの。


 ごめんね。守ってあげられなくて。

 ごめんね。「おとうさんとずっといっしょにいるの」っていう、メイちゃんの願いを叶えてあげられなくて。

 本当にごめんね。


 メイちゃんみたいに、大好きな親から引き離されて、悲しい思いをする子が、いつか、この国からいなくなることを願って、お父さんは諦めずに戦って行くことにしたよ。

 お父さんの願いもメイちゃんの声も、正しいことをすべて無視してしまう恐ろしい家庭裁判所に、真実の光が差し込んで、正義の組織に変わっていくことを願って、お父さんは戦っていくから。


 どうか、この国から、事実を無視する異常な家事審判がなくなりますように、心から祈ります。

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